【商いのコト】お客様が“ラフな注文”をできる店に。元テレビディレクターが目指すカフェの在り方

成功も失敗も、すべては学びにつながる。
ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol. 25

カフエマメヒコ

井川啓央さん

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「別にカフェをやりたくて始めたわけではないんですよ。」

そんな一言から取材は始まった。

カフエマメヒコの代表・井川啓央さんは、テレビディレクターからカフェ経営者へとキャリアチェンジを果たした異色の経歴の持ち主。コーヒーの美味しさもさることながら、料理に使う素材、内装や什器、そしてスタッフの接客に至るまですべてにこだわり抜き、訪れる人を魅了してやまない独特な世界を作り上げている。

なぜ井川さんはカフェを始めたのか。
そして、競争が激しい“カフェ”という領域で、他店ではなくカフエマメヒコをお客様に選んでもらうためにどのような工夫をしているのだろうか。

東京・渋谷の賑やかな街に、静かなひと時を

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東京・渋谷。
人通りで賑わう街中に、カフエマメヒコはひっそりと店を構える。
ビルの2階に上がり店内に入ると、そこに広がるのは別世界。落ち着きがあり、繁華街の中心に位置するとは思えないほどゆったりとした時間が流れている。

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井川さんは学生時代、いつも通うお気に入りの喫茶店があった。カフエマメヒコのコーヒーには、そんなお気に入りの店で飲んでいた「菊地珈琲」の豆が使われている。

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すっきりとして一気に飲み干せてしまう口当たり。
「コーヒーを飲んだ後にお客様が絶対に水を飲まないことが誇り」だという焙煎師・菊地良三さんのこだわりが脈々と受け継がれている。

“予定調和”なテレビ番組を作ることに飽きて、カフェを始めた

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冒頭でも触れたが、井川さんは“コーヒーが好き”という理由でカフェを始めたわけではない。きっかけは、以前の仕事に“飽きた”こと。

フリーのテレビディレクターとして番組制作に携わっていた井川さんは、予定調和な企画が増えるテレビの世界に身を置くうちに、番組を作る意味を見出せなくなってしまったのだと語る。

「一言で言うと、予定調和な番組を作るのに飽きちゃったんです。作ってほしいと頼まれる仕事には制限があって、なかなか自分のやりたいようにはできないですしね。」

自らの仕事に不満を感じていた矢先のこと。
知り合いと何気ない会話をする中で、『カフェを作ってほしい』と言われたという。

「そう言われた時、ふと『井川啓央がカフェを作ってみた』という企画で、自分の好きな番組を作る感覚でカフェをやってみるのも面白いなあと思ったんですよね。だから試しにやってみようと思って、始めてみました。」

こうして2005年、カフエマメヒコが誕生した。
テレビディレクターを辞めてカフェのオーナーになったのではなく、“テレビディレクターとして”カフェのオーナーになった井川さん。ディレクター視点の考え方は、カフェの店づくりにも反映されることになる。

“人が来ない”。想いを発信することの大切さを思い知る

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「カフェのオーナー」の仕事を始めるという一大決心を、あくまで「企画」なのだとあっけらかんとした様子で語る井川さん。しかし、店を始めて早々に壁にぶつかる。

「人が全然来なかった。僕はオーナーの趣味が炸裂しているようなカフェは嫌いで、誰がやっているか分からないような、純喫茶のようなお店にしたいと思って作りました。だけど、本当に一部の人にしか受け入れられなかったんです。」

「カフエマメヒコはこうあるべきだ」という理想はあっても、人がついてこない。井川さんは、商いの難しさを思い知って反省したのだと語る。

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「そこであらためて、テレビの世界でいう“視聴率”って大事なんだなあとしみじみ感じました(笑)。いくら自分の理想とするものがあっても、お客さんにそれが伝わらなきゃ意味がない。もっと自分の想いを発信して理解してもらわなきゃいけないんだと。」

井川さんはカフエマメヒコのWebサイトで、自分がどのような想いで店をやっているのかを発信するようにした。同店のWebサイトを見ると、「大切なこと」というタイトルのカテゴリーの中に、井川さんの想いが綴られている。

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“みんなにとって大切な場所でありたい”
“いつも本物の素材を使う”
“変化し続ける”

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▲この商品に入っている小豆は北海道の畑で収穫したもの。素材に対して強いこだわりを持っており、自身が持つ畑で育てたものを使用している。

妥協せずにこだわり抜いた店作り、そして、一つひとつの想いを丁寧に発信することが実を結び、「人が来ない」という危機的状況に変化が訪れることになる。

想いを発信することで、スタッフが動き、お客様が動いた

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▲照明器具をはじめとした店内の什器やディスプレイ品は、一つひとつ丁寧に選んだり自らデザインしたりしている。店の空間全体に、井川さんの思い・世界観が反映されている。

まず変化が訪れたのが、同店のスタッフ。
接客に対してもテレビの演出と同様に考えていた井川さんは、以前は「『いらっしゃいませ』のトーンが違う」や「休憩時間に食べるものが違う」などと、細かい点まで徹底的に指導していた。

しかしスタッフにその想いはなかなか理解されず、「はい、分かりました」とその場で返事が返ってくるだけ。井川さんがいる場でしか直らなかったのだそう。

井川さんは仕方なく、スタッフに指摘することを諦めた。しかし不思議なことに、しばらくするとお客様から思わぬ声をかけられた。

「お客さんから、『スタッフさんへの教育がちゃんと行き届いているわね。』と褒めていただいたんです。なんでも、スタッフが『マメヒコはこうあるべきだ』みたいなことを喋っているみたいで。僕は諦めて細かいことを言うのをやめていたので、驚きましたし嬉しかった。想いって時間差で伝わるものなんだなと。」

