自然には逆らえない!? 中小企業の災害との付き合い方

毎年のように発生する自然災害が企業の経営にも影響を与えています。2019年は、前年・前々年の豪雨災害の影響で中国・九州地方を中心に天災を起因に倒産する企業が倍増しました。自然災害で最も影響を受けやすいのが中小企業で、倒産企業のほとんどが中小企業です。

自然災害から生き残るため、どのように備えておけばよいのでしょうか。ここでは、中小企業の事業者が知っておくべき日本の自然災害の特徴と対策のポイント、助成制度の活用方法について紹介します。

参考:天災被害倒産倍増 求められるBCP(2020年1月23日、ヤフーニュース)

日本が「災害大国」といわれる理由

平成26年版防災白書によると、日本は世界の0.25%ほどしか国土面積がありませんが、自然災害による被害額は17.5%と、世界の2割弱の災害が起きている「災害大国」です。これには地理的な特徴が大きく関わっています。

参考:平成26年版防災白書付属資料(内閣府)

風水害

日本は、風水害や土砂災害が生じやすい地理的特徴をもっています。アジアモンスーン地域に位置する日本は、梅雨や台風などの影響で年間降水量が世界平均の約2倍に達します。さらに、河川が短く急勾配なので水をためておく力が弱く、降った雨水が一気に流れてしまいます。

加えて近年は気象変動そのものが激しくなっています。気象庁によると、2019年は年平均気温が統計開始以来最も高く、台風は平年より多い29個の発生を数えました。異常気象は年々増加傾向にあるといわれており、地震に比べると死者は少ない一方で、経済的な被害は免れません。

参考:
平成18年版防災白書(内閣府)
意外と知らない日本の国土 短くて流れが急な日本の川(国土技術研究センター)
2019年の平均気温、歴代最高 気象庁(2019年12月23日、日本経済新聞)

地震・津波

日本の周辺には岩盤がぶつかりあうプレート境界が集中し、複雑な力がかかっています。海域のプレートのエネルギーが限界を超えて起きるのが「海溝型地震」と呼ばれるもので、規模が大きく、津波が発生し、広い範囲で大きな被害が起きやすくなります。

また、陸域の岩盤にたまるエネルギーが局所的に強くなって発生する地震は「直下型地震」と呼ばれます。人が生活する地面の直下で起きるため、規模が小さくても甚大な被害につながりやすくなります。

参考:地震のメカニズム(東京都防災ホームページ)

災害発生による中小企業への影響

では、実際に災害が発生するとどうなるのでしょうか。ハード・ソフトの両面で企業にふりかかる影響をみていきましょう。

ハード面での被害

社屋や設備などが直接ダメージを受けた場合、事業停止などの影響を受けます。建屋が壊れなくても、停電や断水などインフラが長期停止した場合も営業再開が厳しくなるでしょう。

また、浸水被害も深刻になります。数日たっても水が引かない場合も少なくありません。2019年の台風被害で、地下や1階に電源施設などを設置していたため水が引いた後も影響が残り、建物が長期に渡って機能不全になったニュースも記憶に新しいところです。

人的被害

通勤に関するトラブルはよく聞かれます。2019年の台風でも、交通機関の計画運休と企業の出社方針と間で混乱が生じました。また、突発的な地震が日中に発生すると、帰宅困難の問題も生じます。2018年の大阪府北部地震のときの交通機関の運行トラブルや、出勤困難者という言葉を覚えている人も多いのではないでしょうか。

さらに、本人や家族の負傷、家屋の被害などが発生した場合、長期に渡って勤務に影響の出る従業員も出てきます。

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中小企業に必要な災害への備え 七つのポイント

規模が小さい企業の場合、日常の業務を回すのに手一杯、防災にまで手が回らない場合も多いでしょう。ただ、最近では災害対策をとっておくことを契約の条件とする取引先もでてきています。防災対策は積極的に進めるべき社内投資ともいえるのです。

災害への備えでは、BCP(事業継続計画)の考え方が重要です。BCPは突然発生する危機的状況に対し、企業の存続のために最も重要なものを優先して守り、被害を受けても生き残ることができるようにする計画です。

