【STORE STORY】憧れの職業へと価値観を変えてしまったブリフトアッシュの靴磨き革命

東京、青山の骨董通りの奥にある雑居ビルの2階に、まるで会員制の秘密バーの様相。お世辞にも入りやすい店とはいえない。思い切って扉を開けると、奥のカウンターの向こうではビシッとスーツを着たオーナーの長谷川裕也さんが、シューブラシを華麗に動かしながら靴を磨いている。手にしているのがシューブラシではなくカクテルシェイカーなら、ブラシを当てているのが靴ではなくグラスなら、バーテンダーに見紛うほどだ。

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靴を磨いてもらうといえば、自分は靴を履いたまま、路上で短時間でサッと済ませるようなイメージを、多くの人がこれまで抱いていたはず。しかし8年前にこの店がオープンしてからこっち、靴磨きという行為があらためて見直され、その職業が徐々に格上げされてきている感がある。ブリフトアッシュは正統な靴磨きの店でありながら、その既成概念を変え、その存在価値を変えてしまったのだ。「そのために、この店をやっているようなものですね」と長谷川さん。

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内部をアルコールで拭き、コバを削り、インクを塗り、革の表面は鏡面のごとくピカピカに磨き上げる。一足仕上げるのに、たっぷり40分はかかる。たんなる靴の掃除を超越して、新品以上にしてしまう。

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一連の作業のなかでも特に目をひくのは、素手でクリームを塗り込んでいく工程。「体温で溶かしてなじませることで、クリームを革に浸透させられるんです」。革はもともと動物の皮膚なのだから、なるほど、肌との親和性は高いはずである。長谷川さんの手がきれいなのも、もしかしてクリームのおかげ? 「そうなんです。革にいいクリームということは当然、肌にもいいわけで」。ちなみに店で使っているクリームは、化粧品メーカーに頼み、3年かけて開発した。化粧品のノウハウを使って実現したオリジナルだ。

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師匠のいない長谷川さんは、自ら調べ、試行錯誤を重ねながら、自分のやり方を構築してきた。その確固たる実績が、店を成功させている理由のひとつなのだと思う。お客さんにアイデアやアドバイスをもらってきたおかげと謙遜するが、それを実践する決断力と行動力は、やっぱり長谷川さん自身のものだ。

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店のルーツは、長谷川さんが20歳で無一文になったとき、日銭を稼げるからと思いついて始めた、路上での靴磨き。「最初は必死だったのでわからなかったんですけれど、この職業って軽く見られてる側面もあるんだなっていうのは肌で感じていきましたね」。だからだろうか、「警察や役所の人間に取り囲まれて路上で営業を続けることができなくなり、自分の店をもとうと考えたとき、やるんだったら世界一かっこいい店をやりたいなと思ったんです」。

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それなら場所は、やっぱり青山がいい。でも路面店なんてとても借りられないから、それを逆手にとって、駅から離れたビルの2階で、ひっそりと。路上で鉄則だった手早く10分で磨くのではなく、時間をかけてじっくり、最高の靴磨きを提供する店をやろうと思った。「もっとリスペクトされていい職業だと思います。よく言うんですけど、いつか小学生の卒業文集に、将来なりたい職業で靴磨き屋ってクラスにひとりくらいは書いてもらえるような、そんな時代をつくりたい。そうしたら、僕の人生、サクセスですね」。

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Brift H AOYAMA
東京都港区南青山6-3-11 PAN南青山204

文:野村美丘(photopicnic)
写真:藤田二朗(photopicnic)

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