介護業界では労働力不足が問われ始めて久しく、外国人がその担い手の一部となるかもしれないといわれています。外国人介護士の育成が始まって、約10年。受け入れの現状はどうなっているのでしょうか。
外国人介護士の雇用を検討している経営者に向けて、現状と雇用の際に考慮しておくべき点について紹介します。
これまでの経緯
EPAによる受け入れ
2008年に始まったEPA(経済連携協定)の枠組みのなかで、日本はこれまでにインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国から、介護士を目指す研修生を3,000名以上受け入れています。
このEPAにおける外国人介護福祉士候補者とは、協定を結んだ各国の候補者が日本で4年間、福祉施設で働きながら介護の知識や技術を学び、介護福祉士国家試験に合格すれば、有資格者として引き続き日本での就労が可能だというものです。
しかし、言葉の壁など多くの課題があり、この制度を利用した介護福祉士国家試験の受験者の合格率は50%程度。残りの半数は、一部は再受験を目指すものの、不合格の結果を受けて帰国をする人も多いようです。
外国人候補者は訪日前、訪日後で合わせて12か月から14か月の日本語学習を経て日本での就労を始めますが、1年前後の外国語学習だけでは仕事の現場や国家資格合格に必要十分な語学力をは身につけるのは難しいこともあります。
また、合格者の中にはホームシックや家庭の事情などで帰国してしまう人もいるようです。
参考:経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れ概要(厚生労働省)
技能実習制度の拡充
さらに、2017年11月から新しく、外国人技能実習制度の対象に介護職種が追加されました。
これまで開発途上国などから来た外国人技能実習生は、農業、食品、機械、繊維といった分野で受け入れが行われてきました。2017年11月、技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)が施行され、これまでの分野に加えて人的サービスでは初めて、介護分野での技能実習が開始されることとなりました。
参考:外国人技能実習機構
しかし、この制度は技術や技能の移転を通して、開発途上国の発展に寄与するためのものであって、日本の労働力不足を補うためのものではないとされています。また、残念ながら、この制度の不適切な利用が多く報告されており、さまざまな課題が残されています。
受け入れのメリット・デメリット
EPAによる外国人介護福祉士候補者を受け入れた施設の反応をみてみましょう。
候補者を受け入れた目的
・国際貢献・国際交流のため
・将来の外国人介護福祉士受け入れのテストケースとして
・職場の活性化のため
・介護職員の人員不足解消のため
候補者受け入れによる影響
・日本人職員への影響…約8割が「良い影響があった、もしくはどちらかと言えば良い影響があった」の回答
・職場環境への影響…約7割が「良い影響があった、もしくはどちらかと言えば良い影響があった」の回答
候補者に対する反応
・職員、患者・利用者・ご家族…約8割が「良好、もしくはおおむね良好な反応」
このほか、受け入れ施設にとって良かった点として、「教えることで自分も基本を見直すことができる」「異文化に触れることができる」などが挙げられています。
参考:公益社団法人国際厚生事業団「外国人介護士の現状~EPAによる受入れを中心として~」(2017年4月)
メリット
上記の点をみると、現時点では外国人介護士の受け入れは、労働力の確保というよりも、職場の活性化や文化交流などが主な目的やメリットのようです。
一方で、高齢者にとっては、外国人と接することで異文化を理解しようとしたり、外国語で話しかけようとしたり、といったことが刺激になる面もあります。また、海外からの移住者や海外生活の長かった日本人などの利用者への対応としても向いているといえるでしょう。
デメリット
デメリットとして、受け入れ施設の要件を満たさなければならない点が挙げられます。
EPAの介護福祉士候補者は、受け入れ施設で就労しながら国家試験の合格を目指し研修に従事します。受け入れ施設では、国家試験対策や日本語学習など、適切な研修を実施しなければなりません。
また、候補者と受け入れ施設との契約は雇用契約であり、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等以上の報酬を支払う必要がある」ほか、日本の労働関係法令や社会・労働保険が適用されます。
介護福祉士候補者受け入れ機関・施設の要件(抜粋)
・常勤介護職員の4割以上が介護福祉士有資格者であること
・候補者に対して日本人と同等以上の報酬を支払うこと
・国家試験受験に配慮した介護研修計画書を作成すること
・研修責任者、研修支援者の配置等研修体制を確保すること
これらの条件は、中小規模の介護施設の経営者にとってはなかなか難しいことかもしれません。
人材不足は解消できない?
