【商いのコト】町と人をつなぐ、大きな鳥居のゲストハウス「とりいくぐる」

つなぐ加盟店 vol. 15
とりいくぐる Guesthouse & Lounge(合同会社さんさんごご)明石健治さん、野口明生さん

商店街の中にある“とりい”

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▲とりいくぐる 明石健治さん(左)、野口明生さん(右)とりいくぐる 明石健治さん(左)、野口明生さん(右)

「狐を寄り付かなくするために、お稲荷神を祀っていたと聞きました。年に一度は供養のためにお祭りもあったそうで。その名残として鳥居が残っているんです」

岡山駅に程なく近い奉還町(ほうかんちょう)商店街を歩いていると、自然と目につく朱い鳥居。「とりいくぐる」は、その名の通り“鳥居をくぐる”ことで辿り着くゲストハウスだ。カフェラウンジが併設されており、地元の人も気軽に足を運ぶことができる。

とりいくぐるは、かつて肉屋だった築60年以上の建物をリノベーションした複合施設「NAWATE」内にある。NAWATEには、とりいくぐる以外にも雑貨屋や事務所、八百屋などの個人商店が並んでおり、ユニークな商店が連なる場所として親しまれている。

「合同会社さんさんごご」の明石健治さんと野口明生さんは、とりいくぐるだけでなく複合施設であるNAWATE全体の運営も担当している。宿を中心にさまざまなテナント展開をしながらも、旅人から地域住民までを巻き込み、この地域で独特の商いを育んでいる。

「以前が肉屋さんだったので、当初は『ブッチャーズ(肉屋)』という宿名の候補もあったんです(笑)。けれども、せっかく鳥居があることだし、あえてゲストハウスっぽくない名前にしました」(野口さん)

元会社員という共通点はあるものの、年齢も出身も職業も違う二人。商店街に縁もゆかりもなく、さらに言えば宿で働いたことも勤めたこともない。そんな二人が、この街に暮らし、宿や複合施設の運営に至るまでには、どんな経緯があったのだろう。

ゲストハウスのご縁から生まれたゲストハウス

「これまで、僕は『ゲストハウス』がどういう場所なのか知りませんでした。明石はたまに利用していたそうですが。ゲストハウスのことを知った1年後には、ゲストハウスをはじめることになったんですよ。なんか信じられないですよね」(野口さん)

そんな二人が出会い、宿を誕生させるまでには「たみ」というゲストハウスの存在が大きかったという。

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▲個室(2人)、男女共用ドミトリー(8人)、女性専用ドミトリー(9人)と部屋は分かれる。20、30代の若者を中心とした利用が多い。日本人と外国人の比率はほぼ同じだという。

たみは、鳥取県の中心に位置する湯梨浜町松崎にあり、建物内では「撮影禁止」という独特なルールがあるカフェ併設のゲストハウスだ。たみの共同代表・三宅航太郎さんと蛇谷りえさんに先に出会ったのは明石さんだった。三宅さんが「たみ」の前身となる期間限定のゲストハウスを岡山で運営していたときに、その宿に出入りしていたのだ。

一方の野口さんは、たみの開業資金をクラウドファンディングで募っていたときに支援したことが、たみと関わるきっかけだった。しかも、そのときは隣町の三朝町に住んでいたという。

「その頃は、会社を辞めることだけ決めていた時期でした。地元で新しいことをはじめる人がどんな人か気になっていて。ご近所だしせっかくなら話を聞いてみたいなと思って、三宅さんと蛇谷さんの二人の元を訪れたんです。

三宅さんに直接お会いしたら意気投合してしまい(笑)。退社後に特に何をするかも決めていなかったので、話の流れで宿の改修を手伝うことになったんですよ」(野口さん)

その後たみのオープンまでの間に、明石さんと野口さんは出会った。最初は互いに世間話を交わす程度だったそうだ。

その数ヶ月後、偶然たみで出会った設計士が岡山奉還町で空き家を見つけ、他の建築仲間に声をかけて、建物のリノベーションを行うことになった。このとき、たまたま手の空いていた二人が招集されたのだ。

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▲「10年、20年と自分がサラリーマンをやっている姿が想像できませんでした。そしたら、急に何かはじめなくちゃ、と思ったんです」。野口さんは鳥取出身の1985年生まれ。大学時代の高知を経て鳥取にUターン。自動車メーカーに5年間勤めた。

「この場所をリノベーションして、複合施設にすることだけはプランとして決まっていました。けれども『中で何をするのか』『誰がやるのか』までは定まらない状態のときに、僕らに声がかかったという感じです。

当初はシェアハウス案もありました。けれども、僕がゲストハウス運営に興味があったので、ぜひやってみようと思ったんです」(明石さん)

