【商いのコト】伝統技術を次の世代に。“お抱え職人文化”をつなぐ宿—BED AND CRAFT

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol.59 株式会社コラレアルチザンジャパン 山川智嗣さん・さつきさん

かつて日本には建具や表具、畳替えなどの仕事を決まった職人さんに依頼する「お抱え職人」の文化があった。ものづくりをする職人が身近にいて、生活に必要なものをオーダーすることが当たり前のように行われていたのだ。現代にも、この文化を継ぐことはできないかと生まれたのが、「BED AND CRAFT」だ。宿泊すると、職人から直接、木彫刻や漆塗りなどを教わる体験ができる。

訪れたのは、富山県南砺(なんと)市の井波地区。人口8,200人のうち約200人が木彫り職人という、じつに40人に1人が彫刻師のまちだ。漆や建具屋なども合わせると、ものづくりに携わる職人の数はもっと多い。まちには木彫刻の工房が軒を連ね、トントン、コツコツという木槌の音が聞こえてくる。ここでBED AND CRAFTを営むのが、山川智嗣(ともつぐ)・さつきさん夫妻。建築家である2人が、職人と出会える宿を始めようと思ったのはなぜなのか。2人を訪ねた。

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▲井波の中心街である八日町通り。木彫の工房や土産物屋が並ぶ。

職人に出会える宿

B&B(Bed and Breakfast)ならぬ、BED AND CRAFT(以下、BnC)は「職人に弟子入りできる宿」として、2016年9月にオープンした。山川夫妻が、自宅として一軒家を購入したのがきっかけ。あまりに広いため、2階を何かに利用できないかと考え、ゲストハウスにすることを思いついた。

「同じように空いている家は多いので、その利活用になるんじゃないかと考えました。さらに井波木彫って、龍をモチーフにした欄間(らんま)や仏具などクラシックなものが多くて、今までは職人が都心の百貨店などに出展して注文を受ける売り方がほとんどだったんです。でも最近は和室のある家も減っているし、二間続きでないと欄間もいらないので、これまでとは違うことを考えないといけない。さらに、職人が東京まで出向くとその間仕事ができない。だったら売りに行くのではなくて、工芸やクラフトに興味のある人に会いに来てもらう方がいいなと考えました」(智嗣さん)

現在(2018年末時点)利用できるBnCは2軒あり、一つは山川夫妻の自宅軒ゲストハウスである「TATEGU-YA」。もう一つは2018年1月にオープンした「TAË」。宿はそれぞれ1日1組限定で、体験型ワークショップは「木彫りのスプーン」「木彫りの豆皿」「漆の箸」の3種類から選ぶことができる。

結果、BnCはオープンから一年で1,000人以上が訪れるという成果を上げた。当初は都市部に住む30代の女性をターゲットとしていたが、ふたをあけてみると、7割が海外からのお客さんだった。

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▲山川夫妻の自宅兼ゲストハウス「TATEGU-YA」の外観。

「お抱え職人」文化を再び広める

「工芸のまちでワークショップをやること自体はそれほど珍しくないですよね。でもそのほとんどが比較的手頃な価格で、20〜30人が一度に参加して、職人さんがレクチャーをして終わるようなものが多いと思うんです。それだと、『ああ楽しかったね』で終わってしまう。できたらもっと職人さんと密に話ができて、一対一の関係を築くきっかけにしたい。多少値段は高くても、少人数制で工房まで出向いてもらうしくみにしたのもそのためです。その価値を分かっていただける人に来てもらう方が、関係性が続くんじゃないかと」

自分で体験することでものづくりへの理解が深まり、職人技の凄さを実感する。職人へのリスペクトが高まればものを見る目も変わる。ちゃんとしたものが必要な時、職人に依頼しようという気持ちになる。山川さんたちの思い、狙いはそこにある。

