多くの企業で、生産性の向上や労働環境の改善などを目的とした「働き方改革」の導入が進んでいます。そんな中、注目されているのが「従業員体験」という言葉です。
従業員体験とは、どんな考え方なのでしょうか。企業が「従業員体験」の考え方を導入するメリットや取り組み方法などを紹介します。
世界が注目する人材活用のキーワード「従業員体験」
従業員体験とは、従業員が企業内で出会うすべての体験を指します。従業員体験を向上させることが、企業業績の向上に重要であるという考え方がアメリカで登場し、「エンプロイー・エクスペリエンス(Employee Experience、従業員体験)」として広まりつつあります。
主なポイントは、多様な人材が合理的に働けるようにするため、職場でいかに満足できる体験を従業員に提供できるかを重視するという所です。急成長を遂げている米企業で導入されていることから、世界的に注目されているキーワードになっており、企業と従業員の新たな関係性を作る考え方といえるでしょう。
世界最大規模の会計事務所であり、企業コンサルティングなどを手がけるデロイトトーマツコンサルティングが、人事活用の課題とトレンドをまとめた「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」では、世界が注目する人材・人事に関する10のトレンドのひとつとして、「従業員体験」をあげています。
参考:グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)
日本国内では、デロイトトーマツコンサルティング合同会社の「働き方改革の実態調査2017 」で、企業が働き方改革に取り組む目的として、「従業員の心身の健康の向上」や「従業員満足度の向上」など、従業員目線の「働きがい」や「働きやすさ」をあげる企業が増加しています。
参考:働き方改革の実態調査2017(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)
副業解禁やリモートワークなど、多様な働き方が推奨される時代になり、従業員は働き方を選べるようになりました。優秀な人材を確保するにあたり、企業はどんな体験を従業員に提供できるか、問われるようになってきています。従業員をひきつけ、良い人材に長く働いてもらうためにも、従業員体験を向上させ、選ばれる企業になることが、企業の成長につながっていくと考えられています。
入社から退職まで、企業でのあらゆる場所にある従業員体験
具体的に「従業員体験」とはどんなものなのでしょうか。
従業員体験には採用段階から退職までが範囲に入り、職場環境やコミュニケーションの改善のほか、新入社員が受ける研修や企業に馴染むための仕組みづくり、従業員の成長を支援する学習環境の構築なども含まれます。企業内で従業員が見て、聞いて、触れるすべてのものが含まれていると考えるとよいでしょう。
細かく見ると、上司に評価されたり、従業員同士で気持ちよい挨拶をかわせたり、ミスをした際に周囲から的確なサポートをしてもらえたなども含まれます。企業の方針が一貫し、わかりやすいメッセージになっていることも良質な従業員体験のポイントです。
従業員体験向上対策のチームとして、複数の部署がタッグを組んで従業員体験の向上に取り組んでいる企業もあるようです。
企業が従業員体験の向上に取り組むメリット
企業が従業員体験の向上に取り組むメリットにはなにがあるのでしょうか。
・自社への愛着が深まる
働いている従業員に対して、働きやすいようさまざまな工夫をしてくれる企業になれば、従業員は「大切にされている」と実感でき、自社に対する愛着が深まると考えられます。さらには、自社の成長のためになにができるか、を積極的に考える従業員が増えるかもしれません。
・離職者が減少する
仕事で使用する機器や仕事場の環境整備などのハード面だけでなく、コミュニケーションや評価制度などのソフト面で良質な体験ができる企業は、従業員にとって働き続けたいと思える企業です。コミュニケーションや制度への不満が減少すれば、その分離職者も減少すると考えられます。経験を積んだ従業員の離職は、企業にとって大きな課題です。離職率の低下は、従業員体験向上に取り組む大きなメリットになるでしょう。
・優秀な人材が集まる
従業員体験向上に取り組むことで働きやすい環境ができれば、新卒、中途問わず、採用希望者が集まりやすくなると考えられます。少子高齢化で人材確保が今後ますます難しくなると予想できる中、求職者に選んでもらえる企業になるためには欠かせない取り組みになるでしょう。
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従業員体験について実際に取り組むためには、何から始めて、どのように進めたらよいのでしょうか。
従業員体験で重視されることのひとつは、すべての従業員がひとつの体験に対し、同じように感じるわけではないという点です。人によってキャリアの中で目指すものも、人生で重視するものも異なります。そこで、従業員一人ひとりがもっている多様な考え方を考慮したうえで、それぞれの従業員にとって望ましい体験を描いていくことが求められます。
そのために、まず行うのは従業員に対する調査です。今どんな不満をもっているのか、不満要因はどんなところにあるのか、逆にどんな場面で満足を感じているのかなどを聞き取り、組織の課題を明らかにします。
次に、具体的な施策を立案するために、従業員の経験を把握していきます。その手法のひとつが「エンプロイー・ジャーニー・マップ 」です。応募・採用段階から退職までのさまざまなステップを設定し、それぞれの段階で従業員がどのような経験をし、どんな感情をいだくのかを図式化したものです。
そして、それぞれのステップで「どんな体験をしてもらいたいか」「どのように感じてもらいたいか」について、従業員の視点からの検討を行います。現在、各ステップで従業員が感じている心理状態と、目指す体験について比較し、そのギャップを埋めるための方法を考えます。
それぞれの施策は、一度決定すればよいというわけではなく、常に効果が出ているかの検証を行い、改善することが求められます。また、従業員が抱く感情は世代や経験などによっても異なってきます。個々人の傾向を観察しながら、デジタルツールを活用した研修を行ったり、体験型セミナーを導入したりするなどの変化が必要です。
さらに、一人ひとりの従業員が求めるものも異なります。たとえば、定期的な1対1のミーティング などを活用して個別の課題や不満などを把握し、それぞれに合わせた従業員体験を提供するような施策も必要になるでしょう。
企業としてさらに発展し、顧客に選ばれる企業になるためにも、今後さらに重要度が増す、従業員体験という視点。働く環境の整備にはコストがかかるかもしれません。しかし、このコストを投資と考え、企業の成長のために、じっくり取り組んでみてはいかがでしょうか。
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執筆は2018年10月9日時点の情報を参照しています。
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