「今振り返ってみると、たみで設計や改修までの流れ、実際に建物に手をいれる技術のノウハウを近くで学べたことは貴重な体験でした。なんとなく、自分たちでもやれそうだなという妙な自信もあったんです」(野口さん)

たみを起点とした出会いや経験、興味関心がゆるやかに重なり、一緒に宿をはじめることとなった二人。宿づくりが決まると、大工さんや野口さんと明石さんだけでなく、SNSの呼びかけで集まったボランティアメンバーと一緒に手を入れながら、半年程の時間をかけて修復作業を行い、2013年7月にとりいくぐるはオープンした。

地域に少しずつ開いていく – 町の名士との出会い

ある程度の予想はしていたものの、オープンして数ヶ月の集客は苦戦していた。しかし、その年の10月から瀬戸内国際芸術祭の秋会期がはじまり、自然とお客さんは増えてきて、今ではリピーターも安定してきた。

こうして、商いとしての宿づくりは軌道に乗りはじめた。しかし、商店街にありながらも住宅街が近く高齢者が多いエリアに位置し、さらにはよそ者でかつ若者が新しくはじめたゲストハウスが地域に受け入れられるまでには、当然ながら時間がかかった。

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▲奉還町商店街は、岡山駅から近い。ほとんどがアーケード街だが、とりいくぐるやNAWATEのあるエリアからアーケードは切れ、ここから人の行き来もグッと減る住宅街に近いエリアとなる。

とりいくぐるのオープン前には、ご近所向けの説明会も兼ねて工事現場でマルシェを開催するなど、積極に地域に場を開いた。しかし、最初は「こんなところで宿なんてやれるのか」という意見や、そもそもゲストハウスがどんな場所なのかを理解してもらうことができず、周囲から不思議がられた。

「僕らだけでは、きっとこの場に馴染めなかったと思います。ただ、NAWATEに入居している『松井青物店』の店主が僕らに理解ある人で、かなり助けてもらいました。

松井青物店は昔からある八百屋さんで、地域の人が集まって井戸端会議が行われるような場所でもありました。周りからの信頼も厚い店主だっただけに、僕らが何者で何をやろうとしているのかを地域の人たちに丁寧に説明してくれて。本当に心強かったです」(明石さん)

「商店会に加入することはもちろん、町内会の仕事を受けたり行事に参加したりと、少しでも地域の人たちに理解してもらおうと色々とやってきました。きちんと宿が運営でき、かつ自分たちが好きなことをやれる環境をつくるためには、こういった小さなことを積み重ねることが大事だと思うようになりました」(野口さん)

2016年2月には、奉還町商店街の歴史をもとにした手づくり市「西奉還町武士マルシェ」の企画運営を地域の商店主たちと一緒に行うなど、町に対してできることが少しずつ増えてきた。次第に地域に開いたゲストハウスとしての理解も広がり、今では道に迷った旅人を近所のおばあちゃんが宿に連れてきてくれるまでになったという。

「どんな観光地よりも、奉還町商店街が面白い」

とりいくぐるは、岡山市として数少ないゲストハウスだ。岡山駅は高速バスの発着も多く、西に行けば広島、南に行けば香川という地理関係で「乗り換え」で利用されることが多い町だ。しかし、ゲストハウスの多い倉敷市ほど観光目的で滞在する人は少ないという。

「僕らがゲストハウスをはじめるまで、この地域にゲストハウスはほぼなかったんです。けれども、それってある意味でチャンスだと思ったんです。ビジネスホテルはいくつかあったけど、2,000〜3,000円台で若者や旅人が気軽に宿泊できるような宿がごっそりと抜けていました」(明石さん)

地域を盛り上げていく気持ちと同時に、地域におけるビジネスの可能性も探っていた。

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▲明石さんは、1986年生まれの生粋の岡山人。大学卒業後は酒販メーカーで3年間勤務。「業態問わず、30歳前後で開業する友人もちらほらいて。自分がやりたいことや人生の岐路についていつも考えていました」。30歳を前にして、とりいくぐるの店主となった心境を語る。

「岡山駅は観光で有名な姫路と広島に挟まれ、通過されがちな場所で正直言ってパッとしません。こういう場所にあるゲストハウスに来る人たちは、観光地よりも『奉還町商店街のほうが面白い』と感じてくれる人たちです。そうした視点を持った人たちとの出会いがきっかけとなって、何か面白いことがはじまればいいな、と思っています」(野口さん)

とりいくぐるでの滞在では、遊園地のアトラクションのような非日常を感じることはない。奉還町にある何気ない暮らしが、ただ目の前に広がっているだけだ。その中で、この商店街を面白がってもらうためには、この町の自然体の魅力を感じてもらえる空間と語り手が必要だ。その役割をNAWATEと二人が担っている。町や二人が醸し出すゆったりとした空気感に、次第と惹かれる人が増えてきた。