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さつきさんはこう話す。

「最近は職人さんに気軽にオーダーできることを知らない人が多いですよね。この地域では、ちょっとした贈り物もみんな手づくりなんです。うちの新築祝いにも表札をつくっていただいたり、建具屋さんが組子のコースターをつくってくれたり。つくったものを贈り合う。今はセレクトショップなどに買いに行くことも多いと思いますが、職人にオーダーして好みのものをつくってもらうこともできるんです」

井波彫刻は、分業制ではなく、一人の職人が営業から企画、デザイン、仕上げまでを一貫して行う。それは裏を返せば、こういうものをつくってほしいという個人のオーダーに応えやすいということ。たとえば、愛犬が亡くなった時にその像をつくってほしいというような。木彫刻を自分の日常にどう生かすことができるのか。お客さんが知ることで、伝統技術を生かす道が広がる。文化が浸透するというのは、そういうことかもしれない。

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1ゲストハウスが1職人のギャラリーに

「TATEGU-YA」はその名の通りもとは建具屋で、トタン屋根のかかる古い民家だった。それが建築家である夫妻の手にかかり、明るく、開放的でモダンな空間に生まれ変わった。1階は夫妻の自宅と、宿のラウンジと玄関口。2階に宿泊部屋や洗面所がある。

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▲天井をはがすと現れた立派な梁を活かし、玄関は吹き抜けに。

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▲「TATEGU-YA」の2階には和室が3部屋。

面白いのは、この1ゲストハウスが丸ごと、1人の職人のギャラリーになっていることだ。たとえばTATEGU-YAには、木彫刻家である田中孝明さんの作品が3体置かれている。「みず・ひかり・たね」のテーマでつくられた、柔らかな表情の少女の像。木彫りの髪や肌のラインがなめらかで美しく、まるで命が宿っているように見えた。

「初めて彼の作品を見た時、衝撃を受けました。こんな素敵な作品があることを世の中の人たちにもっと知ってほしい。それでギャラリーのしくみを考えたんです。宿泊するお客さんは、滞在中にこうした作品を目にして、さらにワークショップでその職人さんと話をすることもできる。結果的に、ファンになってもらえたり、作品をオーダーしてもらえたらいいですよね」(智嗣さん)

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▲田中孝明さんの作品「みず」

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▲田中孝明さんの作品「たね」

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▲田中孝明さんの作品「ひかり」

展示してある作品は、宿が買い取るのではなく、宿泊費の一部をリース料として職人に支払う。作品が売れたらその分が職人に入り、新たな作品を置くことができる。これを「マイギャラリー制度」と呼んでいる。職人にとってはもちろん、宿も作品を買い取るコストがかからず、宿泊客も作品をじっくり見ることができる。3方よしの嬉しい仕組みだ。

「建築のプロセスでいうと、工芸品は後づけで置かれることが多いんです。ホテルのロビーが寂しいから絵や彫像を置こうという風に。作り手はどういうところに置かれるのか知らないままつくって納品するケースも多い。それを、もう少し設計する側と作り手が同じ目線に立てたらいいなと思ったんです。うちの宿では、工事の段階から職人さんに来てもらって、作品を置く場所を選んでもらい、何なら空間や壁の色も作品に合わせてつくります」(智嗣さん)

2019年には新たに3棟を増やす予定。いま建築中の宿も、また別の職人のギャラリーとして活用することになっている。

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▲「BnC TAË」には、漆芸家・田中早苗さんの作品が展示されている。天井には漆を塗った和紙のインスタレーション。

より現場に近いところで、ものづくりをしたい

山川さん夫妻は、もともと東京の同じ設計事務所で働いていた同僚だった。その後ともに上海へ渡り、独立して2011年にはトモヤマカワデザインを設立。2015年に帰国後も、東京や上海での仕事を続けている。なぜ、南砺市の井波に住むことを選んだのだろう?

