仕事と子育て、理想のバランスを自分でつくるには --ママはビジネスオーナー イベントレポートvol.2

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試行錯誤の中で得られた短期的な利益と長期的な視点のバランス

ここまでの話を聞くと順風満帆のようだが、嶋田さんは「失敗や試行錯誤の連続だった」という。例えば、夜の時間帯の営業は一度やってみて止めたそうだ。

「夜の営業を始めたときは私も本当によく分かっていなくて、夜にサンドイッチは食べたくないだろうと、昼とは出す料理を変え、1日二毛作みたいになってしまいました。そうしたら、スタッフにとても負荷がかかってしまって……。
私は(小さい子どもがいて)夜は出られないので、スタッフに任せることになるのですが、帰る時間が遅くなってしまうとか、スタッフに人間らしくない働き方をさせてしまうのは嫌だな、と思ったんです。経営している私が子育て中のお母さんなんだから、そこに素直に合う営業時間にしたほうがいいと思って、夜営業をきっぱりやめました」(嶋田さん)

田村さんは、そんな嶋田さんのバランス感覚の良さを指摘した。

「難しいところですよね。短期的な売上を考えたら夜も営業した方がいいと思うんです。だけど長期的に考えると、それによってスタッフが辞めちゃったりする方が経営に対するデメリットが大きい。人間ってどうしても短期的な視点で見てしまうけれど、長期的な視点を持たれているのが嶋田さんのすごいところですね。だけど長期的な視点ばかりだと目先の利益が追えなくなって、それはそれでお店を守れなくなってしまうので、ちょうどいいバランス感覚が必要。『こうやればバランスのいい経営ができますよ』なんてことはないので、トライアンドエラーなんですよね」(田村さん)

人生で大事なのは子どもだから、思い切って休業したことも

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「子育てをきちんとしたいし、仕事もしたい」という明確なイメージをもって独立したという嶋田さん。『あぶくり』をオープンした当初は定休日なしの無休で働いていたそうだが、それも嶋田さんの中では理想にたどり着くためのステップだったという。

「会社を辞め、『仕事も育児もうまく両立してます』という環境は、すぐには手に入るものではなくて、時間がかかるんですね。
なので、まずはスタッフを育て、私がいなくてもお店が回るような仕組みを作ることに時間を費やしました。オープンして2年後くらいには私が土日にお休みを取れるようになり、その後は子どもたちと長期の旅行に行くこともできました」(嶋田さん)

嶋田さんの夫は出張が多く、両親も遠方のため、家事・育児もほとんど嶋田さんの担当だが、自分がお店を休める状態を作る準備期間は、子どもたちが通う保育園で夜10時までの延長保育があり、必要なら土日も預かってくれたことが大きかったそう。一方で田村さんは、母親が働くことに対する理解がまだまだ進んでいない現状を課題として挙げた。

また、子どもが熱を出したりすると保育園にも預けられないし、週末に学校の行事があることもある。そういうとき、嶋田さんは思い切ってお店を閉めたそうだ。

お店を閉めれば売上は落ちるし、顧客にも迷惑をかける。最初は、それに罪悪感を感じたという嶋田さんだが、人生の中で何が大事か、よく考えれば割り切れたと語る。

「子どもが小さいときは今だけだし、自分の長い人生の中でどちらが大切かといったら絶対子どもだから、運動会があれば割り切ってお店を閉めて参加しました。今振り返れば、6年間『あぶくり』をやってきたうちの1〜2日休むなんて、別に大したことないじゃん、と思えますよ(笑)」(嶋田さん)

「自分のやりたいこと」から「人から必要とされること」へ

嶋田さんは今年の夏に「あぶくり」を閉店し、今は「神田川ベーカリー」というパン屋の経営に携わっている。

次のステップに進んだ理由について、嶋田さんは次のように語った。

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「私は本当に飲食店経営の経験もなく、とにかく行動しながら学んでいったんです。だから、最初の頃はやらなければいけないことが常にありました。でも、6年くらいお店を続けていたら、それがどんどんなくなっていくんですね。ある程度いいお客さんもついて、スタッフにも恵まれて、私がいない状況でもお店が回るようになりました。そうなると、ちょっと何か違うな、と思い始めて……」(嶋田さん)

それまでの嶋田さんは、大学進学も、就職も、独立も、すべて自分のやりたいことを中心に選んできた。それが最近は、「人の役に立つこと、人に必要とされていることをなにかできたらいいな」と思うようになったそう。そんなときに 「あぶくり」を譲り受けたいという人が現われたり、「神田川ベーカリー」の経営を現場でやってほしいという相談がもちかけられたりした。

