人口が減少し、超高齢社会に突入した日本では、介護を理由に離職する人の数は年間10万人程度で推移をしており、介護離職による経済損失は6,500億円という試算が経済産業省から出ています。実際に介護を理由に離職する従業員が増えていると実感している事業者もいるかもしれません。
労働力不足が大きな課題になっている今、介護を理由に優秀な人材を手放してしまうことは企業にとって大きな損失です。
今回は、介護離職の背景、そして介護離職を防止するためのヒントについて説明します。
参考:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について(平成30年9月 経済産業省)
介護離職者増加の背景
介護離職者が増加している主な要因には、どのようなものがあるでしょうか。
介護の担い手の不足
日本は1970年に高齢化社会、1995年に高齢社会、2010年に超高齢社会に突入し、2017年には高齢化率が約28%に達しました。急速な高齢化に加えて、少子化や核家族化による世帯人数の減少、生涯未婚率の増加などにより、介護を担うことができるのは自分一人という状況は珍しくなくなっています。
参考:
平成30年版高齢社会白書 1 高齢化の現状と将来像(内閣府)
平成29年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
人材と施設の不足
介護施設や介護人材の不足も介護離職の要因の一つといえます。2017年に福祉医療機構が行なった調査では、要介護3以上の被保険者が利用できる特別養護老人ホームの待機者数は1施設あたり平均117.3人、半数近くの施設が1年前と比較して待機者が減っていると答えているものの、多くの高齢者が入所を待っていることがわかります。また、2018年に行なった介護人材に関する調査では、64.3%の施設が不足していると答えています。
参考:
「特別養護老人ホームの入所状況に関する調査」の結果について (独立行政法人福祉医療機構)
平成 29 年度「介護人材」に関するアンケート調査の結果について(独立行政法人福祉医療機構)
介護離職の理由
2012年に厚生労働省が行なった、仕事と介護の両立に関する調査では、介護離職の理由として「仕事と『手助・介護』の両立が難しい職場だったため」が男女共に6割を超え、次に「自分の心身の健康状態が悪化したため」が続きます。
また、すでに離職した人が離職前に感じた仕事と介護の両立の不安については、「自分の仕事を代わってくれる人がいないこと」「介護休業制度等の両立支援制度がないこと」が約3割、「介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減ること」「労働時間が長いこと」が約2割、「介護休業制度等の両立支援制度を利用しにくい雰囲気があること」「介護休業制度等の両立支援制度の有無や内容がわからないこと」「相談する部署等がないこと、もしくはわからないこと」を1割以上の人が選択しています。
職場の理解や協力不足が離職に大きく影響していることがわかります。
参考:仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査(厚生労働省)
介護離職防止のヒント
前述の厚生労働省の調査では、離職時の就業継続の意向について、男女ともに5割強が「続けたかった」と答えています。また、離職後に「精神面」の負担が増した人が64.9%、「肉体面」の負担が増した人が56.6%、「経済面」負担が増した人が74.9%おり、離職者自身の負担の大きさが伺えます。
介護離職による企業の人材流出、また離職者の経済的負担の軽減を考えると、お互いにとってダメージを減らす方法を探ることが大切になってきます。
介護離職を減らすために、企業としてどんな取り組みができるでしょうか。
公的な支援制度を活用する
働く介護者の負担を減らすために国が設けている制度として、介護休業制度と介護休暇制度があります。
介護休業制度
要介護状態にある家族を介護する従業員が、介護のために休業ができる制度です。家族1人につき、93日間の休みを3回に分けて取得できます。取得開始日から2週間前までに事業者に申請し、一定の受給要件を満たしている従業員には復職後、介護休業給付金が支給されます。
介護休暇制度
要介護状態にある家族の介護や世話を行う従業員が、1日や半日単位で利用できる休暇制度です。1年で5日間(対象家族が二人以上の場合は10日)取得でき、有給か無給かは各企業の裁量で決まります。
介護休暇・休業が利用できる雰囲気作り
公的な制度を利用してもらうには、制度の理解、社内の雰囲気作りも大切です。
両立支援セミナーの実施
仕事と介護の両立支援についての社内セミナーを実施しましょう。従業員が介護に直面した際に人事労務担当者や管理職がとるべき対応、困ったときの相談先の案内、公的支援制度の利用方法などについて知ることで、働きながら介護することは決して不可能ではないという認識を職場全体で共有しましょう。厚生労働省が提供している、人事労務担当者向け、管理職向け、社員向けの資料を社内研修で利用することもできます。
相談窓口の設置と周知
両立支援に関する相談窓口を設置し、周知に努めましょう。「介護離職防止対策アドバイザー」を設けるのも効果的です。公的介護保険の仕組みや離職防止などに関する専門知識を有するアドバイザーが企業内にいることで、相談に対する従業員の心理的ハードルを下げることにもつながります。
参考:介護離職防止対策アドバイザーのいる会社(一般社団法人介護離職防止対策促進機構)
多様な働き方の導入
テレワークやフレックスタイムなど、多様な働き方を導入しましょう。働く場所や時間に柔軟性があれば、従業員の不安解消にもつながります。また、従業員が介護に関する不安や悩みなどを抱え込まないためには、上司や同僚の理解も欠かせません。企業が多様な働き方を推進し、利用する従業員が増えることで、職場全体で仕事と介護の両立に協力的な雰囲気ができることも期待できます。
2025年には、団塊の世代800万人が後期高齢者である75歳を迎えます。要介護または要支援に認定される人数が今よりもさらに増え、企業で管理職などに就いている50代が介護のために離職せざるを得なくなることが予想されています。企業の中核を担う人材の流出は大きな痛手です。2025年を迎える前に、介護離職を防止する取り組みを始めてみるのはいかがでしょうか。
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執筆は2019年3月1日時点の情報を参照しています。
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