「僕はもともと富山市の出身で、井波には親戚がいて子どもの頃によく遊びに来ていたんです。当時から職人さんがたくさんいるまちという印象がありました。はじめは宿をやるつもりはなかったんですが、ここに住んだら多くの職人さんと知り合えるのではという予感はありました。上海から帰国して一時は東京に戻ることも考えました。でもぴんとこなくて。東京ってものづくりの世界も成熟していて、極端に言えば、家づくりもカタログから選んだパーツを組み立てると家が建ってしまう。職人と距離がありすぎて面白くないんですね」(智嗣さん)

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さつきさんが続ける。
「中国で設計の仕事をしていた時は、より現場に近い感覚があったんです。たとえば床材に石を使うとしたら、まず山に連れて行かれてどこを掘るか?って話から始まる。直接職人さんとものをつくるプロセスが面白い。それが東京では工場に何か頼むと100ロットからと言われてしまう。井波であれば、一個からでも職人さんがつくってくれます。私たちはそういう現場に近い場所でものづくりがしたかったんです」(さつきさん)

2人の話はぴったり息が合っていて、ある価値観を共有しているのだとわかった。職人に近い場所での建築、ものづくり。それが2人が井波に移住した最大の魅力だったのかもしれない。

「宝物を見つけた」という感覚

ビジネスとしてだけ捉えると、東京や京都などの都市部で宿をやった方がはるかに効率がいい。井波でのゲストハウス運営は、もちろん利益は出るが、決してすごく儲かる事業ではないと夫妻は言う。先行投資が必要な家の改修は、個人や企業からの出資でまかなっている。

「個人で別荘を建てる感覚で出資をしていただくケースもありますし、企業の場合はCSRとしての活用が多いです。都心ほど回収率はよくないことも話した上で、社会的意義に賛同してくださる方々が協力してくれています」

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▲木彫りのライト「KINOMI」。スーツケースに入れて持ち帰れるようにと、素材には軽い桐を使っている。

集客については一切お金をかけた広告宣伝や営業はしていない。海外からの宿泊客が自然と口コミなどで広めてくれるのだという。

「宝物を見つけた!という感じが強いのかなと思います。東京や京都など、すでに知られている場所はたくさんあるけれど、こんなところにすごい技術が眠っている。それを見つけた嬉しさで、人に伝えたくなるのかなと」(智嗣さん)

観光ついでのお楽しみではなく、ワークショップを目的に井波を訪れる人が多い。自ずとものづくりに関心の高い人が集まり、欧米からはアーティストやデザイナー、映画監督などクリエイティブな職業の人が訪れる。

「だから接客していても刺激があって楽しいです。今日はオランダからご高齢の木工作家さんが来る予定です。スプーンづくりのワークショップに申し込みがありましたが、もはや教えるというより、向こうから教わることもあるだろうし、一種の文化交流ですよね」(さつきさん)

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手づくりの価値をどこに見出すか

3Dプリンターの登場で、彫刻師の仕事は、数十年後には消えるかもしれないと言われている。だからこそ、ものの背景が問われるのだと智嗣さんは話した。

「たとえば3Dプリンターでつくった天神さまが1万円で売られていて、手彫りのものが30万円だとしたら、ほぼみんな1万円の方を買うと思うんですよ。形だけ見るとまったく同じですから。そういう時代が目の前にある。だからこそ、なぜこの地域なのか、なぜこの人に頼むのかというストーリーや、思いがこれからますます大事になると思うんです」 

たとえば井波を訪れれば、瑞泉寺で寺社の木彫文化を見てその歴史を知ることができる。さらには多種多彩な作品を生む工房がそろい、欲しいものをオーダーできるという魅力。そうした地域のトータルの価値があってこそ、文化が生きる。お客さんと職人が出会う場として、BnCはますますこれから、その存在感を高めていくに違いない。

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BED AND CRAFT
住所:富山県南砺市井波1896​
TEL:0763-77-4544
連絡先:info@corare.net

文:甲斐かおり
写真:竹田泰子