ふっくらとしたうなぎ、国内外からセレクトされた古着、状態のよい中古の洗濯機……これらの共通点が何だかわかりますか。
答えは、どれも非接触が推奨されたコロナ禍をきっかけに、都市部などでブームを巻き起こしている「無人販売所」で取り扱われている商品であることです。なかにはたったの1年で全国に100店舗オープンさせた無人販売店もあるほどです。
参考:「24時間利用できる」いろんなお肉に新鮮な海鮮 急なお土産にも イマドキの無人販売所をご紹介(2023年2月12日、熊本放送)
ここでは無人販売への参入に興味がある人に向けて、無人販売の特徴からメリット・デメリット、はじめるうえで必要な知識まで説明します。
目次
- 無人販売とは?
- 無人販売が注目される背景
・無人販売を利用する流れ - 無人販売のメリット3つ
・(1)人手不足の解消・人件費削減につながる
・(2)24時間営業できる
・(3)顧客データを生かしながら店舗運営に取り組める - 無人販売のデメリット3つ
・(1)システムがダウンすると販売ができなくなる
・(2)盗難の恐れがある
・(3)初期費用がかさむ可能性がある - 無人販売をはじめる際に必要なこと
・必要なこと(1)資格・許可
・必要なこと(2)設備・備品 - 無人販売を成功させるためのポイント
無人販売とは?
無人販売とはその名の通り、商品やサービスを無人で販売するビジネスを指します。無人販売と聞いて食品を思い浮かべる人も少なくないかもしれませんが、家電や洋服、本などさまざまな商品が無人販売されているようです。
たとえば、食品の無人販売店でよく見られるのは、食品が陳列した冷凍ケースが数台並び、出口付近には決済端末が置かれているといった光景です。商品をお客様が自ら選ぶところは有人店舗と同じですが、お客様が誰にも監視されずに自身で会計を済ませるところが無人販売と有人販売の大きな違いです。いとも簡単に誰もが商品を手に取れてしまうため、万引き対策として監視カメラを設置しておくのが一般的です。
無人販売をしている店舗は「無人店舗」「無人販売店」などの呼称でも親しまれています。
無人販売が注目される背景
近年よく耳にするようになった無人販売ですが、注目されるようになったのはほんの数年前です。たとえば、2016年には中国で、無人コンビニエンスストアの「Bingo Box(以下、ビンゴボックス)」がオープンしました。中国では同時期にスマートフォンを使ったキャッシュレス決済が急激に浸透したこともあり、決済アプリで入店や決済をするビンゴボックスの存在はあっという間に受け入れられ、第1号店の開店からたったの半年で29都市、300店舗にまで拡大したそうです。
参考:半年で300店舗出店、中国の無人コンビニ「ビンゴボックス」。現地の状況は・・・(2018年3月26日)
当初は人件費の削減を狙って参入する企業が多かったですが、昨今では、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、接触を減らせることも大きな売りとなっているようです。ブームの波は広範囲に浸透しはじめており、最近では自治体主導の無人店舗や無人販売機も登場しはじめています。後者は台東区による食品ロス削減の取り組みで、賞味期限やパッケージ変更などにより破棄される予定だった食品を販売するために無人販売機を利用することを発表しています。
近年話題に挙げられることが多く、人気を集めているのは食品の無人販売ですが、商品はそれだけではありません。無人販売の事例をいくつか以下に挙げます。
食品
例:全国で430店舗展開している冷凍餃子の無人販売店「餃子の雪松」や、全国で160店舗展開しているお肉専門無人販売店「おウチdeお肉」
アパレル
例:東京都中野区で古着を無人販売する「ムジンノフクヤ」、埼玉県所沢市・東京都武蔵村山市・岩手県盛岡市で古着を無人販売する「秘密のさくらちゃん」
本
例:東京都武蔵野市にある古本を無人販売する「BOOK ROAD」、新潟市中央区にある「今時書店」
家電
例:東京都大田区にある「ゴジユウニ」
日用雑貨
例:東京都新宿区にある「SECURE AI STORE LAB」
参考:
・コロナ禍で増える「無人販売店」、窃盗相次ぐ…ラーメンなど17点入れ「料金箱で払うそぶり」(2022年12月11日、読売新聞)
・おうちdeお肉 公式インスタグラムアカウント
無人販売を利用する流れ
