小雨の銀座、数寄屋橋から銀座6丁目へ向かうと、とあるビルのエントランスには、みごとに咲き誇るバラの花が飾られていた。
今週は静岡・三島と銀座を拠点に内閣総理大臣賞受賞者やパリの老舗花店など、数々の著名フラワーデザイナーとコラボする市川バラ園2代目・市川明彦さんの「美の演出」の世界にせまる。
市川の花びらをたどって
市川バラ園メゾン銀座店の扉を開くと、さまざまな種類のバラと、三島のバラ園から銀座店へ駆けつけてくれた市川さんが出迎えくれた。
「こちらに飾られているバラは、ここで生まれ、ここにしかない市川バラ園のオリジナル品種なんです」そう説明してくれたのは、市川明彦さん。
▲市川バラ園とは、父の市川恵一さんが1965年に静岡・三島ではじめたバラを専門に栽培するファーム。2013年よりオープンしたメゾン銀座では、国内外の有名デザイナーも愛用する同園の切り花を実際に見て買い求めることができる。
市川バラ園のはじまりについて聞いてみると、
「もともと最初は普通のバラを作ってたんですが、父は無類の冒険家。いつの間にか、自分で品種改良や育種を始めたんです」
ちょうど店内にも、フラメンコドレスのように波打つ赤の花弁を持つ市川バラ園作出の「アンダルシア」というバラがあった。市川バラ園の根幹は、このような他では見られないオリジナルローズの育種にある。
また、市川のバラは、「アムルーズ(仏語で恋人)」や「ルールマジク(英語でマジックアワー)」などロマンティックな名前が多い。これも業界としては珍しいそうだ。
「花市場の世界は男社会。だから、今までは男性が分かりやすい名前をつける傾向がありました。でも、お花を受け取るのはほとんど女性ですよね」
そうして、父の恵一さんとともに市川バラ園を運営するようになった市川明彦さんは、新しいバラが誕生するたびに、貰い手の想像力をかきたてる由来をスケッチした。
たとえば、「ジル」という種類は妖精の名前を導入したという。すると女性のお客さまやデザイナーから「花のイメージが広がって、素敵ですね」と喜んでもらえた。さらに市川バラ園では、花束の注文を受けると、名前の由来が書かれたローズカードをつけている。
「花束には何種類かのバラが入っているので、受け取った方にもそれぞれの名前が分かるようにしています。夢見る名前であれば、その話題だけでも話が盛り上がりますよね。私たちも、貰い手がバラを手にした瞬間に広がる気持ちに忠実でいたいのです」
今や業界屈指のデザイナーやフローリストから注目を集める市川バラ園の花たち。しかし、お花は生もの。そのため市川ローズがふんだんに置いてあるのは三島本店のみだった。
東京に店を構えることを検討した市川さんは知人に相談をすると、「思い切って銀座にお店を構えてはどうか」というアドバイスをしてくれたという。
「話を聞いたときは、“いやいや、無理でしょう”と言っていたのですが、実際に銀座に行ったらトントン拍子で決まっていったんです。タイミングが合ったのでしょうね」
市川のバラが生み出す“笑顔の仕掛け”
こうして2013年10月に「市川バラ園 メゾン銀座」がオープンした。今までのファンはもちろん、市川バラ園を知らない人にも、幅広く見てもらえるようになった。
「美しいバラ、香り、そのシーンで皆さんを笑顔にしたいので、今までどおり、今まで以上に一つひとつ丁寧にバラをつくり、皆さんに見て頂きたいと思っています」
販売したら終わり、ではなく“市川バラ園のバラは良かったから、また使いたい”とお客様が当店に対してさらに期待を持ってくださるよう、工夫をこらす市川さん。
そんな市川さんは、次なるステップを見据えている。
「今後もさまざまなデザイナーとさらにコラボしていきたいと考えています。市川バラ園のバラをそれぞれの感性で選んでいただき、作品になることでさらに花を昇華してもらえたら、また新たな“美しいとき”が誕生するでしょう。
人は水と空気と一緒に、美しいものも必要なんです。それが、うちではバラなんです。市川バラ園では、バラを通して、皆さんに“笑顔の仕掛け”を提供し続けていきたいですね」
これからも市川親子の心踊る花弁で、まだ見えない美が演出されるときが待ち遠しい。
市川バラ園
三島本店:静岡県三島市玉川37-2
Tel: 055-975-9141
メゾン銀座店:東京都中央区銀座6-5-14ブレス銀座4F
Tel: 03-6274-6697
Square編集部
写真:Cedric Riveau
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