【商いのコト】呼吸をするように土地の食材を使う、本来の地産地消を求めて—Restrante Pertornare

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol.67 Restrante Pertornare 表原平さん

生活のためにある程度の仕事量はこなさなければならない。一方で、一つひとつの仕事に納得いくまで向き合って質を高めたい。その折り合いをどうつけるか。どんな職業であっても似た悩みを抱える人は多いのではないだろうか。

表原平(おもてはらたいら)さんもその一人。今から5年前、2014年に徳島県上勝町でイタリアンレストラン「Restrante Pertornare」(以下、ペルトナーレ)を開業した。山に囲まれた町を選んで始めたレストラン。今でこそお客さんも増えたが、初めは集客にも苦戦し、納得のいく“地産地消”の料理を追求して葛藤する日々でもあった。

どんな道をのりこえて今に至るのか。ペルトナーレのこれまでと、これからを聞いた。

はじめはお客さんも少なかった

山あいの小さな町、上勝町。勝浦川を見下ろせる場所まで緩やかな坂道を上ると、大きな古民家が目に入った。入り口にイタリアの国旗が揺れている。すぐにここがペルトナーレだとわかった。

木の引き戸を開けると、香ばしいガーリックの香り。店内は大きく二つの空間に分かれており、入って右手はしっとりした和室、左手は4つほどテーブルの並ぶ洋風のスペースになっている。平日のお昼どき、店内はお客さんでいっぱいだった。

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徳島市内から車で約1時間。時間にすればそれほどではないが、上勝町は山に囲まれているせいか、秘境のイメージが強い。こと冬になると客足が遠のいても仕方ない場所のように思える。どんな風にお客さんが増えていったのだろう。

「店をオープンしたのが12月だったこともあって、最初は地元の人たちがちらほら来てくれたくらいで、ほとんどお客さんは来ませんでした。数カ月経った頃に、徳島のタウン誌に掲載されて、それから少しずつ来てくれるようになって。3年目に関西系のテレビ番組に出てからですね、一気にお客さんが増えたのは」

夢を追いかける人に密着した番組で、30分丸々ペルトナーレのことを紹介してくれた効果は大きく、一時期はひと月先まで予約で埋まったのだそうだ。

「地産地消」の意味

ペルトナーレでふるまわれるのは、地元の食材を用いたイタリアン。パスタランチのコースをオーダーすると、まず出てきたのは新タマネギのスープ。そして、春キャベツや山菜など彩り豊かな地元の食材がのったパスタだった。ほおばると、口いっぱいに新鮮な食材の香りと旨みが広がり、贅沢な気持になる。

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表原さんは、地域の食材を生かす料理で有名なアル・ケッチァーノの奥田政行シェフの元で修行。東京の店を経て、淡路島のレストランでは2年間スーシェフを務めた。その後、上勝で独立。ペルトナーレでも地産の食材を使うことを方針として、徳島県の魚や野菜、卵を使用してきた。ところが、この選択にしっくりこない思いもあったという。

「始めてすぐの頃は地産地消がどういうことなのかよくわかっていなかったんだと思います。いまは地産地消には2種類あると思っていて。ビジネス的な地産地消と、本質的な地産地消。たとえば、海辺の旅館で見るからにおいしそうな鯛のお造りを食べるのと、いくら鳴門産と書いてあっても街なかの料理店で食べる刺し身とでは、美味しさが違いますよね。

はじめは僕も、ただ徳島の食材を使っていればいいと思っていたところがあって。でもそれが本質的な地産地消ではないことに気付いていったんです」

料理としてみればそれで十分だったのかもしれない。けれど、一人の料理人として疑問を感じたのだという。その食材を使う意味はどこにあるのか。もっといい素材の使い方があるんじゃないのか。

「結局、本来の地産地消ってわざわざ謳うようなことではなくて、呼吸をするようにその土地の食材を使って美味しいものをつくる、ごく自然なことなんですよね。地元の人たちは、地元の食材であることを意識して使うわけじゃない。要は、スタイルじゃないんです。イタリア料理という型が先にあって食材を当てはめていくと、食材にわざわざ感が出る。僕の思う地産地消はそうではなくて、先に食材があって、そこから何をつくろうかと発想するもの」

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▲旬のアスパラを焼いた上にスクランブルエッグ風のソースのかかった一皿

そう考えると、この山あいで海の魚を出すのは違うんじゃないかと思えた。そこで表原さんは、頻繁に使っていた海の魚をやめた。コース料理の多くを魚に頼っていただけに、勇気のいる決断だったに違いない。

「それまでは約1時間かけて徳島中央市場に通って魚を仕入れていたんです。いい魚が手に入ればもうそれだけで安心な気になって。でも思い切ってやめてみると、地元で活鮎を釣ってくれる人が見つかったり、川ガニや養殖ウナギなど、もっと近いところで手に入る、美味しい食材に出会えた。海の魚がなくても乗り切れたんです」

