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前払費用とは?前払金との違い、消費税の取り扱いや仕訳例

公開日:2023/06/30

取引先や関係先と継続的に付き合う中で、代金を前払いすることもあります。前払いをした際の会計処理では、前払費用の勘定科目を使用します。

しかし、前払金や前渡金など、名前が似ている勘定科目があり、前払費用との違いに迷うこともあります。また、消費税の課税事業者の場合は、前払費用の消費税の取り扱いについても注意が必要です。

ここでは、前払費用の内容や前払金との違い、消費税の取り扱いなどについて解説します。

前払費用とは?

前払費用とは、継続しているサービスへの支払いのうち、まだ提供を受けていない部分を現した勘定科目です。

前払費用について、「企業会計原則」や「中小企業の会計に関する基本要領」では、つぎのように 記載されています。

・「企業会計原則注解」注5:「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価」

・「中小企業の会計に関する基本要領」:「決算期末においていまだ提供を受けていないサービスに対して支払った対価」

実は、会計上、経費にできるタイミングは原則、モノの引き渡しやサービスの提供が完了した時点です。お金のやり取りがあったとしても、まだ、サービスの提供が終わっていない時点では、代金の支払いを経費にすることができません。そのため、経費科目ではなく、前払費用勘定を使って会計処理を行います。

前払費用で処理する支出の例として、以下のようなものがあります。
・前払いしている保険料
・前払いしている家賃や地代
・機械やソフトウェアなどリース料で前払いしているもの
・年払いの会費

前払費用と前払金(前渡金)の違い

前払費用と前払金(前渡金)の違いは、継続したサービスに対する代金の前払いかどうかです。継続したサービスに対する代金の前払いの場合は「前払費用」、そうでない場合は「前払金(前渡金)」を使います。

例えば、家賃や保険料、リース料などは一度限りではなく、継続してサービスの提供や支払いが発生します。そのため、これらに対する前払いは「前払費用」科目を使って会計処理します。

一方、モノを購入した場合、例えば、パソコンを購入した場合は、提供はその一度だけで継続性はありません。継続性のないものに対する前払いは「前払金(前渡金)」科目を使って会計処理します。

前払金(前渡金)の例として、商品や固定資産などのモノの購入、修繕費や宿泊代などのサービスの提供に対する前払いが挙げられます。前払金と前渡金は、どちらの勘定科目を使っても、意味は同じなので問題はありません。

前払費用と長期前払費用の違い

前払費用と長期前払費用の違いは、前払いをしている期間の長さです。継続するサービスへの前払いのうち、決算日から1年以内に経費になる部分が「前払費用」、1年を超えて経費になる部分が「長期前払費用」になります。

前払費用はいずれ経費になる勘定科目です。経費は利益に影響を与えるものであるため、投資家や銀行などの利害関係者にとって、いつ前払費用が経費になるのかは、重要な関心事です。

そこで、決算日から1年を超えるかどうかによって「前払費用」と「長期前払費用」に分け、財務諸表(貸借対照表)に表示します。前払費用は「流動資産」区分、長期前払費用は「投資その他の資産」区分に表示されます。

資産を大きく流動区分・固定区分と分けると、

資産や負債は、大きく流動区分と固定区分に分けて財務諸表に表示するのがルールとなっています。流動と固定を分けるルールのひとつに「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」があります。これは、決算日から1年以内に決済されるものは流動区分、1年を超えるものは固定区分とするものです。

前払費用は、1年基準(ワン・イヤー・ルール)にしたがって流動区分となります。長期前払費用は固定区分の「投資その他の資産」区分となります。「投資その他の資産」は固定資産の中でも、有形固定資産や無形固定資産にならないもののことです。

なお、前払費用と長期前払費用を分ける際の基準日は、支払日ではありません。あくまで決算日です。同じ支払いでも、前払費用と長期前払費用に分けて会計処理する必要があります。

例えば、3月決算の会社で、1月に2年分の保険料24万円(月1万円)を前払いしたとします。この場合、当期に支払った24万円は、当期末決算で次のように処理されます。

当年度  1月~3月分:当期の保険料(経費) 3万円
翌年度  4月~3月分:前払費用       12万円
翌々年度4月~12月分:長期前払費用     9万円
合計:          24万円

支払った保険料は、3つに分けて会計処理することになります。

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前払費用における消費税の取り扱い

前払費用における消費税の取り扱いは原則、会計処理と同様です。経費になる時期に、消費税の課税仕入れになります。

そもそも、消費税の課税仕入れになる時期は、モノの引き渡しやサービスの提供が完了した時点です。つまり、前払費用の時点では、消費税の課税仕入れにはなりません。消費税の税抜処理を行っている場合、前払費用は消費税部分を分けず、消費税込みの金額で計上する必要があります。

前払費用における消費税の取り扱いで注意したいのが、短期前払費用の特例を使っている場合です。短期前払費用の特例とは、次の要件をすべて満たす前払費用を支払時点で経費にできるというものです。

・継続的に提供を受けているサービスの前払費用であること
・決算日にはまだサービスの提供を受けていないが、1年以内に経費になる短期前払費用であること
・毎年、支払時点で経費に計上していること

