個人事業主が法人化するメリット・デメリットや必要な手続きについて

現在、個人事業主として事業を営んでいる人の中には、事業の法人化に関心のある人もいるのではないでしょうか。法人化した場合のメリットやデメリットや、得られる節税効果、法人化するタイミングや必要な手続きについてわかりやすく解説します。

目次



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個人事業主が法人化した場合のメリット

個人事業を法人化するメリットとしては、社会的信用を得やすいことや金融機関からの融資を受けられやすいこと、株を発行して資金調達できることなどさまざまな点が考えられます。ここでは、法人化するメリットを七つを紹介します。

(1)社会的信用を得やすい

個人事業と法人の違いの一つに登記の有無が挙げられます。個人事業主として開業する場合、所轄の税務署に開業届を提出するだけで事業を開始できるのに対し、法人の場合、法務局にて法人登記を行う必要があります。

法人登記を行うことで社名、本店住所、事業目的、代表者名、決算日、設立日といった会社の情報が登記簿に記載されます。これらの情報は手数料を払えば誰でも閲覧が可能です。公的機関で会社の情報が公開されていることで、取引先やクライアント、銀行などの信頼を得やすくなります。

(2) 金融機関からの融資を受けやすい

事業を拡大するにあたり、銀行や信用金庫といった金融機関から融資を受けることがあるかもしれません。融資する側は、融資される側の事業内容や業績、財務状況を審査して、貸したお金が返ってくるかを判断します。個人事業主でも融資を受けることはできますが、前述したように、社会的信用を得やすい法人のほうが融資がおりやすい場合もあります。

(3)株式を発行して資金調達ができる

株式とは株式会社(企業)が資金を調達するために発行する証券を指します。株式を発行して得た資金は、金融機関から受ける融資とは違い、返済義務はありません。出資者は資金が返ってこない代わりに、保有する株式の割合に応じて経営に参加できます。

(4)一定以上の所得があると税負担が軽くなる

個人事業の場合は所得税法、法人の場合は法人税法に基づいて課税されますが、ある程度事業所得が増えると所得税の税率が法人の税率を上回ります。つまり、事業所得がある一定以上になると、法人の方が税金は低くなるのです。詳しくは「節税効果につながる個人事業主から法人化するタイミング」で説明します。

(5)決算期を都合に合わせて決定できる

決算とは一定期間の収益や費用を計算して、決算日時点の資産や負債を確定することを指します。取引先や金融機関に経営状況を報告する他に、納税額を確定するために行います。個人事業主の場合はその年の1月1日から12月31日までの期間で締め作業を行い、翌年の3月までに納税することが義務付けられていますが、法人の場合、会社の都合に合わせて決算期を設定することができます。決算には煩雑な事務手続が伴うので、繁忙期を避けて決算期を設定できるのはメリットだといえます。

(6)法人の経費負担で退職金の準備ができる

個人事業主の場合、退職金は経費として認められないのに対し、法人の役員(取締役、執行役、監査役など)への退職金は経費として計上することができます。法人の場合、売上高から経費を差し引いた分に法人税がかかるので、節税につながります。

(7)経費として認められる範囲が法人の方が広い

個人事業主では経費として認められなくても、法人化すると認められる経費の一つに、経営者の報酬が挙げられます。個人事業主の場合、売上高から経費を差し引いた分が事業所得となり、事業主の収入となります。一方、法人の場合は経営者は法人から「役員報酬」として給与をもらうことになります。

個人事業主から法人の経営者になることは、事業所得者から給与所得者になることを意味します。給与を経費として計上することができるだけでなく、給与所得者には、給与収入から一定の控除を受けられる「給与所得控除」が適用されます。給与所得控除の詳細は、国税庁のウェブサイトをご確認ください。

参考:No.1410 給与所得控除(国税庁)

また、家族に支払う給与を経費にできる点も法人化するメリットだといえます。個人事業主の場合、親族に支払った給与は一定の要件を満たさない限り、原則経費にはできません。一方、法人化すれば従業員である親族に支払った給与は、専従者かどうかに関係なく、全額経費にすることができます。また、その年収が103万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除の対象にすることもできます。ただし役員の場合は、支払額や手続きに制限があるので注意が必要です。

参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除(国税庁)

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個人事業主が法人化した場合のデメリット

(1)設立時に費用がかかる

法人化するにあたり、資本金の準備以外に、法務局の管轄下にある公証役場や法務局に支払う費用が発生します。株式会社にする場合、最低限以下の費用がかかります。

公証役場に支払う費用

定款認証手数料 資本金が100万円未満の場合:3万円
資本金が100万円以上300万円未満の場合:4万円
その他の場合:5万円
定款印紙代(電子定款の場合は不要) 4万円
定款謄本代 謄本1枚につき250円
(おおむね8枚2,000円ほど)

参考:公証事務(日本公証人連合会)

法務局に支払う費用

登録免許税 15万円(もしくは、資本金の1,000分の7のいずれか高い方)