そこから、地産地消に対する考え方がずいぶん変わっていったという。

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料理の腕が試される

いま、朝は近隣の産直市などへ野菜の仕入れに出かける。春は山菜やタケノコ、夏は夏野菜、秋はキノコ類など季節のものをその日に見極めて調達する。最近は自分たちで鶏も飼い始めた。まだ小さいけれど、卵を産み始めている。

通常、飲食店ではメニューがある程度先に決まっていて、そのための食材を仕入れるが、ペルトナーレではどんな食材を仕入れたかによってメニューが決まる。それは同時に、料理人としての腕が試されることでもある。

「ナスのおいしい季節になってきたら、薪火で焼いて、皮をむいてレモンを絞ってオリーブオイルをかけるだけで美味しいですよね。凝ったソースをつくらなくても十分。でもそれは、ただ焼くだけの作業じゃないんです。採れたての食材って水分が多いので時間を見ながら細かい技術で調整していく。焼く、煮る、ゆでる、蒸すなどシンプルな調理ほど、そうしたプロの技術や配慮が料理のおいしさを決めるんです」

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▲調味料などの、量り売りのサービスも。

つくりたい料理とキャパシティのバランス

いま、店は妻の裕子さんと正社員が1人、そしてアルバイト1人の計4名でまわしている。お客さんの9割は町外から訪れる。上勝は春なら桜、夏は川遊びなどの自然を楽しみに訪れる人も多い。だが大半は、ペルトナーレの料理を楽しみに足を運ぶ人たち。そうしたお客さんに対して、満足のいく料理を出せているとは言い切れないと表原さんは言う。

「1組のお客さんを相手にしたときに100パーセント出せる力も、お客さんが増えるにつれて80パーセント、60パーセントと減ってしまうのが、人間のもつキャパシティやと思うんです。もちろん、今の体制の中では、スタッフも含めて100パーセントの力を出しきって美味しい料理を出したり、サービスしているつもり。でも、仮に今の約半分のお客さん、例えば3組限定の店やったら、もっと美味しいものを出せるんちゃうかとも思うんです。

やっぱり、上勝まで来てイタリアン食べて『うんまぁおいしかったね』っていうのと、『何これめちゃくちゃうまい!』ってなるのは大きな違いですよね。今のやり方ではまぁおいしかったねまでしかいけない気がして」

こう料理したらもっと美味しくできるというビジョンがありながら、お客さんの数との兼ね合いで実現できないジレンマがある。いまお店の最大収容数は20人ほど。夜も車で訪れる人が多いため、アルコールはあまり出ない。この場所で飲食店を続けていくためには、現状の客数に応える必要がある。

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やりたいことを叶えるために

そこで、表原さんが今新たに考えているのは、別の場所で新しくオーベルジュ(宿泊機能を備えたレストラン)を始めること。宿泊を伴うため、心おきなくワインを楽しんでもらうことができるし、出したい料理がぐっと実現しやすくなるという。

「例えばさっき話したような焼きナスも、本当は一人ひとりに丁寧に焼いてあげたい。お肉もテーブルに塊で出したいんです。アスパラだったら、焼いたアスパラの上に半熟の目玉焼きと、自家製のぶ厚いパンチェッタがのっていて、パセリとチーズをぱっと散らしてドンと出てくる方が、うまそうでしょう?」

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宿泊も込みになれば客単価が上がり、お客さんの数は今の半分になってもやっていける。そう考えたとき、表原さんの頭に一番に浮かんだのは「出したい料理に集中できる!」の一点だった。

「できたらブドウも栽培して自家製ワインをつくって一緒に出したい。その土地で採れた食材を料理してふるまう、ヨーロッパのアグリツーリズムのような、本当の地産地消の料理を出したいんです。それが、自分のやりたいことと、お店をまわすことの接点になるんじゃないかと。まだこれからなんですけど、やれるだけやってみたい」

その夢は、間違いなく、上勝で試行錯誤してきたこれまでの道の延長上にある。流行りのスタイルにとらわれない、でも「めちゃくちゃうまい」料理。それを追求することは、表原さんにとって、料理人としてどう生きていたいかを自らに問うことでもある。

いきいきと語る表原さんの話を聞きながら、その新しい挑戦を見に、いつかまた徳島を訪れたいと思った。その時は、いったいどんな風景を見せてくれるのだろう。

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Restrante Pertornare(ペルトナーレ)
徳島県勝浦郡上勝町福原字平間62
TEL:080-3165-7153
営業時間:12:00~15:00(L.O14:00)、18:00〜22:00(最終入店21:30)
※ランチは満席になることも多いため予約がおすすめ
定休日:月曜日、第2火曜日

文:甲斐かおり
写真:藤岡優