例えば、3月決算の法人で、毎年1月から12月の家賃を1月に前払いしている場合、短期前払費用の特例を使うとどうなるか見てみましょう。

本来なら、当期の経費となるのは1月分~3月分だけで、4月分~12月分は前払費用として翌期の経費になります。しかし、短期前払費用の特例を使うと、1月の前払日に1年分の家賃を当期の経費にすることが可能です。

家賃は、毎年継続してサービスの提供を受けており、また、1年以内に経費になる短期前払費用であるため、毎年、支払時点で経費に計上すれば、この特例が使えます。

前払費用における消費税の取り扱いは原則、会計処理と同様であるため、短期前払費用の特例を使って当期に経費計上した前払費用は、当期の課税仕入れになります。

【参照サイト】
No.6165 前受金や前払金などがあるとき|国税庁
No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁

前払費用が資産の理由

前払費用は「流動資産」区分に、長期前払費用は「投資その他の資産」区分に該当します。前払費用、長期前払費用はいずれも資産の区分です。前払費用は後に経費になる勘定科目なのに、なぜ資産なのでしょうか。

そもそも資産とは、会社が所有する資本として価値のあるもの、もしくは将来会社に収益をもたらすものです。前払費用は、先にお金を支払って後でサービスを受ける、いわば「権利」と同じ意味合いを持つものです。権利とは、現金化できる資本として価値のあるものです。もちろん、将来会社に収益をもたらすものでもあるので、資産です。

つまり、前払費用は現金の前払いという意味だけでなく、権利という点で資産の価値を持つ勘定科目なのです。

前払費用の仕訳例

前払費用を使う場合の会計処理は原則、次の時点で仕訳が必要です。

・支出日
・決算日
・翌期首日

また、前払費用の会計処理には、様々なパターンがあります。各会計処理を見ていきましょう。

1.前払費用の基本的な会計処理

前払費用の基本的な会計処理には、3つのパターンがあります。同じ具体例を使い、それぞれの仕訳を見ていきます。

例)3月決算法人。1月に1年分の保険料12万円(月1万円)を普通預金から前払いした。当期の費用となるのは、1月分~3月分の3万円、翌期の費用となるのは4月分~12月分の9万円である。

基本的な会計処理1:支出日に全額を前払費用とする会計処理

このパターンでは、支出日に支払額の全額を前払費用に会計処理し、期末日や翌期首日にその会計期間の部分のみ、経費に振り替えします。

・支出日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 12万円 普通預金 : 12万円

・決算日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 3万円 前払費用 : 3万円

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 9万円 前払費用 : 9万円

支払日の借方勘定科目と、決算日、翌期首日の貸方科目を前払費用で処理することで、前払費用の残高は0円になります。

基本的な会計処理2:支出日に全額を経費科目で処理する会計処理

このパターンでは、支出日に支払額の全額を経費科目で会計処理し、期末日に翌期分を経費から前払費用に振り替えます。また、翌期首日には、その期分を経費に再度、振り替えします。

・支出日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 12万円 普通預金 : 12万円

・決算日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 9万円 保険料 : 9万円

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 9万円 前払費用 : 9万円

決算日に翌期分の保険料を前払費用に振り替えることで、当期分の保険料3万円のみ当期の経費になります。また翌期首日に振替処理をすることで、前払費用の残高は0円になります。

基本的な会計処理3:支出日に経費科目と前払費用を分けて処理する会計処理

このパターンでは、支出日にあらかじめ当期分を経費科目で、翌期分を前払費用で会計処理します。

・支出日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 3万円 普通預金 : 12万円
前払費用 : 9万円  

・決算日の仕訳

仕訳なし

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 9万円 前払費用 : 9万円

支出日にあらかじめ当期分を経費科目で、翌期分を前払費用で会計処理しているため、決算日には、仕訳をする必要がありません。翌期首日に振替処理をすることで、前払費用の残高は0円になります。

上記3つの基本的な会計処理は、どれを選択しても問題ありません。会社に合ったやりやすい方法で、仕訳を行ってください。

ただし、財務成績や経営成績などについて前期比較や三期比較など、複数年度の比較を行う場合に影響が出ないよう、一度選んだ会計処理は特別な事情がない限り、毎期継続するようにしましょう。

2.短期前払費用の特例を使う場合

短期前払費用の特例は、一定の要件を満たす場合、前払費用を含めた支払額の全額を、支払日に経費にできるというものです。

上記の具体例で、短期前払費用の特例を使う場合の仕訳は、以下のようになります。

・支出日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 12万円 普通預金 : 12万円

・決算日の仕訳
仕訳なし

・翌期首日の仕訳
仕訳なし

短期前払費用の特例を使う場合は、期末日と翌期首日の仕訳は不要です。

3.長期前払費用を使う場合

1年を超えて前払いしている部分があれば、「長期前払費用」を使って会計処理を行います。基本的な会計処理1(支出日に全額を前払費用とする会計処理)で、長期前払費用が生じる場合の仕訳を見ていきましょう。

例)3月決算法人。1月に2年分の保険料24万円(月1万円)を普通預金から前払いした。当期の費用となるのは1月分~3月分の3万円、翌期の費用となるのは4月分~3月分の12万円、翌々期の費用となるのは残りの9万円である。

・支出日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 24万円 普通預金 : 24万円

・決算日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 3万円 前払費用 : 12万円
長期前払費用 : 9万円  

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 12万円 前払費用 : 12万円

・翌期末日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 9万円 長期前払費用 : 9万円

・翌々期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 9万円 前払費用 : 9万円

当期の決算日において、翌期分の保険料は「前払費用」として、翌々期の保険料は「長期前払費用」として、科目残高を残す必要があります。上記の仕訳をすることで、前払費用の残高が12万円(翌期分の保険料)、長期前払費用の残高が9万円と正しく処理されます。

翌期末において、長期前払費用は、決算日より1年以内の前払いになるため、前払費用に振り替えます。

また、支払日にあらかじめ、前払費用と長期前払費用に分けて仕訳をする方法もあります。
この場合は、次のような仕訳になります。

・支出日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 15万円 普通預金 : 24万円
長期前払費用 : 9万円  

・決算日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 3万円 前払費用 : 3万円

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 12万円 前払費用 : 12万円

・翌期末日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 9万円 長期前払費用 : 9万円

・翌々期首日の仕訳

借方 貸方
保険料 : 9万円 前払費用 : 9万円

4.消費税の課税事業者の場合

消費税の課税事業者の場合は、消費税のことを考えた仕訳を行う必要があります。消費税の処理は、税込処理をしている場合と税抜処理をしている場合で異なります。同じ具体例で、それぞれの会計処理を見ていきましょう。

例)3月決算法人。1月に1年分の事務所の家賃132万円(月11万円:本体価格10万円+消費税1万円)を普通預金から前払いした。当期の費用となるのは、1月分~3月分の33万円、翌期の費用となるのは4月分~3月分の99万円である。
※基本的な会計処理1(支出日に全額を前払費用とする会計処理)を使用

【税込処理の場合】

・支出日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 132万円 普通預金 : 132万円

・決算日の仕訳

借方 貸方
地代家賃 : 33万円 前払費用 : 33万円

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
地代家賃 : 99万円 前払費用 : 99万円

消費税の税込処理は、経費の本体価格と消費税額を分けずに仕訳を行います。

【税抜処理の仕訳】

・支出日の仕訳

借方 貸方
前払費用 : 132万円 普通預金 : 132万円

・決算日の仕訳

借方 貸方
地代家賃 : 30万円 前払費用 : 33万円
仮払消費税等 : 3万円  

・翌期首日の仕訳

借方 貸方
地代家賃 : 90万円 前払費用 : 99万円
仮払消費税等 : 9万円  

消費税の税抜処理は、経費の本体価格と消費税額を分けて仕訳を行います。消費税は「仮払消費税等」科目を使って処理します。決算日と翌期首日の仕訳では、地代家賃で事務所家賃の本体価格、仮払消費税等で消費税部分の金額をそれぞれ処理します。

保険料など、そもそも消費税のかからない(対象外や非課税)科目の仕訳は、消費税部分を分けて仕訳する必要はありません。消費税の対象外科目もしくは非課税科目を使う場合は、税抜処理であっても、税込処理と同じ会計処理になります。

参考サイト: 前払費用の勘定科目と仕訳例や長期・短期前払費用との違いを解説 - クラウド会計ソフト マネーフォワード

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前払費用に関するよくある質問

前払費用とは何ですか?

前払費用とは、継続しているサービスへの支払いのうち、まだ提供を受けていない部分を現した勘定科目です。

会計上、経費にできるタイミングは原則、モノの引き渡しやサービスの提供が完了した時点です。お金のやり取りがあったとしても、まだサービスの提供が終わっていない時点では、代金の支払いを経費にすることができません。そのため、経費科目ではなく、前払費用勘定を使って、会計処理を行います。

前払費用は流動資産に属します。

前払費用と前払金の違いは何ですか?

前払費用と前払金の違いは、継続したサービスに対する代金の前払いかどうかです。継続したサービスに対する代金の前払いの場合は「前払費用」、そうでない場合は「前払金」を使います。

例えば、家賃や保険料、リース料などは一度限りではなく、継続してサービスの提供や支払いが発生するため、「前払費用」科目を使って会計処理します。

一方、商品、固定資産などのモノの購入や修繕費や宿泊代などのサービスの提供に対する前払いは、「前払金」科目を使って会計処理します。例えば、パソコンを購入した場合は、提供は一度だけで継続性はありません。そこで「前払金」科目を使って会計処理します。

前払金と同じ意味の科目に前渡金がありますが、どちらの勘定科目を使っても問題ありません。

前払費用の具体例は何ですか?

前払費用とは、継続しているサービスへの支払いのうち、まだ提供を受けていない部分を現した勘定科目です。前払費用で処理する支出の具体例として、以下のものが挙げられます。

・前払いしている保険料
・前払いしている家賃や地代
・機械やソフトウェアなどリース料で前払いしているもの
・年払いの会費など


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