【商いのコト】駒沢の本屋に学ぶ、自分の“価値観”を貫く働き方

成功も失敗も、すべては学びにつながる。
ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

「結局、自分の欲求ファーストなんですよ。儲けようというよりは、自分の楽しさ優先というか。だからこの店をずっとやり続けようとも思っていないですし、大きくしようとも思ってないです。」(中村さん)

つなぐ加盟店 vol. 20
SNOW SHOVELING 中村秀一さん

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「働くことは、耐えること。」

これは、私たちが仕事に対して抱くリアルなイメージだ。仕事が楽しくて仕方ないと語る人はわずかで、多くの人が、時として自分の考えを曲げ、“辛さ”に耐えながらも懸命に働いている。

そんな中、自分が本当に楽しめることを追い求め、“力まぬ”生き方を体現している人がいる。東京・駒沢にある本屋『SNOW SHOVELING』の店主、中村秀一さんだ。中村さんが本屋を始めたきっかけは何だったのか、そして、力まずに楽しみながら働く秘訣は何なのか、話を伺った。

“ヒト・モノ・コト”と出会える本屋が東京・駒沢に

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『SNOW SHOVELING』は、店主の中村秀一さんが2012年9月に始めた本屋。“ヒト・モノ・コトとの出会いを楽しめる場所”をコンセプトにしている。

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店内に足を踏み入れると、どこかロマンチックで異国風な空気が漂う。中村さんを中心に会話が広がり、来客者同士が知り合える空間になっているのが特徴だ。自称“出会い系本屋”の同店では男女の出会いもあり、なんとこれまでに3組が結婚へと結びついているという。

本のジャンルはさまざまで、普段書店で目にしないものも多く置いてある。海外の本も充実しており、中村さん自ら年に2回海外に足を運び、選書しているそうだ。
店内には、本以外にも雑貨や衣類が。どこを見渡しても、来客者の目を引くものばかりで、時間が経つのを忘れて本屋の空間全体を楽しめるようになっている。

“気持ちよく働き続けられる仕事”って、なんだろう

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中村さんは、『SNOW SHOVELING』のオープン以前、デザイナーとしてのキャリアを歩んでいた。しかし、自身の仕事に情熱を燃やし続けることが困難になり、3年程で行き詰まりを感じてしまったのだという。

「向いてないと思ったんです。もちろん楽しいことも多いですが、受託仕事なのでやりたいことだけをやっているわけにはいかない。自分が気持ちよく働き続けられることをしたくなって、自己発信できる仕事をしようと思ったんです。やりたいと思える仕事を挙げていき、最終的に残ったのが本屋だったという感じですね。」

“自分が気持ちよく働き続けられる仕事をしたい”という思いから、本屋を始めた中村さん。もともと旅が好きで、海外にある“個性的な本屋”をたくさん訪れるうちに、本屋という空間に魅せられたのだという。

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▲ニューヨークのソーホー地区にあるマクナリー・ジャクソンというインディペンデント書店に併設するカフェ。(画像提供:SNOW SHOVELING)

「海外には、空間として工夫された個性的な本屋が多くて面白い。一方で、日本は置く本の種類で個性を出しているところはあるものの、全体的に似たお店が多いですよね。だから、“本よりも本屋というハコが好き”な僕が本屋を始めたら、空間全体で表現した面白い本屋ができると思ったんです。日本では本好きで本屋をやっている人が大半なので、どうしても本の知識比べになってしまい、色が出にくくなっています。」

物件選びが上手くいかなかったことで、“出会い系本屋”が生まれた

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海外で訪れた多くの本屋から得たアイデアをもとに、作りたい店のイメージを固めた中村さんであったが、物件探しで苦労してしまうことになる。

「最初は、大通りに面して光が差し込んでいる人が入りやすい本屋を理想としていたんですけど、予算内のいい物件に恵まれなくて。2年くらい探してもなくて、焦ってたんですよね。そんなときに、たまたま見つけたのがここだったんです。駅からも遠いし2階だったのですが、どんな場所であれ、とにかく本屋を始めることが最優先だと考えるようになっていたので、『もう決めちゃえ!』みたいな感じで決めてしまいました。」

思い描く“理想の本屋”を実現できなくなってしまった中村さんは、物件に合わせてコンセプトを練り直したという。そこで辿りついたのが、“出会い系本屋”というコンセプトだった。

「駅から遠くて分かりにくい場所にあるので、お店に来る面倒くささを解消する方法を考えたんです。人と本の出会いはもちろんですが、人と人が出会うような空間作りに注力しています。“異性と出会いたい場所No.1が本屋”という海外の新聞記事を見たことがあるのですが、確かに、結婚式で『駒沢の本屋で出会いました』って言えたら素敵だなと思って。」

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本屋はもちろん“本を買うための場所”だが、+αで別の楽しみがあると魅力が増し、たとえアクセスが悪くても足を運びたくなる。中村さんは本屋の+αの価値を、“人が出会う場”に見出した。

店内にある読書スペースは、知らない人同士が向かい合うような配置に。コミュニケーションが生まれやすくするための工夫だ。

「向かいの人が自分の知ってる本を読んでいたら、『それ面白いですよね!』と気軽に言える。そんなコミュニケーションが生まれたらいいなと思って、店を運営しています。僕が会話を始めて、知らないお客さん同士をつなげることもあるので、スナックのママの仕事に近いかもしれません(笑)。」

