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【商いのコト】正直に、精一杯生きることが信頼になる -- 6[rock]

成功も失敗も、すべては学びにつながる。ビジネスオーナーが日々の体験から語る生の声をお届けする「商いのコト」。

つなぐ加盟店 vol.71 6[rock] 荒西浩人さん

正直に生きる。

それは当たり前のようで、誰にでもできることではないように思う。

木工と暮らしの店6[rock] の荒西さんは、正直に生きるためにはどうしたらいいのかを常に考え、行動してきた方。

それは自由奔放なように見えて、自分に、人に、そして社会に優しい生き方のように感じた。

この生き方、僕におおてます

大阪市内から特急に乗って1時間半。篠山城の城下町として栄えた丹波篠山(たんばささやま)の街には、ここ数年、都心から移り住んでくる人が増えているらしい。

そんな人たちの相談に乗ることもあるという荒西さんが営む工房、木工と暮らしの店6[rock] へと向かう。

前の予定が少し延びてしまい、到着が遅れてしまったことを謝ると「遅れてた作業が終わったところやから。ちょうどよかった」と気持ちよく迎えてくれた。

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工房の横に住居があるこの土地に引っ越してきたのは1年ほど前。それまでは同じ丹波篠山市内の中心部にある、築100年の古民家を改装しながら暮らしていたそうだ。

「ここは15年かけて、外構を直して、庭木を植えて。ちょっとずつきれいにしていこうと思うてて。1年経って、ようやく内装ができてきたところです」

そんな話を聞きながら、家具のショールームになっている部屋を案内してもらう。

自分たちで塗ったという白い空間のなかには、荒西さんがつくった椅子やテーブルが並んでいる。家具は基本的にオーダーメイドで、依頼主の話を聞きながらつくっていくものが多いそうだ。

大きな窓からは茶畑、その奥に低い山々が見えて気持ちがいい。

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「家は兼業農家で、子どものころ、連休は必ずといっていいほど畑仕事を手伝わされてたんです。そのときはめちゃめちゃ嫌だったんですけど、後から考えると、土に触れるとか、ものを育てるとか、汗をかいて仕事するとか。そういう楽しさを知ったのはその頃だったんでしょうね」

将来、何なにをしようか漠然と考えながら、いろいろなアルバイトを経験した。そのなかで出会ったのが、大阪・梅田にあるカンテグランデというカレーとチャイの店だった。

「当時の僕はロックバンドをしてるフリーターで、ロン毛で。おもしろい場所があるって聞いて、面接に行ったんです。そこにはアーティストとかミュージシャンがめっちゃおって、みんな創作している。僕、ぴたっとおうたんですよ。この生き方、僕におおてますわって」

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カレーの奥深さを知るなかで、料理の道を考えたこともあった。荒西さんが家具の世界に進むきっかけは、友人のプレゼントにつくった木彫りのアクセサリーだったそう。

「相手が喜んでくれるのがすごい嬉しくて、ほんなら家具職人になろうって。最初の工房ではまあまあ厳しく育ててもらいました。やってるうちに、もっと知りたい、木の手触りを感のあるものをつくりたいと思って転職をしたんです」

次に働きはじめたのは、京都にある一人親方の工房。70代後半の親方は寡黙な人で、背中を見て学ぶ日々だった。

「それが僕には肌がおうて。必死に覚えたろと思ってたんで、できることも増えました。すごく良くしてもらって、お金もそこそこいただいて。でも僕はお金のことよりも、精神的に前向いて走っていたいタイプなんです。いい意味で飽きちゃうんですよね」

正直に生きる

当時遊んでいたのは、デザインや料理、アートなどさまざまな分野で仕事をしている仲間。夜な夜な集まってはつくったものを見せたり、やってみたいことを語り合っていたそうだ。

「それぞれに仕事をしながらも、もっと何かできるって悶々としとって。将来こんなんしたいな、じゃあ俺家具担当なって話しているうちに、会社を立ち上げることになりました。それが大阪にあるgraf(グラフ)です。今でこそみんな普通に生活してますけど、最初の3年くらいはとんでもない貧乏暮らしでしたよ」

大阪のビルを自分たちでリノベーションして、つくったものを見てもらうショールームのような場所に。「暮らしを豊かにする」ということを中心に、自分たちが気持ちいいと思う空間で、いいと思うものづくりを続けていった。

grafの価値観に共感する人は少しずつ増え、荒西さんは家具製作部門の代表として忙しい日々を送っていた。

「何年かして、いわゆる会社っぽくなっていきました。そうしたら、僕のなかでは、ちょっとちゃうなって思うようになって」

「会社と自分のスピード感が合わなくなってきたっていうか。今こういうものをつくってすぐ出したいと思っても、会社では出す時期が決まってて。自分のなかではどんどん回ってるんですよね。旬が旬じゃなくなっていくっていうか。これはもう、僕がおる場所ではないなって思って。僕は抜けて、自分のブランドをやりますって言ったのが40歳のときです」

