安全と健康を確保せよ!健康診断の実施義務を徹底解説

労働基準法が、”労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない”として、労働条件の基準や労使関係における決まりを定めている重要な法律であるということは以前の記事労働基準法、守れていますか?今すぐ確認したい6つのポイントでお伝えしました。

今回は、労働基準法と密接な関係にある労働安全衛生法で定められている健康診断の実施義務についてお話します。この法律は、”職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的”として1972年に労働基準法にあった内容を独立させて拡充した法律で、第六十六条には、”事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない”とあり、従業員を一人でも雇っている事業者には健康診断の実施義務が課せられ、また、労働者(従業員)には健康診断の受診義務があります。

誰が対象?

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事業者は、以下の条件に当てはまる労働者に対して健康診断を受けさせる義務があります。

  • 常時使用する労働者(正社員と呼ばれる労働者)
  • 正社員の週所定労働時間の四分の三以上働くパートタイム労働者(※)

なお、厚生労働省は健康診断の実施が義務付けられていないパートタイム労働者も、正社員の所定労働時間の1/3以上3/4未満働くパートタイム労働者に対しては健康診断の実施が望ましいとしています。

(※)一週間の所定労働時間が正社員に比べて短い労働者をパートタイム労働者と呼びます。

参考:パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう!!(厚生労働省)

健康診断の種類と実施時期

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健康診断の内容と実施時期は、事業の種類によって異なります。

一般健康診断の実施時期

一般健康診断の場合、基本的に雇入れ時とそれ以降は一年以内ごとに一回定期的に健康診断を実施(定期健康診断)することが義務付けられています。

しかし、深夜業や有害物を取り扱う業務に常時従事する労働者(特定業務従事者と呼びます)を使用する場合、当該業務への配置換え時六ヶ月以内ごとに一回に実施する義務があります。

特定業務従事者に該当する業務について詳しくはこちら(労働安全衛生規則(以下、安衛則)第13条第1項)をご覧ください。

また、従業員を海外に六ヶ月以上派遣するとき、六ヶ月以上派遣した従業員を国内に戻す際にも健康診断の実施が使用者には義務付けられています。定期健康診断項目(後述あり)に加えて医師が必要と認める項目について医師による健康診断を受ける必要があるので注意が必要です。

一般健康診断の項目

雇入れ時健康診断と定期健康診断の主な項目は次の通りです。

  • 既往歴及び業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  • 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  • 胸部エックス線検査
  • 血圧の測定
  • 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  • 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
  • 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド)
  • 血糖検査
  • 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  • 心電図検査

しかし、定期健康診断については、身長や胸囲など特定の項目についてはそれぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときに限って省略することができます。一般健康診断の項目について詳しくは安衛則第四十三条、第四十四条を参照してください。

特別な健診項目が必要な場合

労働安全衛生法第六十六条二項では、”事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。”と定めており、有害な業務に常時従事する労働者に対し、原則、雇入れ時と配置換えの際及び六ヶ月以内ごとに一回、特別な健康診断(特殊健康診断)を実施する義務があります。

他にも、常時粉じん作業に従事する労働者にはじん肺健診の実施義務が、有害な物のガスや粉じんを発散する場所での業務で塩酸や黄りんなどが歯またはその支持組織に付着する可能性がある労働者には歯科医師による健診の実施義務があります。

特殊健康診断などは、それぞれの健診ごとに特別な健康診断項目が定められているので、該当する場合は都道府県労働局又は労働基準監督署にきちんと問い合わせをすることをおすすめします。

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実施場所と費用

健康診断を受診するための医療機関は基本的に事業者が指定することができますが、労働者が指定された医師による健康診断の受診を希望しない場合は、医師選択の自由が適用され、別の医師による健康診断を受けてその結果を事業者に提出することができます。

労働者に対する健康診断の実施は事業者の義務なので、健康診断にかかる費用は事業者(会社)負担となります。

健診実施後の措置

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事業者の義務は労働者への健康診断の実施のみではありません。事業者は、健康診断の実施後の措置として次のような取組事項が義務付けられています。

  • 健康診断の結果を労働者に通知すると同時に、特に健康の保持に努める必要がある労働者には医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければならない
  • 健康診断の結果に基づき、健康診断個人表を作成し、五年間保管しなければならない
  • 常時50人以上の労働者を使用している場合、労働基準監督署に健康診断の結果を報告しなけれなならない
  • 労働者の健康に異常があると診断された場合、健康のための措置について医師などの意見を受けなければならない。また、医師の意見を勘案し、必要があると認める場合、作業の転換や労働時間の短縮など適切な措置を講じなければならない

従業員に対する健康診断の実施義務はとても厳しく規定されています。健診実施後の事業者の義務ををないがしろにしていると労働基準監督署から勧告や指導が入る可能性があります。健診の実施義務を果たしていないとみなされると、事業者は50万円以下の罰金に処されるので受診すべき人数をしっかりと把握し漏れの無い管理を徹底しましょう。

健康を損ない働けなくなると、従業員は収入を得ることができなくなり、事業主は労働力を失うことになります。また、労働者に限らず、私たち人間にとって健康を維持することは何をするにも基本となる重要な要素です。法律で定められた義務だからという理由だけで健康診断を受診させるのではなく、労使共に人間として健康に気持ちよく働くことの重要さを自覚することで従業員の健診に対する意識や関心を高めることができるのではないでしょうか。

執筆は2017年7月6日時点の情報を参照しています。
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