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労働人口の減少が大きな課題となっているなか、技術や経験のある従業員の雇用を継続したいと考える経営者、シニア層を雇用したいと思っている事業者は多いのではないでしょうか。元気なうちは働き続けたいと思うシニア層も増えているようです。
今回は、高年齢雇用安定法の基本的な知識や、今後見込まれる改正内容について解説します。
高年齢者雇用安定法とは
高年齢者雇用安定法は、正式名称「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」といい、高年齢者の就業の機会の確保などを通じて、職業生活の充実が図られるように配慮することを基本理念とした法律で、1986年に成立しています。
この法律により、定年年齢が60歳を下回らないように努力することが、企業に対して努力義務として課されることになりました。
高年齢者雇用安定法は、1990年の改正により、定年後65歳になるまでの継続雇用が努力義務として課されました。また、1998年の改正により、これまで努力義務であった60歳の定年年齢が義務化され、60歳を下回る定年年齢の設定が全面的にできなくなりました。この改正は、公的年金の支給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決定したため、一定の年齢までの所得の確保という趣旨で、併せて改正されたものです。
さらに、2000年の改正においては、65歳までの雇用確保を努力義務とする形式は維持しつつ、定年後再雇用義務をさらに広げる形で、定年の引き上げと定年後の継続雇用制度の導入または改善などの「高年齢者雇用確保措置」を講ずることが、努力義務として規定されました。
その後、2004年改正において、努力義務であった65歳までの「高年齢者雇用確保措置」が義務化されました。講ずべき措置の内容も従来より拡充され、
(1)定年年齢の65歳引き上げ
(2)希望者全員対象の65歳までの継続雇用制度導入
(3)定年の定めの廃止
上記いずれかの措置を講ずることが義務付けられるようになりました。ただし、(2)について、労使協定で定める場合には、希望者全員を対象としなくてもよいという例外措置が設けられることとなります。
しかし、2012年改正において、労使協定により対象者を限定することができる仕組みが廃止されました。本人が希望する限りは継続雇用される制度を実施することが義務付けられ、現在のところ運用されています。
これまでの改正の歴史をまとめると下表のようになります。
高年齢者雇用安定法改正の歴史
なお、今後の政府方針として、希望する高齢者が70歳までの就業機会を確保するという仕組みが検討されています。この改正案が施行された場合、企業は努力義務として取り組まなければならなくなります。
検討の背景としては、高年齢者の就業率が上がっていることが考えられます。総務省の労働力調査によると、2018年の60歳から64歳までの就業率は68.8%となっており、10年前に比べて10ポイント以上上昇しています。
参考:労働力調査(基本集計) 平成30年(2018年)平均(速報)結果(総務省統計局)
また、令和元年版高齢社会白書によると、現在仕事をしている60歳以上の4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと答えており、実際に60歳以上の就業率は伸びています。就労意欲を持っている高年齢者のニーズに応えるとともに、60歳代の就業率が上がることで経済効果が期待できることから、高年齢者が意欲的に働ける環境を整えるための改正が検討されています。具体的に検討されている70歳までの就業機会確保の選択肢としては、以下のものが挙げられます。
- 定年廃止
- 70歳までの定年延長
- 継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
- 他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
- 個人とのフリーランス契約への資金提供
- 個人の起業支援
- 個人の社会貢献活動参加への資金提供
この改正案は、政府の掲げる「人生100年時代構想」の一環として、2020年の国会で審議される予定となっています。
参考:
・令和元年版高齢社会白書(内閣府)
・70歳雇用へ企業に努力義務 政府、起業支援など7項目(2019年5月15日、日本経済新聞)
高年齢者雇用安定法のメリットや課題点とは
高年齢者雇用安定法に基づく制度には、企業にとって、メリットとともに課題点が存在します。
メリットとしては、優秀な人材を自社で継続して確保できるという点です。企業の人手不足が進行している中で、就業意欲のある高年齢者は貴重な働き手となります。また、高年齢者の強みとして、豊富な経験や知識が挙げられます。これらを用いて今後を担う若い世代を育成するという重要な役割を担っています。
しかし、当然のことですが、人材を確保するにあたって、給与の支払いなどの企業側への負担が生じ、企業にとっての課題点となります。したがって、高年齢者を新たに雇い入れた場合や65歳以上の定年制度を導入した場合などに、企業に対して支給される助成金を活用し、高年齢者の就業の促進を進めていくことが推奨されます。
企業に対して支給される助成金には、主に以下のものがあります。
特定就職困難者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
60歳以上65歳未満の高年齢者などの就職困難者を、ハローワークなどの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる企業に対して支給される助成金です。
高年齢者雇用開発特別奨励金(生涯現役コース)
65歳以上の高年齢者を、ハローワークなどの紹介により、雇い入れる企業に対して支給される助成金です。
65歳超雇用推進助成金
65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換する措置を講じた場合などに、企業に対して支給される助成金です。
それぞれの助成金ごとに受給要件が異なるため、厚生労働省のウェブサイトなどで詳細を確認しましょう。
シニア世代を受け入れるために企業が準備しておきたいこと
シニア世代を受け入れるにあたって企業が準備しておくべきことがあります。まず、法律に定める義務を履行するために、企業内の制度を整備しなければなりません。前述のとおり、高年齢者雇用安定法によって定年年齢が60歳を下回ることは義務違反となるため、定年の定めをしている場合には、60歳以上となるように規定しなければなりません。
また、「高年齢者雇用確保措置」が義務付けられていることから、
- 定年年齢の65歳引き上げ
- 希望者全員対象の65歳までの継続雇用制度導入
- 定年の定めの廃止
上記いずれかの措置を実施する必要があります。企業内にこれらの規定がない場合は、新たに作成しなければなりません。
その他、シニア世代の働きやすい職場づくりをしていくことも望まれます。たとえば、職場の施設改善などを通して、シニア世代が働きづらさを感じないようにすることや、就業希望や体力などの個人差に応じて、多様な働き方ができるように、短時間勤務制度やフレックスタイム制などを導入することも考えられます。企業の状況などにより対応できる範囲はさまざまですが、個人の健康などに配慮しないことは、企業の安全配慮義務違反に問われる可能性もあることから、可能な限りの対応は必要であると考えられます。
政府の方針もあり、今後は、高年齢者の就業機会の確保に限らず、リカレント教育(学び直し)などの施策により、就業を促進していくことが見込まれています。企業側もその都度必要な対応が生じることが予想されるため、企業に関連する政策の動きなどを注視しておくことが重要となります。
執筆は2019年11月15日時点の情報を参照しています。
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