見張り役がいなく、お客様が自由に出入りし商品を手に取れるとなると、第一に浮かぶのは「盗難は起きないだろうか」ということかもしれません。まずは無人販売店の利用方法を見ていきましょう。おおまかには以下の通りです。
(1)入店、認証機がある場合はユーザー情報を読み込む
(2)商品を選んで現金またはキャッシュレスで決済する、あるいは自動販売機から商品を購入する
(3)退店
防犯カメラを設置することは最低限の防犯対策のようで、それ以上の取り組みはどれだけ予算を割けるかによって変わってくるようです。
たとえば先ほど例にも挙げた「BOOK ROAD」では店舗をガラス張りにして周りの目が行き届くようにすることで防犯対策に取り組んでいます。全国展開している「おウチdeお肉」では、レジまわりや入り口などに防犯カメラを4台以上設置しているそうです。
参考:
・24時間無人営業の古本屋「BOOK ROAD」、 お客さんが後を絶たない理由(三菱電機 Biz Timeline)
・よくある質問(おウチdeお肉)
一方、株式会社セキュアが運営する「AI STORE LAB」では、お客様に事前にユーザー登録をしてもらい、入り口では独自のシステムで顔認証をし、問題がなければ入店できる仕組みを採用しています。さらには購入した商品を手に取り退店をすると自動で決済がされる高度な技術を取り入れているようです。
どこまで徹底して防犯に取り組むかは店舗によって異なるといえるでしょう。防犯対策については、無人販売のデメリットの章で、事例を交えながら詳しく触れていきます。
最後に気になる決済方法ですが、以下のように受け付けているところが多いようです。
- 料金箱を設置し現金で回収する
- 自動販売機や券売機、自動精算機などを設置し、現金払いやキャッシュレス決済で回収する
- アプリやQRコードなどを通じてキャッシュレス決済で回収する
料金箱だと少し不安で、自動精算機を検討している場合には、「OneQR」のキオスク端末とSquareの決済端末を組み合わせた決済の受け付け方法がおすすめです(※)。さまざまなキャッシュレス決済が受け付けられるうえ、現金を扱う必要がなくなるので現金盗難の心配もしなくて済みます。
※:OneQRとSquareの決済端末を組み合わせた自動精算のご利用には諸条件があります。詳しくはこちらまでお問い合わせください。
無人販売のメリット三つ
無人販売は有人販売と比較すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
(1)人手不足の解消・人件費削減につながる
無人販売のメリットとしてまず挙げられるのは、省人化して店舗運営ができるという点です。たとえばコンビニエンスストアを例にとると、現在のところ、商品の補充や陳列には人員を要しますが、会計や接客を行うスタッフは不要となるため、人手不足解消の大きな一助になるといえるでしょう。また、スタッフを減らして店舗運営ができるので、人件費の削減にもつながります。小売業の人件費率は20%から30%といわれています。その半分以上を削減できるといえるでしょう。
(2)24時間営業できる
有人店舗となると人手との兼ね合いで24時間営業は難しいかもしれませんが、無人販売なら営業時間にとらわれずいつでも販売をすることができます。実際にセブン-イレブン・ジャパンは1980年代に16時間営業から24時間営業に切り替えたことで売り上げが2割増加したそうです。有人販売で24時間営業をすると労働基準法により深夜帯には割増賃金が発生しますが、そのようなコストを気にせずに売り上げを伸ばせるのは大きな魅力かもしれません。
参考:セブンイレブン/24時間営業は柔軟に対応も「売上減少リスク」を指摘(2019年4月5日、流通ニュース)
(3)顧客データを生かしながら店舗運営に取り組める
導入にはある程度の費用が必要になりますが、入店時の認証システムなどを利用することによって、顧客を特定し、店内でどのような行動をとり、何を購入したかなどのデータを正確に把握し、補充する商品発注のタイミングや、来店した顧客に合わせた店内のデジタルサイネージの表示内容の最適化など、より効果的な店舗運営を行っていくことが可能です。
この点では、有機・無農薬野菜にこだわったサラダが購入できる自動販売機の「SALAD STAND(以下、サラダスタンド)」がいい例かもしれません。サラダスタンドに搭載されているAIセンサーが自動販売機の周辺を通過する人数を計測し、人通りが少ない時間帯には価格を下げたりなど、フードロスの削減に取り組んでいるようです。
