フルーツ大福と聞いて、どんな中身を思い浮かべるだろう。王道は、いちごやみかんあたりかもしれない。フルーツ大福専門店の「覚王山フルーツ大福 弁才天(以下、弁才天)」では王道を揃えつつも、マンゴーやパインなど、斬新なラインアップが色鮮やかにカウンターに並ぶ。種類の豊富さに目を奪われつつも、薄皮の求肥に包まれた果物の大きさにも心が躍る。キウイやみかんがまるごと一個収まっているのだ。求肥や白餡がフルーツの仕立て役になるという黄金比率である。
弁才天は、旬の果物を主役にしたフルーツ大福のお店で、日によりけりだが、10種類以上のフルーツ大福を提供している。特徴はそれだけでなく、ある仕掛けを備えている。
専用の餅切り糸で、断面を見せるように半分にカットすることができるのだ。口に広がる果物のフレッシュさと薄皮薄餡の絶妙なバランスはもちろんのこと、自分の手でカットをするという体験までもが弁才天のフルーツ大福の魅力である。
1店舗目を開くやいなや、断面の美しさやカットする楽しさを写した写真や動画がSNSで拡散され、たちまち行列のできる人気店になった。店舗拡大の計画がオープンから2カ月で走り出し、1年目が終わる頃には全国で20店舗ほどを展開。2年目の終わりには70店舗にまで広がった。売り上げはたったの1年で初月の300倍になった。
2019年10月の1店舗目オープン時から弁才天のキャッシュレス決済を支えてきたのは、Squareだ。店舗数を増やす際にも、別の決済サービスへの乗り換えは一切考えなかったという。
ここでは弁才天の創業者である大野淳平さんにフルーツ大福店を始めたきっかけ、決済端末にSquareを選んだ理由、70店舗以上経営するなかでSquareでよかったと感じた点を聞いた。
業種 | 食品の小売・製造 |
業態 | 和菓子屋 |
利用しているサービス | Square POSレジ、Square リーダー、売上データ分析 |
導入を検討した理由 | ・決済端末のデザイン ・POSレジや管理画面のシンプルなUI |
Squareが役に立っている点 | ・スマートフォンなどの機器に慣れていなくても簡単にPOSレジが操作できた ・内装に溶け込むような端末を導入できた ・売上分析機能でロス率を把握でき、生産数を調整できた |
フルーツ大福店のアイデアが、ふと降りてきた
27歳という若さで広告業界で独立して以来、さまざまな店舗ビジネスを仕掛けてきた弁才天の創業者、大野さん。創造力を働かせることに楽しさを見出し、従来の枠に囚われない切り口でカフェや立ち飲み屋、古着屋などの店舗ビジネスを次から次へと立ち上げてきた。うまくいくもの、いかないものとあったそうだが、「会社に身を置くよりも自分の城を持ちたい」という気持ちが強く、歩みを止めることなく常に新しいプロジェクトに思いを巡らせてきた。
▲創業者の大野淳平さん
2017年に始めた古着屋が徐々に人気を集め始めていたときには、まだフルーツ大福店の構想はなかったと、大野さんはゆるやかな口調で話す。
当初は母親と弟が働ける場所を作りたいと思い、母親が希望した喫茶店を開こうと考えていたそうだ。いい立地はないかとアンテナを張り巡らせながら街を歩いていたら、覚王山で人気の芋菓子店の隣りが空いていることに気がついた。その瞬間に、「アイデアが降りてきた」という。
「テーマは、『老舗の4代目が立ち上げた、和菓子の新興ブランド』。デザイン性が高く、味も確かな和菓子屋にしたらきっと人気が出ると思いました。店舗のイメージもすぐに視覚化できましたね。壁はモルタル、照明器具はヨーロッパのメーカー。でも、木札を掛けたり、天板を畳にしたりすることで格好よくなりすぎないように調和をとる。若い子たちが来ても今っぽく感じるけど、おじいちゃんおばあちゃんが来ても疎外感がないバランスがいいと思いました」