「たまたま条件がうまく揃ったということもあって、『神田川ベーカリー』で私を活かせるんだったら、そうしようかと。人が困っていることに対して手助けしたり、今まで自分が培ってきたものを役に立てられるんだったら、そういう生き方もいいのかなと思ったんです。これってやめるタイミングなのかな、と感じて『次に行こう!』と決めました」(嶋田さん)

「あぶくり」の閉店を知らせると、嶋田さんが思っていた以上にたくさんの人が惜しんでくれた。それは、嶋田さんにとって大きな自信につながり、これから生きていく上での糧になったという。

「神田川ベーカリー」は昨年オープンしたお店だが経営がうまくいかず、それまでのスタッフが辞め、秋から入った嶋田さんは新しいスタッフの採用をするところから始めた。商品はそのままに、体制を整え、データ管理や現場運営などをテコ入れし、すでに売上が上向いているそうだ。

嶋田さんが一番重視しているのは、働く人のモチベーションと、そのためのコミュニケーションだ。

「私がやりたい『神田川ベーカリー』は、人がいないと実現しません。お店を作るのは人なので、人の環境を良くしてモチベーションを上げていかない限り、お店は良くならないんです。そこが課題だったので、最初に取り組みました。
今はとにかくコミュニケーションを取るようにしています。お店や私に対して何か意見があるならいってほしいと。それがいえる関係でいられるよう、かなり意識してやっています」(嶋田さん)

そんな嶋田さんの話を聞いて、田村さんは経営者になる厳しさにも言及した。

産休・育休などの制度があり、仕事の道具も会社支給、社会保障費も会社が一部負担するなど、会社勤めをしていた人が独立起業すると、社員という立場はかなり恵まれていたことに改めて気づくケースが多いという。嶋田さんも、「会社ではデスクに座っていれば、何もしなくてもお金がもらえるんです。でも、独立すると何もしなかったら何も入ってこない」と笑う。

一方で、経営者には「自分で時間の管理ができる」という良さもある。嶋田さんは「自由を手に入れるためには責任を負う必要がある」という覚悟を語った。

参加者との質疑応答も

会の後半は、参加者を交えた質疑応答が行われた。その内のいくつかを、Q&A方式で紹介する。

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Q.
会社の事業として新しい飲食店を立ち上げる仕事をしているのですが、企画側の人間と、現場で働く方の思いのギャップがどうしても生まれてしまいます。嶋田さんはそういう経験はありますか?

嶋田:私が「神田川ベーカリー」の運営に携わるようになったのも、企画側と現場側で分かれてしまった、ということがあったんです。企画も現場も分かるのが私だったということで、私が入ることにしました。
思いを一致させるためには、ぶれないビジョンがとても大切です。誰もが分かりやすい言葉でビジョンをまとめ、最初の段階で説明をするほかに、日々こと細かくコミュニケーションを取ることが大事だと思います。

Q.
喫茶店をやりたいと思っていますが、お金の管理や税金のことなど、経営のために必要なことが全くわかりません。

嶋田:やらざるをえないことなので、やりながら学びました。毎月かかるお金については、家賃がこのくらいで、光熱費がこのくらい、食材費はこれで……というようなことをExcelに入力して考えていました。簡単なことですよ。
何人来て、何個売れて……みたいなことを記録して、データを分析するのが大好きなんです。最近ではSquareでそういうデータが見られるので、よく見ています。

田村:税金の話でいうと、個人事業でも法人でも、設立してから何カ月以内に税務署に届け出をしなければいけないなど、期限があるものもあります。それについては本屋さんにいくらでも『初めての起業』みたいな本があるので、経営するにあたりやらなければならないこと、スケジュール的なものを社長自身も学ばれた方がいいと思います。そういうことの代理をするのが税理士や社労士などの専門家なんですけど、何の業務を依頼するのか経営者として理解していないのは、なかなか怖いことだと思うのです。お金を払う取引なわけですし。もちろん私は、信用していただける税理士ではありますが(笑)いち経営者として、どんな取引も最終的な責任は社長が負うことになりますからね。

嶋田:専門家が必要なことは、専門家にお願いしました。それは、私の労力をそこに使う必要はないと思っているからです。逆に、お店の経営とか、どういう商品を出したらいいかといったことは私しか考えられないので、そういうことに時間を使うようにしていました。

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Q.
小さいお子さんふたりを育てながら、データを分析する時間はどうやって見つけるのですか?

嶋田:私も、会社員時代はオンオフがすごくはっきりしていました。機密事項が入っていたのでパソコンも持ち帰れなかったですし。逆に、うちの主人なんて設計事務所を自分で経営してるので、四六時中仕事しているんです。当時はそういう人を、「オンオフのないやつ」みたいな感じで見ていたんですけど、今は私も生活と仕事がほぼ同じというか、生活の延長線上が仕事、みたいな働き方をしてるので、いつでも仕事のことを考えていますね。
でも、それが好きなことだし考えるのがすごく楽しいんですよ。ちょっとした時間でもパソコンをパッと開いて、データをバーッと入力して「おぉ、こんな感じか! じゃあ、来週このぐらいの仕込みにしようかな」みたいな……。
だから特別にその時間をとるというよりも、例えばみんなでご飯を食べた後、娘たちがDVDを見ている隣でちょっとやるとか、そんな感じです。5分ずつでも1日10回あると50分じゃないですか。私は結構切り替えができるので、それで普通に仕事できていますね。

Q.
起業したいと思ってアイデアは出しているのですが、本当にビジネスになるようなレベルなのか自信がありません。確信を持てるターゲット設定やデータ分析のために、どんなことをされてきたんですか?

嶋田:カフェはたくさんあるので、その中で差別化ができることはなんだろう、と考えました。それは、私が子育てをしながらカフェをやっていることだと思ったんです。だから、子育てをしているお母さんが来やすいカフェにしようということは最初から決めていました。ただ、大きな会社と違ってデータがないので、やってみないことにはわかりません。最初から細かくは決めず、まずはやってみて、それでダメなら修正する、というのをくり返して、ターゲットを絞っていきました。
データについては、何月何日にどんな天気で気温が何度、この日はどんなお客さんが多かったとか、そういうことを細かく書くようにしていました。そうすると「1年前のこの日にこういうイベントが近くであって、そっちにお客さんを取られちゃったな」というような振り返りができて、役に立ちました。ただ、データだけではなく感覚も絶対に必要なんです。自分がきちんと現場に出て、「サンドイッチはこのくらいの値段だったら、お客さんは払ってくれるだろう」とか、「最近この商品出てないな。これはもう削っちゃおう」とか、そういう感覚も大事だと思います。

Q.一番失敗した経験や、独立前の予想と違ったことを教えてください。

田村さん:私は安定のために資格をとったんですよね。資格さえ持っていればお客さんがすぐ来ると思っていたんです。でも、全然来なくて一年目の売上が悲惨だったというのが、予想と違ったことですね。
そこから、どうしたらお客さんが来るかを考えて軌道修正しました。あまりお金がなかったので、ブログをコツコツ書いたんです。
お客さんから見たら「どの税理士に頼んだって同じ」と感じられると思ったので、どう差別化するか考えて、女性であることと20代であることを前面に出しました。税金の知識とかは他の税理士先生も書いているので、シモネタも交えたブログを書いたところ、それが一部のニッチな人に受けるようになりまして……。逆にそれがすごくよかったんです。というのは、変なブログを書いても依頼してくださるお客さまなので本当に相性がよくて。結果、あのブログでよかったなぁと。

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▲2018年12月7日に文響社から刊行された『ブスのマーケティング戦略』は、田村さんの半生記とマーケティング理論に基づいた行動提案が楽しみながら読める一冊。

田村さん:……で、ですね、税理士の営業のために始めたブログなんですけど、それを出版社の方に見つけていただきまして、12月7日に『ブスのマーケティング戦略』という本を発売いたしました。内容は、まったく税金には触れてはおりません(笑)。ただ、結構真面目に書いています。「ブスという一見売り物にならない商品をどうやって買ってもらうのか」ということを、きちんとマーケティング戦略に基づいて書いています。マーケティングのマの字も知らない方でも結構読めるような本となっております。今日、少し持って来ていますので、もし良かったらこの後お買い求めください。なんだか最後は営業しちゃって本当にすみません(笑)

イベント終了後の会場は、田村さんの本にサインをもらったり、互いに情報交換する参加者の方々の熱気と笑顔に溢れていた。ここで聞いた話や出会いに背中を押され、近い将来ビジネスオーナーとなるママが生まれるかもしれないと思うと、とても楽しみだ。

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文:やつづかえり
写真:和久田知博

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