顧客データをどのように収集し、生かすかは店舗次第ですが、このような技術を活用することでロスを最小限に抑えつつ売上拡大も望めるかもしれません。
参考:
・有機・無農薬野菜にこだわったサラダの自動販売機「SALAD STAND(サラダスタンド)」が登場!特許出願中の”ダイナミックプライシング機能”を搭載予定(2020年11月10日、株式会社KOMPEITO)
・都市部に急増!?驚きの“無人販売所”(2022年4月15日、TBS NEWS DIG Powered by JNN)
無人販売のデメリット三つ
無人販売のデメリットもおさえておきましょう。
(1) システムがダウンすると販売ができなくなる
無人店舗は基本的にコンピューターを介したシステムを使って管理しているため、停電や機器の誤作動、システムのダウンなどによってトラブルが発生する可能性があります。
(2) 盗難の恐れがある
比較的強固なセキュリティーシステムを備えてはいても、人の目による監視がないことで、窃盗などが発生する可能性は否めません。過去には料金箱をこじあける人がいたり、支払うことを装って実は1円も支払っていない人がいたりといった事件も報じられています。被害を最小限におさえるためには対策は欠かせないでしょう。
たとえば古着を無人で販売する「ムジンノフクヤ」では、店員がいない分、見張られていることをよりお客様に意識してもらうために店内にモニターを設置し、防犯カメラの映像を流しているようです。徹底した防犯対策にはある程度のコストがかかりますが、このようにちょっとした工夫も防犯につながるでしょう。
参考:
・24時間店員がいない古着店…アパレルの常識を覆す「ムジンノフクヤ」に若者が殺到するワケ(2021年8月19日、Business Journal)
・開店1カ月目で黒字達成 「24時間無人」の古着店 店員不在でも支持されるワケ(2021年3月1日、ITmedia ビジネスオンライン)
(3) 初期費用がかさむ可能性がある
無人販売店は通常の飲食店のように厨房など調理設備が不要な分、工事費用などもかからず比較的安くはじめられる印象があるかもしれません。実際に株式会社テンポバスターズのウェブサイトには、500万円ほどで開業した餃子の無人販売店の例が挙げられています。
参考:【開業資金】無人餃子販売店が4カ月で7店舗をオープンすると(2021年11月22日、株式会社テンポバスターズ)
ただし顔認証システムやスマートロック、お客様が入店すると反応し従業員のスマートフォンに通知をするシステムなどを店舗に導入したいと考えている場合、当然ながらその分、初期費用も増えます。たとえば顔認証システムは50万円から120万円ほどの初期費用がかかるうえ、工事費用は別途かかることが多いようです。セキュリティーのために高度な技術を取り入れたい場合には初期費用や運用費用がその分かさむことを念頭に置いておきましょう。
少しでもコストをおさえるためには、以下のような補助金・助成金を頼りにしてみるのも一つの手です。
- 事業再構築補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 各自治体の補助金・助成金
また、無人の古本屋「BOOK ROAD」は店舗が2坪ということもあり、光熱費は月間で450円に収まっているそうです。食品を扱うと冷凍ケースが必要なため光熱費を節約するのは困難かもしれませんが、内装の設備はできる限り安価なものにし、自作してみるなどすると、初期費用を多少おさえられるかもしれません。
参考:
24時間無人営業の古本屋「BOOK ROAD」、お客さんが後を絶たない理由(2019年6月20日、ニューススイッチ)
無人販売をはじめる際に必要なこと
無人販売店をはじめるうえで必要なものをざっくり二つの項目に分けて説明します。
必要なこと(1)資格・許可
ここでは無人販売店でよく取り扱われる商品に絞って、必要な許可・資格を紹介します。許認可がないまま営業をすると重い罰則を課せられてしまうこともあるので、必ず事前に確認したうえで営業をはじめるようにしましょう。
野菜・果物の無人販売をする場合……
野菜や果物の販売には、食品衛生責任者の資格取得と保健所への届出の手続きが必要です。野菜や果物を加工して販売する場合には、営業許可が必要となります。ジャム、スイーツ、そうざいなど加工食品の種類によって必要な許可は異なるため、まずは管轄の保健所に相談するといいでしょう。管轄の保健所はここから見つけることができます。