参考:No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)

設立時にかかる費用は資本金で異なります。

資本金が100万円の場合
定款認証手数料 4万円
定款印紙代 4万円
定款謄本代(8枚)2,000円
登録免許税 15万円

合計 232,000円

資本金が3000万円の場合
定款認証手数料 5万円
定款印紙代 4万円
定款謄本代(8枚)2,000円
登録免許税 21万円

合計 302,000円

(2)社会保険への加入が必要

個人事業主の場合、従業員が5名以下であれば社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入は任意であるのに対し、法人化すると雇用人数や、雇用の有無に関わらず加入が義務付けられます。事業主のみの場合も加入が必要です。社会保険料の負担は健康保険と厚生年金を合わせて給与金額の約30%になります。この保険料は会社と従業員とで折半されるため、給与金額の約15%を会社が負担しなければなりません。

参考:
新規適用の手続き(日本年金機構)
令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表

(3)法人税申告書の様式が煩雑となり、事務業務の負担が増える

決算が終われば、納税申告を行います。法人が行う納税申告には法人税、消費税、地方法人税、法人事業税、法人住民税などが挙げられます。これら全ての納税申告の基となる法人税申告書を作成するにあたり、複数の書類、別表、添付書類が必要となります。別表の作成や、添付書類の準備など事務業務には手間と時間がかかります。税理士に申告書の作成業務を依頼する場合、手間を省くことはできますが、費用がかかります。

(4)所得が低い場合、税負担が個人事業主の場合よりも重くなることがある

個人事業主と法人で大きく異なるのが所得にかかる税率です。個人事業主の場合、売り上げと必要経費の差額から各種控除額を差し引いた課税所得金額に対して所得税が課せられます。一方、法人の場合、売り上げから必要経費を引いた所得金額に対して法人税が課せられます。詳細は「節税効果につながる個人事業主から法人化するタイミング」で説明しますが、課税される所得金額が一定以上ない場合、個人事業主より税負担が大きくなってしまいます。

(5)赤字でも法人住民税の均等割負担が生じる

個人に課せられる住民税と同様、都道府県または市町村に事業所がある法人は法人住民税が課せられます。法人住民税は「法人税割」と「均等割」から成り立っており、法人税割は法人が国に納める法人税額に一定の税率を掛け合わせた額が税額になります。均等割は資本金などの金額や、従業員数によって地方公共団体ごとに定められた税額を指します。

つまり、法人税割は黒字を出した法人のみ支払い、均等割は赤字が出ても支払わなければならないものとなります。

参考:法人住民税(総務省)

(6)一定期間ごとに役員の改選手続きが必要になる

取締役や監査役といった株式会社の役員には任期があります。取締役の場合は選任後2年、監査役の場合は選任後4年とされており、人気が満了すれば退任することとなります。満了後も引き続き役員でいるには、1度退任してから再任する手続きが必要となります。

参考:役員の変更の登記を忘れていませんか?(法務省)

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節税効果につながる個人事業主から法人化するタイミング

法人化するタイミングに関しては、まずは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。法人化には複雑な手続きが伴うだけでなく、法人化した後の資金繰りや、確定申告など、考慮すべきことが多くなります。専門家に相談することで、事業内容や売り上げなどの状況をふまえて、法人化するタイミングにおける的確なアドバイスをもらうことができます。

また、法人化するタイミングでポイントとなるのは所得です。個人事業主と法人では同じ所得でも、かかる税率が異なります。以下の表を参考に見てみましょう。

個人事業主の場合

課税される所得金額 税率
1,000円 から 1,949,000円まで 5%
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10%
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20%
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23%
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33%
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40%
40,000,000円 以上 45%

参考:No.2260 所得税の税率(国税庁)

法人の場合

課税される所得金額 税率
8,000,000円まで 15%
8,000,000円超え 23.2%

参考:No.5759 法人税の税率(国税庁)

個人事業主の所得にかかる所得税と法人の所得にかかる法人税を表でまとめました。

個人事業主の場合、所得金額に応じて税率が高くなる超過累進税率が適用されます。また、事業所得から基礎控除や配偶者控除などを差し引いた金額に対して所得税の他に、復興所得税(2.1%)、住民税(10%)が課せられます。

法人の場合、800万を超える所得には約23%の比例税率が適用されます。また、法人税の他に法人住民税、法人事業税などが課税されます。これらの税目を合計して平均化した「実効税率」は、約30%といわれています。

税負担を考慮すると、所得が800万円以上から900万円未満の段階が法人化しやすいタイミングといえます。また、法人化する際には繁忙期なども考慮した方がいいでしょう。法人化の手続きに追われて、売上を伸ばす機会を逃してしまわないようにしましょう。

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法人化するために必要な手続き

それでは、個人事業を法人化するために必要な主な手続きを、株式会社を例に紹介します。

会社の重要事項を決める
会社の設立には、法務局での法人登記が必要です。登記事項である、会社名、代表者、出資額、住所、目的を含めて登記手続きに欠かせない発起人などを決めます。