二人の新たな挑戦、旅行者と地域の人たちが交わる「奉還町4丁目ラウンジ・カド」

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▲NAWATEの中庭。左の建物にアトリエや雑貨屋が入り、右の建物がとりいくぐるである。NAWATEという名前は、かつてこの地域が「畷元町(なわてもとまち)」と言われていたことに由来する。

とりいくぐるの運営をはじめて、すでに3年が経った。その中で大きな変化は何だったのか。また、これからどういう展開を見据えているのか。

「実は、僕は去年結婚したんです。奥さんが鳥取でお店をやっているので、鳥取に引っ越すことになりました。それを機に、これまで明石と二人で分担しながらやっていたことを、これからは複数人で運営できる体制に整えようと、2015年10月に会社化したんです」(野口さん)

とりいくぐるの運営だけではなく、オープン時から任されていたNAWATE全体の運営も「さんさんごご」で引き継ぐこととなった。NAWATEを含めた奉還町商店街におけるスペース管理と新規事業を野口さん、とりくぐるの現場責任者を明石さんと、互いの業務役割を明確化することにした。

結果、ゲストハウスのことだけでなく、商店街を行き来するテナントの入居者や近隣で暮らす人々をどのように巻き込んでいくのか、日々考えるようになったという。

そうしたなか、とりいくぐるのすぐ近くの空き家を改修し、イベント&飲食スペース「奉還町4丁目ラウンジ・カド」を新規事業として立ち上げた。

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2016年9月オープンに向けて改修作業当時の「奉還町4丁目ラウンジ・カド」の様子。とりいくぐるからは徒歩30秒分程度の距離にある。地域に開かれたスペースで、より地域住民の方の利用が期待される場所を目指す。

「とりいくぐる内にもカフェスペースはあって、以前から旅行者と地域の人たちとの交流はありました。けれども、もっと広いスペースで交流できたらと思い、カフェ機能を外に取り出した場所として『奉還町4丁目ラウンジ・カド』をつくりました。

この商店街で3年間やって気づいたのは、『この町は静かだからいい』ということです。静かな町並みこそ町の魅力なんです。だから、不自然なかたちで無理してまでNAWATEを盛り上げようとは思いません」(野口さん)

とりいくぐるを含むNAWATEは、商店街の持ち味が出るゆったりと過ごせる場所を目指している。一方、奉還町4丁目ラウンジ・カドは、スピード感のある活気を生む場所と位置づけ、場の機能を分けることにした。

町と人をつなぐ”鳥居”となる

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▲お互いの得手不得手をカバーし合い、バランスを取りながら一緒に運営してきた二人。共通の意識としてあるのは「わざとらしい接客はせず、お客さんがそれぞれ過ごしたい時間を過ごせる手伝いをすること」。不在がちな野口さんにとって、Squareの「Squareデータアプリ」は遠方でもチェックイン/売上を確認できるため、重宝しているという。

あくまでとりいくぐるは拠点であり、よそ者と地域の人がつながり楽しんでもらえることが重要だと二人は考えている。だからこそ、旅行者も地元の人も彼らにとっては一切差がなく、それぞれが大事なお客さんなのだ。

「とりいくぐるで知り合った人同士で、何か新しいコトが起きてくれると嬉しいですね。とりいくぐるでの出会いが、それぞれに何かの思い出やきっかけになっているような気がして。そうした出来事が『今よりも面白い場所にしたい』というモチベーションにつながっています」(野口さん)

奉還町商店街はなにもない町、ずっと変わることのない営みが続く町だからこそ魅力がある、と明石さんは話す。

「ここで暮らすおばあちゃんたちの生活は、都会にいるような人たちからすればどこか古風に見えたり温かみがあったりして、実はすごく面白い場所だと思うんです。肩肘貼らず、ゆったりとした時間を過ごしにここを訪れてほしいですね」(明石さん)

鳥居は本来、神様と人の“境界”を区切るためのものだ。とりいくぐるの“鳥居”は、奉還町商店街でのゆるやかな時間を味わうためにくぐり抜ける、”町の鳥居”なのだろう。商店街と旅人をつなぐ、その境目に立っている。

”とりいくぐる”とき、何が変わるのか。この町に足を運んでみた人だけが、知ることができる楽しみに違いない。

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とりいくぐる Guesthouse & Lounge
岡山市北区奉還町4丁目7-15
086-250-2629
文:大見謝 将伍
写真:久保田 狐庵

とりいくぐる Guesthouse & Lounge は、Squareが日本でのサービス提供を開始した2013年からずっと使い続けてくださっています。
「(他のレジアプリと比較して)やはりSquareはよくできているなと思います。何より使用感がとてもいいですし、他のサービスより直感的に使えることが気に入っています」
Squareデータアプリも、出先・遠方でもチェックインや売上の状況を確認できるため、重宝しています」(野口さん)

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