冷凍食品を製造して販売する場合……
冷凍食品とひとくくりにはしていますが、どんな食品を取り扱うかによって必要な許可は異なります。たとえば、おそうざいに該当する食品を製造し、その食品を冷凍にして販売する場合「冷凍食品製造業」の営業許可が必要になります。おそうざいに加えて、お菓子や食肉、水産品などの冷凍食品を製造販売する場合には、「複合型冷凍食品製造業」の営業許可取得が必要です。
それぞれの許可には満たさなければいけない基準があり、必要な設備などが揃っていないと営業許可が下りない恐れもあります。販売する食品が決まったら東京都福祉保健局が公開している「改正食品衛生法の営業許可と届出」などを参考にしたり、管轄の保健所に相談したりするといいでしょう。
他社が製造した冷凍食品を無人で販売する場合……
他社の冷凍商品を並べて販売するだけなら営業許可は必要ありません。以前までは届出の提出も要りませんでしたが、食品衛生法の改正により現在は管轄の保健所への届出が必須となりました。
参考:営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報(厚生労働省)
自動販売機から販売する場合……
自動販売機での販売は、調理機能があるかどうかで必要な手続きが変わってくるようです。調理が不要な場合でも、冷凍食品や冷蔵食品、常温でも保存期間が短いものに関しては営業届出が必要です。詳しくは静岡県浜松市のホームページの情報もご参考ください。
古着や古書を販売する場合……
メルカリなどのフリマアプリで使い古した洋服や道具を販売する際には許可は必要ありませんが、転売を目的に買取をする場合には「古物商許可」が必要です。取得をし忘れたまま営業をはじめてしまうと古物営業法違反として「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」を課せられることもあるので、取得にどのような手続きが必要かは前もって確認しておくといいでしょう。
参考:古物商許可申請(警視庁)
必要なこと(2)設備・備品
無人販売をはじめると決めたら、オープンに向けて着々と設備を整えていかなければいけません。何を販売するかによって用意するものは少しずつ異なりますが、無人販売店で必要な設備・備品は主に以下の通りです。
- 防犯カメラやクラウドカメラ、液晶モニター、遠隔監視機能、録画装置など
- 顔認証システム
- 商品を並べる什器や冷凍・冷蔵ケース
- キャッシュレス決済システム、決済用のタブレット端末など
- 自動精算機
- 料金箱
- スマートロックシステム
など
無人販売を成功させるためのポイント
運営者にとっての無人販売の魅力の一つは、通常の飲食店や小売店のようにその場にいる必要がないことでしょう。ただ、店舗によっては、接客を必要最低限におさえながらバックルームなどに常駐し防犯に取り組む、モニターを用意しお客様は必要に応じて質問ができる「遠隔接客」を取り入れるなど、完全に無人に振り切らない運営のしかたを取り入れているところもあるようです。
どのようなサービスをお客様に提供していきたいのか、万引被害などで大きな損失が発生しないためにはどうすればいいのか、売上拡大により貢献してくれる運営方法は何かなどを模索しながら、広い視野で考えてみるといいかもしれません。
Square導入のご相談は営業チームに
Squareサービスの導入を検討中のお客さまに、営業チームが導入から利用開始までサポートします。イベントでの利用や、複数店舗での一括導入など、お気軽にご相談ください。
もともとは人件費の削減を大きなメリットとして掲げていたものの、近年ではコロナ禍の影響を受けて非接触での買い物ができることから、さらなる注目を集めている無人販売。この記事では最近話題に挙げられている食品以外にも、さまざまな商品を無人で販売できることがわかったかもしれません。無人販売をしたい商品が決まったら、今度はどのような防犯対策を取り入れるか、運営方法はどうするのかなどをクリアにし、一歩ずつ準備を進めていきましょう。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2020年2月25日時点の情報を参照しています。2023年3月7日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
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