会社の印鑑を作る
会社に必要な印鑑は三つあるといわれています。

実印…重要な契約時に使用する印
銀行印…法人名義の口座届出印
認印…行政関係の届け出書類など、実印を使用せずに作成できる書類に使う印

法人名義の口座は登記後でないと開設できませんが、この時点で印鑑を作っておくと安心です。また、実印は印鑑登録を行う上で、サイズの規格があるので印鑑の注文時にその旨を伝えましょう。

定款をつくる
定款とは、規則をまとめた会社の憲法のようなものです。「絶対的記載事項」などもあるので、作成の際には必ず作成条件を確認するようにしましょう。

専門家に作成依頼をすることも方法の一つです。その場合も、任せきりにするのではなく、一つずつ項目をきちんと確認し、自社に合わせて修正を行うようにしましょう。作成後は公証役場での認証が必要です。

資本金の払込
法人登記には、資本金の払込があったことを証明する書面が必要です。そのため、発起人の銀行口座に資本金を振り込み、払込証明書と通帳コピーなどを添えて書類を作成しましょう。

法人設立登記を申請する
以上の手続きが終わったら、必要書類を法務局に設立登記を申請します。実印の登録も同時に行うことができます。

参考:商業・法人登記の申請書様式(法務局)

登記後の手続き
法人設立登記が終わったら、次の届出を税務署に提出する必要があります。

[手続名]個人事業の廃業届出等手続(国税庁)
[手続名]所得税の青色申告の取りやめ手続(国税庁)
[手続名]内国普通法人等の設立の届出(国税庁)
[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(国税庁)

なお、平成29年度税制改正で、法人設立届出書には登記事項証明書の添付が不要になりました。

参考:法人設立届出書等について、手続が簡素化されました(国税庁)

また、必要に応じて源泉所得税の納期の特例承認申請書など消費税法関連書類も提出しましょう。

参考:[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 (国税庁)

自治体への提出書類は、各自治体のウェブサイトで確認できます。この他、社会保険や労働保険の手続きも必要です。税理士や社会保険労務士に代行を依頼することもできます。

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法人化と共に進めたいバックオフィス業務の効率化

バックオフィス業務とは、経理などの顧客と直接関わることがない業務を指します。法人化において、手続きや煩雑な事務作業に手間や時間を費やすことになりますが、事業に支障が出ないためにも、事前にバックオフィス業務の見直しや改善を行っておくといいでしょう。

バックオフィス業務の効率化には以下のようなポイントが挙げられます。

ペーパーレス化
文書や書類など、これまで紙を利用していたものを電子化することで、業務効率化やコスト削減につながります。たとえば、毎月発生する請求書は印刷する紙だけでなく、郵送にも切手や封筒が必要です。請求書を毎月複数枚発行する場合、電子化してメールで送信することで紙の利用を大幅に減らすことができるでしょう。たとえば、Squareではパソコンやスマートフォンで請求書の作成・送信ができるSquare 請求書を提供しています。印刷して郵送する必要がないので、コストの削減にもつながるうえ、請求書の自動送信など、次に説明するバックオフィス業務の自動化にもつながる機能が豊富です。

自動化
これまで人の手で行ってきた作業をソフトウエアなどを利用して実行することを指します。自動化の対象となるものには、在庫管理、顧客管理、経理といった業務が挙げられます。たとえば、Squareの在庫管理機能を利用すれば、登録した商品の在庫を簡単に管理することができます。ECサイトを無料で作成できるSquare オンラインビジネスや、実店舗で利用できるSquare POSレジなども活用すれば、商品が売れた時点で何が・いつ・どれくらい売れた、ECサイトで売れたのか、実店舗で売れたのかといった情報が自動的に在庫情報に反映されます。ECサイトと実店舗の両方の在庫管理が自動的に一括で行えるので、事務作業の効率化を図ることができます。

アウトソーシング
外部の人材やサービスに業務の一部を委託し、社内の業務効率を図ります。業務を委託する場合、その業務において専門的な知識を持っている企業や人材に委託することで、業務の品質向上が見込めます。

この記事では、個人事業主から法人化するメリット・デメリット、節税効果や法人化するタイミングなどについて解説しました。個人事業主と法人では税制度を中心に扱われ方が異なることを理解し、自身の事業内容や規模に合わせて法人化の検討をするといいでしょう。

これから法人化を考える個人事業主の中には、少人数、もしくは事業主のみで経営している場合も少なくないでしょう。今後、法人化を目指して収益を上げていくためにも、事業に集中できるようバックオフィスの効率化を図りたいところです。

たとえば、前述したSquareでは請求書の作成・自動送信や在庫管理の他にも顧客管理など、バックオフィス業務の効率化につながる機能を取り揃えています。事業内容に合わせて活用されてみてはいかがでしょうか。

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執筆は2018年4月26日時点の情報を参照しています。2022年10月17日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
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