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「大阪市内で『荒西ファニチャー』とかやってもおもしろくないから。嫁と子ども連れて、篠山で暮らしながらやっていこうと決めて。家具屋っていうよりも、全体的に、生活をクリエイトするなにか。生活空間だけではなくて、考え方とか関係もつくっていく生き方研究所。そんなことできないかなと思って」

家具をつくりつつ、暮らしや生き方を提案していく場所。

「『いい暮らしのための道具や暮らしの提案』と言いながら、なかなか自分に合った暮らしをしている人って少ないんじゃないかなって……。売るためにどうするとか、売上を上げるためにとか、お金が目的になって豊かな暮らしをしていないのに提案するってどうなのかなって」

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「SNSの写真だけ良く見せて、実際本物見たら、え?って……、そんなんバレるんですよ。まずは自分が豊かだと思える暮らしを家族としていれば、嘘はついてない。信じられるお店っていうか、嘘のない人でいたいなっていうのがあって。それは戦略ではなくて、普通のことなんですけどね。その普通を提示したいだけなんです」

「今って正直に生きるっていうことが、より難しい世の中になってるんちゃうかと思うんです。僕らはめっちゃシンプルに、より正直に、家族と一緒に自分らしく。正直に素直にやってたら、人づてで勝手に仕事が入ってきますから」

なんにでも興味がある

自分が正直に、いいと思う生き方をする。

この場所で暮らしはじめて、つくるものに変化はありますか。

「よりシンプルになりましたね。シンプルのほうが難しいんですよ。テーブルの天板をまっすぐにして、厚みがあと2センチ多かったらぶっとくてダサいとか。この足の付き加減も少し中に入ったら和風になっちゃうとか」

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「技術とかセンスっていうのは、やり続けると勝手に上がっていくもんで。僕は外を見ることがすごく大事やと思うんです。飛行機とか、石垣とか、花とか。いろいろなものからデザインが生まれるっていうんですかね」

「僕、基本的にはなんにでもワクワクしているというか。店行って、ここがいいな、自分だったらこうするやろうなとか。定食屋に行ったら、みんな違うもの頼んで、全種類見てみたい。すべてに興味がありますね」

興味を持って観察する。自分だったらどうするだろうと考える。その繰り返しが、つくる家具につながっていく。

「好きでやってるバンドも、サーフィンも、車も。冒険心は蓄える力になる。いろんなことを知ってるからこそ、どこかでデザインに投入されているような気がするんです。仕事をするために遊んでいる感じです、僕は」

「起きてる時間って長いですから。その時間をどう楽しむかって生きないと。このご時世なにが起きるかわからないじゃないですか」

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話を聞いているだけでスカッとするような荒西さんのもとには、これからの生き方に迷って相談に来る人が少なくないそうだ。最近は、若い家具職人を育成することも考え始めているとのこと。

「もうね、おっさんじゃないですか、単純に。50歳の頭と20歳の頭って違うんです。世の中が変わっているのに、僕らが常に最先端にいられるのかっていったら、そうじゃないと思うんです」

「でも生きなあかんから、走らなあかん。人のしないことを先にしなあかん。そやから下の人にも、なんでも聞くようにしてるんです。社会ですよ。お互いに教え合うからこそ、社会が成り立つでしょう」

生きるために、人より先を走り続ける。その感覚がどんなものなのか、もう少し尋ねてみる。

「僕がつくってるものは、若い人から見たらダサいかもしれません。でもこの場所とか、僕の感じ方とかは先に進みたいなって思うんです。田舎にいきはったんや、見晴らしのいいところで生活して、オーダメイドで家具をつくってるんや。それが新しい、あの人に頼んだらなんでも応えてくれそうだって思ってもらいたいんですよね」

新しい感覚を持っていること。それは信頼できる人であり続けることということですか。

「そうですね。結局はね、僕は人でしかものを買ってないんですよ。この人がつくってる器が使いたいとか、あの人に散髪してほしいとか。そしたら僕も、あの人につくってほしいっていう家具屋のひとりになりたい」

「ものだけで見られると、いっぱいあるし、高いやんって言われたら高いし、しょうもないやんって言われたらしょうもない。人で買ってくれたら、そういうことを超越する。今はそういう時代なんちゃうかなって思ってるんですよね」

「だからちゃんとせないけないって、常に自分に言い聞かせてますよ。あとは正直に生きること。真面目に生きていったら、勝手に信頼してもらえる気がしてるんです。自分にとっても相手にとっても、それは当たり前なことやし、やるべきことやと思いますね」

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話を聞かせてもらったあと、工房や住居スペース、庭などを案内してもらうことに。犬の散歩で通りがかった人に挨拶をしたり、愛車をうれしそうに紹介してくれたり、時間を惜しむように歩きながら草を抜いたり。

この空間、この時間を常に精一杯生きる。それが荒西さんであり、家具を形づくる要素になっていく。なにげない会話をしながら、荒西さんのもとに仕事、そして移住者が集まってくる理由を垣間見ることができたような気がした。

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木工と暮らしの店 6[rock]
兵庫県丹波篠山市味間北947-1
Tel:079-506-2410
営業日:金曜・日曜・月曜(不定休)

文:中嶋希実
写真:伊東俊介