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▲笑顔が素敵なスタッフの方。お忙しい中撮影にも気軽に応じてくれた。

カフエマメヒコの現スタッフ達は、皆がオールマイティにあらゆる仕事をこなす。
それだけでなく、何より笑顔の接客が心地良い。一人ひとりがマメヒコの一員としてプロ意識を持っていることが、お客様に「また来たい」という気持ちを持たせているのは紛れもない事実だろう。

井川さんの想いがスタッフに届き、お客様へと伝わっていった。
そして2010年、ついにカフエマメヒコに転機が訪れる。

2008年にオープンした宇田川町店が、食べログで1位を獲得したのだ。これをきっかけに、お客様の数が急増。井川さんの想いが、ついにお客様に届いた。

メニューを2~3ヵ月で総入れ替え。“いずれすたれる流行店”にならないための工夫

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お客様が来るようになった当時を振り返り、井川さんはこう語る。

「食べログの影響でお客さんが来るようになったときは安心しました。『これで店を続けられる』って。ただ、“流行り”になってしまうと、いずれ必ずすたれてしまう。次は『いかに一過性のものにせずにお客さんの心を長く掴むか』ということを考えるようになりました。」

同店を“流行りの店”にしないために、井川さんはメニューに工夫を凝らす。すべてのメニューを、2~3ヵ月スパンで入れ替えるというのだ。

「どんなに人気があっても必ず入れ替えます。1つのメニューが流行ってそれを求めて来るお客さんばかりになってしまうと、いずれブームが落ち着いたときに、お客さんが離れてしまう。だから、『なんでやめちゃうの?』というタイミングであえて商品を入れ替えるようにしているんです。」

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流行りの店ではなく長く親しまれる店でありたいという井川さんの考えは、テレビ番組に対する考え方に通ずるものがある。長い間愛され続ける番組は、決して1つの企画頼りになることがなく、次々に人の心を掴む企画が生れている。カフエマメヒコを“長く愛される番組”にするというディレクター的発想が、店の随所に表れているのだ。

美味しいコーヒー。こだわりの素材を使った料理。店内の造り。そして接客。
すべてが、「みんなにとって大切な場所でありたい」という想いを体現する1つの世界を形作る。そしてその世界観に惹かれた人が、「ここでなければだめだ」と、カフエマメヒコを訪れる。

店全体で統一された世界観を表現することは、長く愛される店を作るために大切な要素だということを井川さんは教えてくれた。

“ラフな注文”ができる店づくりを

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カフエマメヒコの今後について、井川さんはこう語る。

「今も心掛けていることですが、『マメヒコじゃないとできないこと』を大事にしたい。もちろん美味しいコーヒーや食べ物を提供することも大事ですが、たくさんあるカフェの中からうちに来ていただくためには、もっと強い独自性が要るんじゃないですかね。」

強い独自性が要る。
そう考える背景には、渋谷や三軒茶屋など、カフェが連立する地域で生き抜くためになくてはならない知恵があった。

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「うちのコーヒーはとても美味しいです。でもね、正直な話、チェーンで飲むコーヒーだってやっぱり美味しいじゃないですか。近くにたくさんカフェがある中で、コーヒーの美味しさって、『他の店ではなくてカフエマメヒコに来たい』と思う決定的な理由にはならないんですよ。渋谷は人の入れ替わりが激しいから、昔来てくれていた人もすぐにいなくなっちゃうし、難しい街です。

最近気づいたのは、うちに長い間来てくれている人たちって、意外と渋谷付近じゃなくて地方の人が多いということ。そういう人たちに共通するものが何かって考えたら、みんな“ラフな注文”をしてくれるんですよね。例えば、『友達にプレゼントする誕生日ケーキを作ってくれないかな』とかそういう感じの。

うちでは、そういう要望にはなるべく応えるようにしています。これってチェーン店にはできないことですよね。お客さんとこうした関係性をもっと築いて、長く親しまれる店にしたいですね。」

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▲お客様との深いつながりを築くための試み。Squareギフトカードを使った専用のプリペイドカードを発行して「ご近所さん」になれば、週に1回「回覧板(メール)」が届いたり、御用聞きをしてくれたりという特典がある。

店に対して一切の妥協をせず、すべてにこだわり自ら手掛ける。
お客様の“ラフな注文”に応える。

この2つが合わさった先にあるのが、カフエマメヒコが目指す世界だ。

街の至るところにある“カフェ”という商いの領域で、生き残るのは容易ではない。他のカフェにはない、“カフエマメヒコならではの良さ”を見出すための、井川さんの挑戦は続く。

「カフェは面白いか」と最後に聞くと、井川さんは笑ってこう語った。

「いやあ面白くはないなあ。大変な仕事だよ(笑)。」

その眼差しは、キラキラと輝いていた。

カフエマメヒコ

■公園通り店
東京都渋谷区神南1丁目20−11 造園会館 2 階
03-6455-1475
■宇田川町店
東京都渋谷区宇田川町37-11
03-6427-0745
■三軒茶屋店
東京都世田谷区太子堂4丁目20−4
03-5433-0545(三軒茶屋店)

(つなぐ編集部)

写真:小堀将生

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