和菓子といっても団子や羊羹といろいろある。なぜフルーツ大福にしたのだろう。
「フルーツ大福なら老若男女に好まれるかなと思いました。僕は和菓子が苦手なので、あんこやお餅がメインではなくて、フルーツが主役のフルーツ大福専門店にしようと思いました。10種類以上のフルーツ大福の断面を宝石のように並べて、カウンターにディスプレイしようと考えました。そしたら紙袋のデザインや箱、ロゴのイメージが一気に頭を駆け巡り、あとはアイデアを一つずつ形にしていきました」
Squareが店舗デザインとぴたりと合った
溢れ出るアイデアを店舗に落とし込んでいくうえで、大野さんが意識したのは「洗練された引き算の美学」だ。
「神は細部に宿る」という言葉を噛みしめるようにして、この美学を貫いている。たとえば店頭で使うボールペンやメモ帳一つとっても、お店のトーン&マナーにそぐうものをこだわって選ぶ。決済端末においてもそうだ。
迷わずに決めたのが、Squareだった。なぜだろうか。
時を巻き戻して、2017年。大野さんがSquareを初めて目にしたのは、古着屋の仕入れで訪れた米カリフォルニア州のアイスクリーム店だったそうだ。そこではレジとして「iPadがカウンターに置かれていた」と振り返る。
無線の決済端末Square リーダーと合わせて、iPadをレジ代わりに使用していたのだ。
ミニマルな佇まいに惹かれ、同年、古着屋のオープンに合わせてSquareを導入した。弁才天を始める2年ほど前のことだった。一応他社とも比較はしたが、どの端末も色やサイズ感がお店に違和感を与えてしまうことから導入を見送った。
2019年に弁才天を開くときも、引き算のデザインを叶えるにはSquareしかないと思い、比較すらせず導入を決めたそうだ。
目標販売数は1日100個。瞬く間に売れたのは1日1,000個
知る人ぞ知るお店を、家族でできればいい。そんな思いを胸に、弟と母親、そして長いこと一緒に仕事をしてきた社員の計3人でオープン日を迎えた。目標として掲げたのは、1日100個の大福を売り切ること。
ところがフルーツ大福を糸でカットする動画などがSNSに投稿されはじめると、お客様が店舗に殺到。メディアからの取材も入るようになり、瞬く間に行列のできる人気店となった。3人ではとても回し切れず、大野さんは急いで求人を出し、3カ月で従業員数を10人ほどに増やしたという。すると1日の販売数は1,000個に。目標の10倍もの収益になった。
新しく入社したスタッフは、弟と社員の2人が教育することになった。採用した従業員のなかには60代の人もいたそうだが、レジの操作は大変に感じなかっただろうか。
「全く問題ありませんでしたね。POSレジには商品と一緒に画像が登録できるからわかりやすいでしょ。いちご大福の注文が入ったときにはいちごの画像を見つけて押せばいいので、すごくシンプルですよね」
2カ月目で店舗数を増やすことに
今では全国に多数の店舗を展開している弁才天だが、大野さんは「チェーン店を作ろうと思ったことは一度もありません」と話す。ただ、県外から来てくれたのにも関わらず、売り切れのため目当ての大福を買えないまま帰路に着くお客様の存在を知り、「求めてくれている人がいるなら、届けに行くべきだ」と店舗数を増やす方向で考え出した。オープンして2カ月のことだった。
店舗数を増やしていくうえで、別の決済サービスへの移行は検討したかと尋ねると、大野さんは「しませんでした」ときっぱり。「操作の仕方が変わるので、オペレーションコストを考えたときに大変だろうなと思いました」。内装に溶け込むデザインが気に入っていたのもあるが、それに限らずPOSレジや管理画面のシンプルな作りも継続して利用する理由になったという。
