棚卸し作業の目的や手順、効率化のポイントを解説

棚卸しは店舗や倉庫で抱える在庫の数量をチェックするだけでなく、ビジネスの利益を把握するために必要な業務です。棚卸しを実施することで、具体的に何が明らかになるのかを考えてみましょう。棚卸しの頻度や作業手順、事前準備や注意点、そして棚卸しに際して重要となる日々の「在庫管理」を低コストで円滑化する方法もわかりやすく解説します。

目次


棚卸しとは

棚卸しとは、仕入れた商品や材料などの在庫数量を調査・確認する作業です。どれだけの金額相当分の在庫があるかを正確に把握することで、事業の運営を効率化する狙いがあります。棚卸しによって在庫商品の「資産価値」を算出することで、会計上、どれくらいの利益を稼ぎ出したかを正確に計算することが可能になります。

棚卸しの対象となるのは以下のような品目です。

  • 商品(販売可能な状態のもの)
  • 半製品(完成しているがまだ販売できないもの)
  • 仕掛品(製造中でまだ販売できないもの)
  • 仕損品(製造中に破損したが原材料として販売価値のあるもの)
  • 副産物(製造中に生じた資材くずなど販売価値のあるもの)
  • 原材料、部品
  • 消耗品、備品など

棚卸しの目的

定期的な棚卸しを行わないと、ビジネスの利益が正しく把握できないだけでなく、日々の営業にも支障が生じます。以下の三つの目的のために棚卸しを実施することを、担当者間で共通理解として棚卸しにあたりましょう。

正確な利益を計算するため

代金を支払って仕入れた商品や材料が売られないまま資産として手元に残っていれば、ビジネスに利益は生まれません。そのため、ビジネスの利益は在庫量によって大きく変動するといえます。棚卸しを行うことで資産の循環状況を正確に把握し、経営の健全性を保つことに寄与します。

適切な在庫管理のため

帳簿上の在庫数と実際の在庫数は、必ず一致するとは限りません。棚卸しによって在庫が合わないとわかれば、破損や紛失、盗難などの原因を把握することで在庫管理の課題と改善点が明らかになり、日々の在庫管理業務の見直しにもつながります。

販売機会の損失を防ぐため

在庫の中には、仕入れたものの売れ行きが鈍く未使用のままになっている「滞留在庫」や、不人気や低品質のため倉庫に残っている「不良在庫」などもあります。滞留在庫や不良在庫が多ければ、仕入れコストが回収できないだけでなく、在庫管理コストもかさんでビジネスにネガティブな影響を与えます。

棚卸しによって、利益につながりにくい在庫を洗い出すことで、商品の動きや品質状態を詳しく把握して販売機会の損失を防ぎます。今後の仕入れの参考情報を得る機会としても有効です。

棚卸しの時期と頻度

棚卸しは一般的に年1回、会計年度の「期首」または「期末」に実施します。棚卸資産として決算書に記載する場合は期末に行います。1月1日から12月31日までを会計年度のサイクルとしている会社の場合、決算月である12月が棚卸しの時期です。

より正確な在庫管理が求められる場合、企業によっては半期、四半期ごとなど年数回の棚卸しを行うケースもあります。

棚卸し作業の種類

棚卸しの作業形態には大きく「帳簿棚卸」と「実地棚卸」の2種類があり、両方を実施することでより正確な在庫数を把握できます。実際に在庫をカウントする際は「リスト方式」「タグ方式」「バーコード式」のいずれかの手法で実施します。

帳簿棚卸

商品や材料を仕入れたときや出荷したときに、帳簿に数量を記録する形で在庫の管理を行う方法を帳簿棚卸といいます。入出庫の都度記録するため、まとまった作業時間が不要である一方、入庫から出庫までの間の期間の在庫変動をチェックできないため、帳簿と実数が異なるケースについては別途対応が必要です。

実地棚卸

店舗や倉庫にあるすべての在庫をカウントする実地棚卸は、いわゆる「棚卸し」のイメージそのものの手法です。

実地棚卸は時間と手間がかかるため、日常的な帳簿棚卸でおおよその数字を把握しつつ、期末など一定のタイミングで実地棚卸によって正確な数字を把握する、といった考え方で棚卸しの全体像を理解しておくと良いでしょう。在庫の種類や数量、倉庫の規模により、実地棚卸にかかる時間はさまざまです。

リスト方式

実地棚卸の際、在庫のリスト(帳簿棚卸高)を元に実際の在庫(実地棚卸高)と照らし合わせるカウント方法です。棚卸し作業者がリストを携え、記録されている数字と現物の数が一致するかを確認し、相違があれば正しい数値をリストに記入していきます。