日本の介護現場向けに実施された、「外国人介護士の受け入れ」に関するアンケート調査では、「外国人介護士をたくさん受け入れれば人材不足は解決すると思いますか?」との問いに「そう思わない」という回答が82.7%、という結果が出ています。
同調査では、自分の職場に外国人介護士が入職することに対しては「賛成」が56.8%。「介護をする上で大切な『真心のケア』は、国境を超えて利用者さんに伝わると思いますか?」という問いには、「伝わると思う」という回答が79.0%を占めています。このように外国人介護士の受け入れに対しては好意的な中で、8割の介護関係者が「外国人介護士によって人材不足は解消されないだろう」と答えています。
参考:介護職の8割「外国人介護士を受け入れても人材不足は解消しない」(株式会社ウェルクス)
最後に、ドイツの例を紹介します。
ドイツでも高齢化が進んでおり、人口の5人に1人が 65 歳以上です。ドイツの介護人材不足の背景には、慢性的な人材不足による労働環境の過酷さや賃金の低さなど、日本と同様の問題がみられます。国内の平均賃金に対し、専門介護士(3年間の養成教育を受けて取得する国家資格)の賃金は4割ほど低くなっています。
そうした人材不足を埋めるかたちで、ドイツでは高齢者介護の分野で就労している人の1割程度が外国人労働者です。政府は専門介護士の資格取得を奨励し、支援しています。ところが、EU諸国間では人材流動の自由度が高く、専門的なスキルを習得した労働者は、より高い賃金水準の国に移住してしまいます。
加えて、ドイツに働きに来ている外国人労働者たちの本国において、労働者の流出が高齢化に拍車をかけており、そのことが問題視され始めています。 そうした結果、2000年代初めから積極的に外国人労働者を受け入れてきたドイツにおいても、十分に人材が定着しているとはいえず、介護の人材不足解消には至っていないというのが現状のようです。
日本の場合も、日本語を習得したら、本国の日系企業に就職するために帰国してしまったり、より待遇のいい国に移住してしまったりと、せっかく育成しても定着しないという事態が起こっているようです。
根本的に、介護職における「きつい業務内容」「賃金が安い」「将来が不安」といったマイナスイメージを払拭するような雇用環境の改善を行わないかぎり、人材の確保や定着は難しいのでないかというのが、現場の声であり、専門家の考えであるようです。
参考:大和総研レポート「外国人労働力は介護人材不足を解消しない」(2017年4月)
従来、日本に留学・滞在して「介護福祉士」の国家資格を取得したあと、介護職として就労できる外国人は、政府間の提携によるEPAという枠組みの中だけの特例でした。
介護現場で現在、実際に働いている外国人の多くは、定住者(日系人など)、永住者、日本人の配偶者などです。さらに最近増加しているのは、入国管理局の許可を受けて制限付きで働く留学生です。
その中で、2016年11月に「出入国管理及び難民認定法」の改正案が成立。介護福祉士の国家資格を持つ外国人が取得できる「介護」に該当する在留資格が新設されました。
これにより、日本での定住・永住権をもたない外国人も、介護福祉士の資格を得ることによって、継続した在留が認められる可能性が出てきました。今後は、日本語学校と介護福祉士養成校や介護施設の連携によって、民間による外国人介護士の育成も進むでしょう。
これまでみてきたように介護現場の労働力不足はすぐには解消できませんが、在留資格の新設により、外国人を採用するチャンスは増えるかもしれません。
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執筆は2018年3月9日時点の情報を参照しています。
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