BCPの考え方について、基本ポイントを7点紹介します。

ポイント1:従業員の勤務体制、連絡体制
従業員の安全確保と最低限の業務遂行ができるよう、安否確認や出社方針、連絡体制を決めておきましょう。

ポイント2:トップが不在の場合の代行順位
災害で経営者や役員が被災すると重要な意思決定に支障が生じます。トップがいなくてもすばやく判断するための代行順位を決め、責任と権限が移譲できるようにしておきましょう。

ポイント3:事業拠点の代替方法
事業拠点の耐震や浸水対策はもちろんのこと、事業所周辺一体が被災する場合もあるため、遠隔地で業務を代行する方法を確保することも重要です。部品や商品在庫の分散や、提携先との協定締結、出社しないで仕事ができるテレワークの導入など、さまざまな代替手段を検討しておくことをおすすめします。

ポイント4:インフラ停止や物流対策
特に重要なのは電力と通信手段です。耐震、浸水対策や、長期の事業停止に備えた調達方法を検討しましょう。また、従業員が泊まり込んで対応する場合は食料や飲料水、寝具などの確保も必要です。大規模な災害だと、最低でも3日分、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの想定範囲にいる場合は1週間程度の確保が必要といわれています。

ポイント5:複数の通信手段を確保する
断線や通信規制、電源喪失などにより、通常の電話は使用不可能になったり、極端に通信が悪くなったりしがちです。できるだけ多くの連絡手段を確保しておきましょう。

ポイント6:複数の手段でデータのバックアップをとる
インターネットを前提に業務を進めていると、通信が途絶えたとたん自社のデータでも入手困難となる可能性があります。こまめなバックアップが重要です。紙ベースや通信なしの環境で最低限のことができるよう、データの重要度を決め、セキュリティ管理をしっかりさせながら管理しておくことをおすすめします。

ポイント7:重要事業、優先業務を整理する
大規模災害の場合、長期に渡って業務水準が回復しない恐れがあります。廃業に追い込まれないよう、優先的に復旧する事業を決めておきましょう。BCPは企業会社としての生き残り戦略です。嵐に遭った船が積荷を捨てる作業に似ています。取引先や社内の部門に優先順位をつけることになり、反発を招く恐れもあるため、日頃から重要な経営戦略の一つとして方針をたてておきましょう。

参考:地方公共団体の事業継続・受援体制(内閣府)

中小企業向け補助制度などを活用しよう

中小企業の事業継続に関しては、国や自治体がさまざまな支援を行っています。うまく活用して災害対策をしっかり行っている企業だとアピールし、受注を増やすなどのビジネスチャンスに変えていきましょう。

中小企業庁 事業継続力強化計画認定制度

近年の大規模災害を受け、中小企業の基盤強化を目的とした中小企業強靭化法が2019年7月に施行されました。この法に基づく事業継続力強化計画を策定して認定を受けると、ロゴマークを付けてアピールできるほか、税制優遇や金融支援、補助金の加点などの支援も受けることができます。

事業継続力強化計画では、ハザードマップによるリスクの確認や避難などの初動対応、人的・物的対策や防災訓練などの項目を盛り込んで防災力の向上を図ります。

事業継続力強化計画のウェブサイトには、計画策定の手引きや中小企業の防災・減災投資促進税制に関する支援の情報も掲載されています。

参考:事業継続力強化計画(中小企業庁)

中小企業施策利用ガイドブック

さまざまな中小企業支援策をまとめた「中小企業施策利用ガイドブック」が中小企業庁から公開されています。被災してからの支援だけでなく、これからの防災・減災対策に必要な施設整備に関する融資を受けられるものもあります。

参考:2019年度版中小企業施策利用ガイドブック(中小企業庁)

自治体が進める補助金事業の活用

その他、都道府県や市町村が進める補助金事業もあります。各自治体のホームページを検索するほか、「補助金ポータル」のようなポータルサイトを活用し、関連する事業や地域を絞って調べてみるとよいでしょう。

なお、補助事業は年度単位で実施され、年度の後半は締切を過ぎたものが多くなります。ただ、毎年何かしらの事業が発表されますから、諦めないであらかじめ自社に合いそうな事業を探し、次年度に予定があるかを確かめて、準備を進めておきましょう。

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執筆は2020年2月19日時点の情報を参照しています。
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