このリスト方式のカウントの場合、総合的な作業時間はかかりにくいものの、カウントの漏れや作業者間での重複確認が起きないよう注意が必要です。また、在庫リストに載っていない商品があった場合の対処法なども事前に決め、棚卸しの混乱やミスが起きないようにしましょう。

タグ方式

実地棚卸の際、作業者がチェックした現物に品目や数量、担当者名などを記入した連番のタグ(棚札)を棚などに貼り付けていくカウント方法です。数え終わったものにはタグが残るため、棚卸しの重複や漏れを防ぐことができるメリットがあります。最後にすべてのタグを回収して集計します。

リスト方式と比較してトータルの作業時間が長くかかるのがタグ方式のデメリットですが、カウントの漏れが起きにくく、さまざまなビジネスや商品の形態に適用しやすい手法といえます。

バーコード方式

実地棚卸の際、現物や棚に貼り付けられたバーコードをスキャンすることでカウントしていく方法です。大量の商品を扱う業種、かつ棚卸し専用のシステムを持つ企業では、精度、効率、コスト面に優れたバーコード方式が多く採用されています。

棚卸し作業の基本的な手順

実地棚卸を正確に実施するには、作業の段取りと作業者間の情報共有が特に重要です。事前準備、当日の作業、注意点に分けて、棚卸し作業のプロセスを理解しておきましょう。

棚卸しの事前準備

棚卸しの当日までに、以下の四つの準備を進めておきます。

1.商品別の管理表の作成
2.倉庫内の見取り図の作成
3.倉庫の整理整頓
4.タイムスケジュール、人員配置の決定

棚卸し作業時に在庫記録を記入する「管理表」には、「商品名(品番)」「単価」「個数」「合計金額」「作業者名」などの項目が必要です。紙またはタブレット端末などで、作業者全員が使用できるようにしましょう。

倉庫内や店内のどの場所にどの商品があるかを示す「見取り図」も、全員分用意します。棚や区画ごとに担当者を決める際にも便利です。

また、倉庫によっては1種類の商品が複数の場所に置かれていたり、1カ所に複数の商品が混在している可能性もあります。棚卸し作業当日のトラブルや混乱を避けて効率化を図るためには、事前の整理整頓が欠かせません。

棚卸し当日の作業スケジュールと、作業担当者や人数といった人員配置、棚卸しの作業順序などもあらかじめ決定しておきます。当日の倉庫への入荷・出荷品目に関しても、棚卸しでカウントするのか、それとも対象外とするのかなど、前もって確認・共有しておきましょう。

棚卸し当日の作業

実地棚卸の当日は、2人1組で作業することが理想的です。1人が現物をカウントし、もう1人が管理表への記入と確認を行うことで、カウント漏れや記載ミスなどを防ぎやすくなります。

作業者は棚卸しを担当するエリアで、1種類ずつ商品の品番や数を確認し、記録していきます。この際、見た目や品名の似た商品を同一商品としてカウントしていないか、カウント数に誤りがないか、全商品を漏れなくチェックしたかなどに注意しましょう。品名やカウント方法が不明な商品があった場合は、わからないまま放置せず、後でチェックするために別途確保しておくなどすると混乱を避けられます。

棚卸し作業が終わったら、カウントされていない商品がないかを確認します。その上で、作業者全員の管理表を集めて集計作業を行います。集計の結果、帳簿棚卸と実地棚卸の数字が一致しない場合は理由を調査して明らかにしましょう。

棚卸し中に発生した不明点や問題点は必ず情報をまとめておき、一つずつ解決・改善することで次回の棚卸しに役立てられるようにします。

注意点

棚卸しは作業量が膨大であるため、小さなミスが積み重なって大きな間違いにつながることもあります。以下の注意点を意識しながら準備や作業を行うことで、ミスの予防に努めましょう。

  • 棚卸し手順の明確化
  • カウントのダブルチェック
  • 作業時間の管理

棚卸し作業を開始する前に、作業者全員が同じ作業方法を理解しておく必要があります。管理表の使い方から現物のカウント方法まで、必ず全員に周知してから作業にかかりましょう。間違った方法で作業をしてしまうと、正確な棚卸し結果を得ることができず、作業のやり直しが発生する恐れもあります。

また、2人1組で作業にあたったとしても、間違いが発生する可能性はゼロではありません。可能な場合は、別の作業者が再チェックするダブルチェックの体制を採ると、ミスを防ぎやすくなります。