店内を見ると、当初の構想とは大きく違った店になっていることは容易に理解できる。それでも魅力的な店になったのは、与えられた空間を見事に活かすことを可能にした、中村さんが持つ柔軟性の賜物だろう。

たとえ本が1冊も売れなくても、お店は“やっていける”

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本屋は現在不況の一途をたどり、毎年多くの店舗が閉店を余儀なくされている。
そんな中、『SNOW SHOVELING』はどのように経営を成り立たせているのだろうか。話を伺うと、収益を“本以外”から得る仕組みが明らかになった。

「本が1冊も売れなくても、経営が成り立つ仕組み目指しました。結論から言うと、営業時間外に収益を生み出しています。例えば、レンタルスペース。ファッション誌で文化っぽいぺージの背景を撮りたいときや、知的な人達が対談するときなど、需要はあるんです。依頼が月に何本か入ったら、家賃と自分の給料を払えるのかシュミレーションをして、今のところある程度は現実になっているんですよ。」

その他にも、本屋の空間を作る“空間ディレクション”や、店舗装飾、アパレルショップなどに置く本棚を作る“ブックコーディネーター”の仕事をして、たとえ本が1冊も売れなかったとしても経営が成り立つ仕組みを模索し、それが現実に近いところまできているという。

デザイナー時代よりも収入が下がっているという中村さんだが、今の生活は幸せなのだそう。

「人間はやっぱり、年収に縛られすぎだと思うんです。『年収〇〇万だから、その中でやり繰りしなくちゃいけない』となってしまいがちですが、自分にいくらにお金がかかるかを知ってしまえば、あとはどんぶり勘定でやっていけます。月にどれだけの支出があるのか考えて、それに合う働き方をした方が、トータルで見た時に幸せな人生を送れる気がしますね。今、僕は幸せです。」

働き方に悩む人へ「自分の感受性くらい、自分で守れ」

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“年収に縛られすぎだ”という中村さんの言葉通り、給料で仕事を選んだ結果として他のさまざまなものを犠牲にし、『自分は一体何のために働いているのだろう』と悩んでいる人は多くいる。

働き方や生き方に悩む人への処方箋となるような本はないのだろうか。
中村さんに伺うと、ある1つの詩を紹介してくれた。茨木のり子さん作『自分の感受性くらい』だ。

「自分が持つ価値観にそぐわない生き方をして悩む人の背中を押してくれる詩です。最後が、

『自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ』

という言葉で締めくくられているのですが、怒られているのにすごく嬉しくなるんですよ。自分で守らなきゃいけないんだって、気づかされるし、励まされる。言葉の力を感じる作品ですね。悩んでいる人にはぜひ読んでほしいです。」

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▲本が封筒に入っているため、中身は買ってからのお楽しみ。封筒に書かれたキーワードを参考に本を選ぶことで、本との“偶然の出会い”が生まれる。

重ねて、中村さんは“自分にとって大切な一冊に出会うこと”の重要性について語る。

「小説であれエッセイであれ、百科事典であれ、何でもいいと思うんです。要はバイブルですよね。それを開けば、自分がリセットされ、平静を保てる。そういう本が1冊あるかどうかですごく変わってくると思うんです。『そんな本はない』という方も、もしお店に来ていただければ、僕がそのお手伝いくらいはできるかもしれません。」

“自分の欲求ファースト”スタイルが、仕事を面白くする

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『SNOW SHOVELING』の今後について、特に明確なビジョンを持っているわけではないと、中村さんは語る。

「小さい目標は常々あるんですけど、中・長期的な目標は全くないんですよね。だからこの店をずっとやり続けようとも思っていないですし、大きくしようとも思ってないです。結局、自分の欲求ファーストなんですよ。儲けようというよりは、自分の楽しさ優先というか。だから、『今これをしたいな』と思ったらすぐに実行できるような状況を作って、楽しく商いを続けていきたいです。」

やりたいと思ったことをすぐに実行できる状態にすること。
それは、本屋を始めた当初の想いである、“自分が気持ちよく働き続ける”ことを実現するための、理想的な形なのかもしれない。

“力まぬ”生き方の秘訣は、ブレない価値観にあり

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デザイナーから本屋店主への転身。
物件に合わせたコンセプトの変更。
そして、大きな目標を持たずに店を運営する仕事のスタイル。

インタビュー中に出てきたさまざまなエピソードを振り返ると、中村さんはいかなる状況でも柔軟性を駆使して、商い、ひいては人生に楽しみ見つけていることが伺える。この生き方を形作っているのは、ブレない“価値観だ。

自らが良しとする、“気持ちよく働き続ける”という価値観を根底に持ち続けているからこそ、肩の力を抜き、楽しめる方向へと臨機応変に舵取りができている。

『自分の感受性くらい 自分で守れ』

働き方に悩む人へ向けて紹介したこの言葉を、中村さんは見事に体現していることが分かるだろう。

人生に悩んでいる人は、『SNOW SHOVELING』に足を運んでみることをおすすめする。中村さんとの交流を通じて、“楽しく生きるためのヒント”を見つけられるはずだ。

SNOW SHOVELING
東京都世田谷区深沢4-35-7 2F
03-6325-3435

(つなぐ編集部)

写真:世古智正

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