CSRはCorporate Social Responsibilityの略称で、「企業の社会的責任」と訳されています。経済のグローバル化、インターネットの発展・普及に合わせて、ひとつの企業に関わるステークホルダーが増え、企業の社会的責任の範囲も拡大しています。近年では、CSRをビジネス戦略として考える企業も登場しています。
今回は、CSRについて以下の項目に分けて説明します。
・コンプライアンスとの違い
・ステークホルダーとの関係
・ISO26000とは何か
・CSRと企業の発展
・企業がCSRを果たすためのヒント
CSRとコンプライアンスの違い
CSRと似たものとして、コンプライアンスがあります。双方ともに企業の責任や姿勢を問うものですが、その中心にあるものに違いがあります。
コンプライアンスは法令遵守を意味し、中心にあるものは、国が定めた法律や地域の条例、社会的規範を守ることです。法令を守らないようなことが起きた場合、顧客の信頼を失い、従業員のモチベーションが低下し、事業が継続できないほどのダメージを受ける可能性もあります。コンプライアンスは、企業がルールを守り、健全に事業を継続することを目的としています。
一方、CSRで重視されるのは、ステークホルダーと企業の関係です。企業を取り巻く社会環境は日々変化し、経済のグローバル化やインターネットの普及に伴って近年ではさらに複雑化しています。たとえば、地球温暖化や少子高齢化、子育て世代の働き方などの社会課題に取り組んでいる企業も多いのではないでしょうか。こうした社会の課題は、法令を守ることで一律に解決できるものではなく、また答えもひとつではありません。各企業が自社にあった形で自発的に行う活動である点もコンプライアンスとの違いです。
CSRとステークホルダーとの関係
企業が社会的責任を果たすには、それぞれの企業を取り巻くステークホルダーの動向を知ることが重要と考えられています。
ステークホルダーとは、企業と利害関係にある者の総称です。具体的には、株主や取引先、消費者、従業員、そして企業が営業所や工場を置く地域の住民などが含まれます。
ステークホルダーのニーズはそれぞれです。株主は利益を出し株の価値が上がるような企業を、取引先は良い条件で継続的に取引できる企業を、消費者は低価格で良質な商品を提供する企業を選びたいと考えているかもしれません。地域住民は、雇用の増加による経済活性化や地域環境への配慮を求め、従業員は多様な働き方の許容を求めているかもしれません。
CSRでは、それぞれのステークホルダーのニーズを理解し、企業としてどんな取り組みができるかを考えることが求められます。
2015年に金融庁と東京証券取引所が上場企業の統治指針として発表した「コーポレートガバナンス・コード」では、ステークホルダーとの適切な協働が基本原則に記載されています。
ISO26000
CSRには、国際標準化機構(ISO)が定める「ISO26000」という国際規格があり、日本でも多くの企業がこの規格に則った活動を行っています。
ISO26000には「中核主題」として
・組織統治
・人権
・労働慣行
・環境
・公正な事業慣行
・消費者課題
・コミュニティへの参画及びコミュニティの発展
の7つが提示されていて、企業はこれらを基に取り組みを行っています。
CSRは企業を発展させる
企業の社会的責任と聞くと、ボランティア活動など、事業とは直接関係ないと考える人もいるかもしれません。
最近では、CSRが社会的責任を果たすことだけでなく、企業の継続的な発展につながるものであるという考え方が広まりつつあります。このような新しい考え方のひとつが「CSV」です。
CSVとは
CSVとはCreating Shared Valueの略称で、共通価値の創造と訳されます。2011年にマイケル・ポーター教授がハーバード・ビジネス・レビューで提唱し、企業が社会の課題を解決することで、社会的価値とともに経済的な価値も創造されるという考え方です。
企業の社会的な役割について言及している部分はCSRと共通ですが、CSVでは社会課題の解決を企業の利益と結びつけています。
街のコーヒーショップを例に考えてみます。たとえば、テイクアウトの紙コップをリサイクルペーパーから出来たものにしたり、プラスチックのお皿やストローを使用しなかったりすることは、環境に配慮したCSR活動といえます。
さらに、コーヒー豆をマーケットの開拓に困っているフェアトレードの農園から取り寄せ、農園に日本の消費者が好む豆の傾向をアドバイスしたり、コーヒーを店舗で提供するだけでなくオンラインショップから焙煎した豆を買えるようにしたりすることで、コーヒーショップと農園の両方に利益が生まれ、また消費者にとっても美味しいコーヒーを飲めるチャンスが増えます。
CSRから一歩踏み込んだ、社会的責任を果たすことと、企業の利益活動の両立がCSVだと考えられます。
社会的責任からビジネス戦略へ
環境省による企業の調査結果からも、CSRに対する考え方が、社会的責任からビジネス戦略へと徐々に変化する様子が見てとれます。
環境省が行った環境にやさしい企業行動調査(平成27年度)によると、環境に配慮した取り組みを企業活動の中でどのように位置付けているかという質問では、「社会的責任」と回答した企業が66.2%と最も多く、続いて「重要なビジネス戦略の一つ」と回答した企業が15.6%という結果が出ています。
CSRを行う際のヒント
CSRを行う際、社内にCSRを浸透させるためのヒントを紹介します。
まずは経営陣の浸透を
CSRを果たすには、まずは取締役など経営に関わる人がCSRの重要性を認識することが大切です。従来のCSRのイメージが強いと、CSRをボランティア活動のようにイメージしている経営陣もいるかもしれません。ステークホルダーとの協働が企業の発展に不可欠であるという認識のもと、ビジネスの一環として取り組みを進めていくことが重要です。
逆にCSRに取り組まないことにより、長期的な利益計画にどのような課題が生じるかという切り口から考え始めてもよいかもしれません。
従業員の理解を得る
CSR活動を実践するのは従業員です。そのため、従業員の日常業務にCSRを浸透させることが重要になります。
企業のブランドイメージの向上や長期的な成長戦略のための投資であるなど、従業員の業務や報酬にも関わってくることだと伝えましょう。その上で、明確な目標設定やスケジュール設定をすること、また聴講スタイルではなく、ワークショップ形式でのミーティングなどを設けて、一人ひとりでが考える機会を作るとより浸透しやすくなります。
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執筆は2018年5月16日時点の情報を参照しています。
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