作業時間を管理することも、棚卸しの正確性と効率性のために重要です。棚卸し作業が長引いて予定時間を過ぎてしまうと、店舗の営業や倉庫の稼働などにも影響が広がります。「何時までにどの品目まで棚卸しを完了させる」といった目標を立て、作業進度を確認しながら進めると良いでしょう。

ビジネス形態や環境によっては入出庫作業のない深夜などに棚卸し作業を行うケースもありますが、人件費が高いのが難点です。作業が長引けば人件費がいっそうかかるため、予定時間内に作業を完了できるよう、実現可能な棚卸しスケジュールを立てましょう。

棚卸し在庫の評価方法

棚卸しによって在庫数量の確認しただけでは、在庫と利益との相関関係が不透明なため、棚卸資産の評価額を確定する必要があります。棚卸し在庫の評価方法には「原価法」と「低価法」の二通りがあり、取り扱い商品の特性やビジネスの形態によりどちらか一方を利用します。評価方法は事業開始時に選択し、所轄の税務署への届け出が必要です。

原価法

原価法とは、仕入れなどで在庫を取得したときの原価を基準に評価を行う方法です。原価法で在庫の評価価額を計算するためには、個別法、先入先出法、総平均法、売価還元法、移動平均法、最終仕入原価法という6種類のうちいずれかの方法で計算することが定められています。

低価法

低価法とは、在庫の仕入価額(原価)と棚卸しの際の時価のうち、低いほうの価格を評価に適用できる評価方法です。流行のサイクルの早い商品など価格変動が激しい商品を扱うビジネスであれば、低価法を採用することで時価変動に伴う自社への影響を把握しやすくなります。

棚卸し作業を効率化する三つのポイント

棚卸し作業を効率的に進め、通常業務に及ぼす影響を抑えるためには、棚卸しの前に三つのポイントを検討しておくことがおすすめです。

1. 自社に適した棚卸しの方法を選択する

実地棚卸しの進め方には、「一斉棚卸」と「循環棚卸」という2種類の方法があり、ビジネスのスタイルに適したほうを選ぶことで効率的な棚卸しが可能になります。

一度の棚卸しですべての在庫をカウントする一斉棚卸は、全品目の棚卸しを一斉に行うため作業効率に優れた方法です。しかし在庫数が多いと作業が予定期間内に終わらず、日数がかかれば他の業務に影響する可能性も否めません。一斉棚卸を選択する場合は、在庫や人員の規模を検討してみると良いでしょう。

循環棚卸は、商品ごと、倉庫のエリアごとなどに分割して順番に棚卸しを実施します。区分ごとの作業にかかる時間は限定されることから、通常業務と並行して少しずつ棚卸しを進められるのがメリットです。ただし、棚卸しにかかる期間は長くなるため、期間中の人員確保や作業精度の均質化に注意が求められます。

2. ツールの検討

昔ながらの棚卸しは全商品を一つずつ手作業でカウントし、帳簿などに記入していくものでした。しかし最近では、商品をカウントするためのツールの活用も進んでいます。

ハンディターミナルを用いたバーコード式の商品カウント方法であれば、データ集計はシステムで自動的に行われるため棚卸しの工数が減少します。また、ICタグで商品を管理するケースでは、スキャンするために商品自体を動かす手間がなく、データを一括で読み込むことができます。人員確保の課題や時間の制約がある場合は、専門の棚卸し業者に依頼することも可能です。

3. 日頃の準備

棚卸しの作業効率を左右するのは、日頃からの準備です。日々の業務の中で倉庫内を整理整頓しておく、帳簿棚卸の記入ミスをなくす、といった注意を払うことで、実地棚卸の作業が格段にスピードアップし、精度も上がりやすくなります。

棚卸しの目的は、作業者が自分の担当分の作業を終わらせることではなく、在庫全体の数や状態を明らかにして、ビジネスの利益を把握することだと全員が理解しておくことも肝要です。そのために日頃から正確な在庫管理を行うことの重要性を周知しておきましょう。

幅広い店舗業務を支えるSquareのサービス

実地棚卸の集中作業を円滑に進めるためには、通常業務の一部である在庫管理などのルーティーン作業をシステム化することが推奨されます。システム化といっても複雑なシステムの構築や、高コストのシステム管理の枠組みを導入する必要はありません。店舗やビジネスの規模に合うツールやサービスを利用してみましょう。

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Squareを導入して日々の作業を効率化することで、毎年の棚卸しを円滑化し、中長期のビジネスプランを描きやすくしていきましょう。

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執筆は2018年12月3日時点の情報を参照しています。2023年3月8日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash