自然災害の多い日本で「企業防災」は人命だけでなく、ビジネスそのものを救うキーワードとして重要性を増しています。水害、地震、雪害などは回避することのできない自然災害ですが、企業として日頃から防災対策を徹底しておくことで、災害から早く復旧できるだけでなく企業価値の向上につながることもあります。
生命の安全確保、二次災害の防止、地域貢献、そして事業継承という4つの要素から、企業防災の重要さと、実際の対策をする際の注意点を解説します。
企業防災とは
企業における災害対策を意味する「企業防災」は、ビジネスを支える経営資源を守るために日頃から備えておくことで、災害による被害を最小限に食い止めることを目標としています。
守るべき経営資源とは、従業員や社屋、情報だけではありません。その地でビジネスを続けていくためには、企業の成長基盤となる地域社会や顧客、取引先の安全にも配慮する必要があります。地域貢献という観点からも、企業防災のさらなる広がりが求められています。
企業防災のアプローチを大きく分けて、「防災」と「事業継続」の両面から説明します。
防災
災害が発生した際、何よりも優先されるのが従業員や顧客といった人命の安全です。さらに地域社会に対して、被害や二次災害を拡大させない努力や、災害からの復旧サポートなども企業の役割として求められます。
たとえば地震発生時に、店舗にいる全ての人の避難誘導をするためには、以下のような準備が必要となります。
・避難ルートや一時避難先、安全な退避方法の理解
・災害の種類やタイミングごとの行動計画表の作成
・定期的な避難訓練の実施
・従業員の啓発、情報の共有
・近隣の企業や住民との交流・連携
災害が起きてからでは間に合わない準備を、平常時から業務予定の一部に組み込んでおくことが、防災のアプローチの第一歩です。
事業継続
災害によって日常業務が中断したり生産量が低下したりすると、利益確保が難しくなるだけでなく、取引先や顧客との関係、そして従業員の暮らしにも影響が出る可能性があります。そのため経営者は可能なかぎり早くビジネスを再開し、通常の営業ペースを取り戻す必要があります。
災害下において、人命の安全は確保できたけれど通常業務を行うのが難しい場合、業務の再開の可否をまず検討し、再開が可能であればどの業務を優先すべきかを以下のように検討します。
・優先すべき重要業務の選別
・各重要業務の復旧にかかる時間の算出
・復旧の障壁(仕入れ、配送など)への対処
災害下で上記のような行動を取れるようにするためには、平常時に災害の種類や被害の大きさごとの事業継続計画(Business Continuity Plan, BCP)を作成しておくことが鍵となります。
営業時間中に災害が起きた場合、従業員を帰宅させるか会社で待機させるかといった判断基準の設定は、人命の安全に関わる課題であるとともに、事業継続の課題でもあります。防災と事業継続という2つのアプローチは密接に関わり合うものであるため、完全に別個に考えるのではなく総合的な判断が求められます。
災害の定義
災害対策基本法によると、災害とは「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑り、その他の異常な自然現象または大規模な火事もしくは爆発」などを指します。経営に携わる人は、事業所や取引先があるエリアが潜在的にどのような災害発生の可能性がある地域かをあらかじめ把握し、自治体が用意しているハザードマップなども必ず確認しておく必要があります。
また、従業員の居住するエリアや通勤経路についても考え、災害時に帰宅困難者が発生する可能性や人数を予測しておくことで、非常用持ち出し袋の中身や備蓄品の数などを決定しやすくなります。
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企業防災を徹底するにあたり、具体的にどのように計画や行動を進めるべきでしょうか。あらゆる災害に対応するために、壮大な企業防災計画が必要なように感じられますが、今すでに実践している災害対策を見直し、不足を補うことから始めることもできます。
政府が主導する防災基本計画では、災害時に企業が果たす役割を以下の4つに分類して説明しています。各項目において取るべき行動や優先順位は業種や地域によって異なりますが、この4つのポイントに分けて考えると企業防災を実践しやすくなります。
1, 生命の安全確保
従業員や取引先、顧客のほか、近隣住民の安全の確保は、企業防災として第一に考えるべき点です。前述の「防災」のアプローチの中で最も重要なポイントでもあります。災害規模の大小に関わらず、いざというときに経営者だけでなく従業員全員が人命優先の判断をできるよう、教育の徹底が必要です。
安全な避難の実施だけでなく、ケガ人が出た場合に会社や店舗内でどの程度の応急処置が可能か、持病を持つ人や体の不自由な人にどういった対応が可能かといった視点からも防災計画を検討しましょう。
2, 二次災害の防止
地震の後に起こる津波や地割れ、液状化現象のように、1つの災害の発生に連鎖して起こる災害を二次災害と呼びます。また、震災時のガス管の爆発、火災、建造物の倒壊による事故、救助隊の遭難なども二次災害で、時には一次災害を上回る被害を出すこともあるため警戒が必要です。
津波や土砂崩れの可能性のある危険エリアからの避難、火を使っている場合にはガス漏れや火災への注意、アイロンやストーブなど高温の電気製品の使用を一時中止、倒壊する恐れのある建物やガラスからの退避などを徹底することで、二次災害を最小限に食い止めることができます。災害発生時、生命の安全が確保できたらすぐに二次災害の防止に意識を向けられるよう、計画しておきましょう。
3, 事業の継続
前述の通り、災害発生後に可能なかぎり最短時間で通常営業を再開することが、事業継続の最大の目標です。
大きな災害が起きた際には、工場設備への被害で医療品の製造が遅れて患者の需要を満たせない、道路の寸断などで食料品が地域住民に届かない、水道や電気などのインフラが利用できないといった事態も引き起こします。事業の継続については、災害の長期的なビジネスへの影響の試算、従業員や取引先への影響の予測とともに、災害による業務機能の低下が引き起こす社会的インパクトの予測をした上で、防災計画を立てましょう。
4, 地域貢献・地域との共生
ビジネスの業種、業態、地域の特性によっても違いが出やすい部分ですが、地域社会に対して「自社だからできること」を考えてみましょう。社用車や重機を活用する、広い駐車場スペースを提供するなど、自社の使えるリソースのうち地域に不足しているものを提供することが地域貢献として重要です。
食品や飲料メーカー、食品店などが災害時に一般市民に対して自社商品の無償提供を行ったという報道を見聞きしたことがある人もいるかもしれません。あらかじめ企業防災の計画の一環として、非常時に従業員が自己判断で適切な行動を取れるよう指導されていた結果だといわれています。時間との勝負が人命を左右することもある災害下で、上司から指示待ちでなく従業員1人ひとりが的確な判断をできるように育てることが、企業としての地域貢献につながります。もちろん商品の無償提供そのものは直接的には利益につながらない行為ですが、社会貢献度の高い企業は社会からの評価も高まり、支援者や顧客増加につながりやすくなります。
予想もつかない出来事が起きたときに最善の行動ができるよう、予測を立て、日頃から万全の対策をしておくことは、マネジメントの重要な側面です。防災管理についても同様に、災害が発生したときにこそビジネスの力が試されることを意識し、「最悪を想定して最善を尽くす」という精神で従業員への教育を含めた企業防災を徹底しましょう。
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執筆は2018年9月11日時点の情報を参照しています。
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