「弁才天では地元の主婦、もっといえばおばあちゃんたちにも働いてほしかったんです。和菓子屋なので。そうなったときに機能がたくさん詰め込まれているPOSレジだと、わかりにくくて対応できないかもしれないじゃないですか。SquareはUIがシンプルなので、そういう心配もしなくて済みました」
売り上げは1年で初月の30倍、2年で初月の100倍に
気づくと、オープンから1年経った頃には10店舗以上に増えていた。その翌年には、全国70店舗ほどで弁才天の大福が購入できるようになった。売り上げは1年で初月の30倍にまで伸び、2年で初月の100倍ほどまで成長したという。どのようにしてここまでのスピードで成長できたのか。答えは「暖簾分け制度」にあるようだ。
弁才天では直営店もあるが、多くは開業から半年ほどのタイミングで導入された「暖簾分け制度」で展開されている。
フランチャイズではなく暖簾分け制度にしたのは、現場での実務経験を経ることを必須とし、弁才天の精神を引き継ぎ、情熱を持ってブランドを広めてくれる人にだけ展開してもらいたいという思いがあったからだ。
オーナーを募るうえでしたことは、公式サイトに暖簾分け制度のページを作成したことのみ。すでに「うちにも弁才天をやらせてほしい」という声を多くもらっていたこともあり、営業は一切していないにも関わらず200件ほどの応募が来たという。これまでに加盟が決まったのは、30件ほど。ただ、1人の加盟事業者が複数の店舗を運営していることもあり、今ある店舗数まで伸ばすことができたそうだ。
Squareは同じアカウントで複数店舗の管理ができるので、店舗数が増えたときも同じ管理画面から各店舗の売り上げや各商品の売れ行きなどを確認できる。管理画面の使い心地についても、聞いてみた。
「簡単でしたよ。店舗の一覧から確認したい店舗名を押すだけで、その店舗の売上情報を見れるところがいいです」
リアルタイムで更新されていく売上状況は、スマートフォンにダウンロードしたSquareのアプリから毎日のように見ていたという。「即時性は大事ですよね。売れ行きがすぐにわかるので、生産数の調整も簡単に行えました」
売上レポート機能では商品ごとの売れ行きも見れるので、人気の出ているもの、出ていないものも簡単に把握でき、ロスを減らすうえで役立てているのだそう。ちなみに定番の人気商品は、いちごと無花果の大福だそうだ。
今後の動向も気になる。2022年の後半からは海外展開に向けて世界を飛び回り、話が固まり、オープンを控えているのはサウジアラビアと台湾だという。2022年の終わりに、従業員数名とサウジアラビアの店舗で大福の包み方をトレーニングしてきたと、うれしそうに教えてくれた。海外ではどのように受け止められるのか。海を渡り、さらなる進化を遂げるであろう弁才天の今後が楽しみだ。
「売れ行きがすぐにわかるので、生産数の調整も簡単に行えました」ー株式会社弁才天 創業者 大野淳平さま
Squareが実現したこと
理想のデザインに当てはまる決済端末を導入できた
余計なものを削いだ「引き算の美学」を掲げた店舗デザインに、Square リーダーのシンプルなデザインがぴたりと当てはまりました。
年齢問わず、誰でもすぐに操作できた
弁才天ではさまざまな年齢層の人たちを店舗スタッフとして採用しているため、POSレジの操作のしやすさは欠かせない点でした。SquareのPOSレジなら商品名とともに登録した画像が表示され、各商品が画面上で見つけやすく、誰でも感覚的に使いこなすことができているそうです。
売れ行きをもとに仕入れの数を判断できた
Squareなら、スマートフォンのアプリからリアルタイムで売上状況が確認できます。弁才天でも、商品ごとの売れ行きを確認しながら生産数を調整することで、ロスを防げているといいます。
この事例に登場したSquareのサービスは: