海外のコピーはもういい。もっとコーヒーに特化したオリジナルの店をやりたい。その想いはどんどん強くなっていきました

バリスタとして15年のキャリアを持つ國友栄一さんは、これまで数多くのバールやカフェを手がけてきた伝説のバリスタ。コーヒーに特化し、クリエーターとして最高の味を追求した店が「OMOTESANDO KOFFEE」です。
もうひとりのバリスタ三木隆真さんとともに、コーヒーに真摯に向き合った珠玉の一杯を提供します。

海外のコピーのような店づくりをしたくない

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初めて飲食という業界に足を踏み入れ、イタリアンレストランで働くようになったのは、26歳のときでした。イタリアンではエスプレッソが定番です。コーヒーとの出会いは、たまたまと言ったほうがいいのかもしれません。
イタリアで修業を積んだあと、バリスタという立場で、大阪をベースにいくつかのイタリアンバールを開業しました。ところが、バールというスタイルは大好きなのに、日本ではなかなか認知されず広がっていかない。ここは日本だ。もしかするとイタリアに行ったことのない人には堅苦しいのかもしれない。そんな思いから、2009年4月に、“日本人に合った日本のバール”「パンとエスプレッソと」を、表参道に出店しました。おいしいパンと本格的なエスプレッソを提供する。イタリア人が一日に何度もバールに足を運ぶように、生活のルーティンの中に溶け込むような店にしたかったのです。
コーヒーはじつに魅力的で、一日に何度でも口にする食材です。しかもさまざまな国の人に愛されていて、こんなに万国共通の食材はありません。海外のコピーはもういい。もっとコーヒーに特化したオリジナルの店をやりたい。その想いはどんどん強くなっていきました。

たった2坪で開業できる“スクエア”なオープンキッチン

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コーヒーショップを開業するにあたって、誰にでも応対する店や、伝わりやすくすることはあえてやめようと思っていました。場所も、なじみのある表参道から離れたくなかった。都心の一等地ですから、家賃も安くはありません。でも、だからといって、ランチやディナーに対応する店にもしたくない。どうしたらこの高い家賃でもコーヒーに特化した店ができるのか?そこでひらめいたのが、スクエアの形をした売店、オープンキッチン的な四角いカウンターテーブルのある、キオスクスタンドだったのです。

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お手伝いをするようになった地元の町内会の方から、この古民家の大家さんを紹介されました。建物の持っているチカラというものは、あるに越したことはありません。箱体をイメージする店舗デザインを採用したことで、建物から独立した、普遍的な世界観を演出することができます。
このスクエアというコンセプトをもとに、2011年1月に「OMOTESANDO KOFFEE」をオープンしました。当時、よくいらしていただいたお客様に、表参道で日本法人の立ち上げを準備していたサンフランシスコの外国人チームがいました。名刺をいただくと、会社名に「Square」とある。これがきっかけで、うちも日本で初めて「Square」を採用する10店舗のひとつになりました。まさにスクエアがつないだ縁です。

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人によって味を変えて「作品」を提供する

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私にとって、コーヒーとは「作品」だと思っています。バリスタはそれを提供するシェフ。バリスタで15年のキャリアをもつクリエーターとして、絵描きが絵を描くように、味を構成していくのです。
ひと口にカプチーノと言っても、味の表現法はさまざまです。毎日飲む人、たまに飲む人など、できるだけお客様の好みを知り、データをもって、提供するカプチーノの味を変えていきます。ウエアも制服の白衣をイメージし、カウンセリングするという意味も込めています。バリスタとお客様が1対1で向き合うことができるようなマシンの配置にし、エスプレッソを抽出している様子をあえて見えるようにしているのは、バリスタの私たちも、緊張感のあるなかで、クオリティの高いものを提供するためです。

“だし”の役割をする豆に個性的な豆をトッピングする

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“シェフ”として自分たちで調理していく以上、食材の仕込みが必要です。私たちにとって、それが豆のブレンドです。もし仕込みの過程がなく、豆を抽出するだけなら、マシンを操作するだけのオペレーターと同じです。
ブレンドは週に1度、焙煎した4種類の豆を使って行ないます。単一の豆を焙煎してから混ぜる「アフターミックス」という方法を採用しているのは、豆の個性を最大限に引き出せるから。生豆を混ぜてから焙煎する「プレミックス」では、平均的な味になってしまいます。本来は豆ごとに、ベストな焙煎の方法や時間が異なるからです。
“だし”の役割をするベースとなる豆に、個性のある豆をトッピングしてひとつの味を構成していく。それが私たちの考え方です。
それによって生まれたエスプレッソは、ひと口目に力強いボディーを感じ、ふた口目には香ばしさや甘味が広がってくる。そして三口目には、酸味と透明感のある深い味へと変化していきます。そして最後には、心地よい余韻が口の中に長く残る。こうした起承転結のある味こそ、ぜひ知っていただきたい、エスプレッソの醍醐味だと思うのです。

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本記事は2015年3月現在の情報です。