山の不便さの中で活かされる「クラウドオペレーション」ーー穂高岳山荘に聞く5つの質問

8月11日(金)は山の日です。山の日は、昨年2017年に施行された祝日で「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨としているそうです。このブログを読んでいらっしゃる方の中にも、連休の今週末は山で過ごすという方がいるかもしれません。

さて、山を登る人にとって欠かせないのが山小屋です。日が沈んでから暖をとり体を休める場所として、水場として、それから悪天候時の避難場としてーー。大正14年に初めて建てられた穂高岳山荘(当時穂高小屋)も、北アルプスに挑戦するたくさんの登山者を90年以上見守ってきた山小屋です。標高日本第3位(3,190m)の奥穂高岳から少し下ったところにある「白出(しらだし)のコル」(2,996m)に位置しています。

その穂高岳山荘が2015年、Squareを導入しクレジットカード決済に対応しました。「え?山でカード?」「自然界の不便さこそ登山の醍醐味なのに違和感」ーーそう感じる方もいるかもしれません。実は穂高岳山荘がSquareを導入した背景には、クレジットカード決済以上の理由があるそうです。そこで今回、穂高岳山荘を運営する今田恵さん、公基さんに、なぜクレジットカード決済を導入したのか、また、どうしてSquareを選んだのか伺いました。

どうしてクレジットカード決済に対応したのですか?

これまで、多くの山小屋では通信インフラが整っていないことや自家発電電源の不安定さにより、クレジットカードをご利用いただけませんでした。

登山をする際は、交通費や宿泊費など多くのお支払い場面がある一方で、登山中はもちろん、拠点となる場所も山深い町が多いため、現金を引き出せる機会は少ないものです。また、持ち歩きに不安を感じる場合もあります。

穂高岳山荘は、登山時のこうした不安を軽減するため、クレジットカード決済も受け付けることのできるモバイルPOS「Square」を導入しました。

Squareを選んだ理由はなんですか?

Wi-Fi等のネット回線を使ってクレジットカード決済できることが条件でした。電話回線は衛星公衆電話等がありますが、通話専用で決済に使うことはできません。

それから、これまで算盤で計算して手書きでつけていた帳簿などを全部データ管理したいとも考えていました。穂高岳山荘の最大収容人数は250人に上ります。繁忙期にはかなりの数の登山客が利用するわけですが、これをアナログで管理するのは骨の折れる作業で、早く効率化しなくてはと。欲を言えば、岐阜県飛騨市に穂高岳山荘事務所があるので、山荘の取引状況と商品の在庫を事務所とリアルタイムで共有できるといいな、とも思っていました。

Squareなら、それらが全て叶う。しかもクレジットカード決済手数料以外のコストはかかりません。売上管理や在庫管理ができるPOSレジは無料。他のサービスも検討しましたが、Squareが一番使いやすく、これしかないと思いました。

具体的にどのようにご利用ですか?

売店・昼食向け食堂に2台、宿泊受付に2台、合計4箇所で使っています。いずれもクレジットカード決済もできるPOSレジとしての活用です。

売店や食堂で取り扱っている商品や飲食メニューはPOSレジに商品登録しているので、何がいつどれくらい捌けたのかがいつでもどこでも一目で分かります。手書きで記録していた時代はそれを把握するのにとても時間がかかっていましたから・・・。

食堂では、注文が入ると厨房でオーダーシートが発行される機能と、お客様へのオーダー番号発行機能を使っています。今までは手書きで注文を厨房に伝え、お客様のお名前を聞いて、食事ができたらお客様の名前を呼んでいたのですが、これだと間違いなく注文を厨房に伝え、お客様に食事をお渡しすることができます。

山小屋の経営のどんなところがラクになりましたか?

在庫管理から事務所との情報共有、食堂のオペレーション、あらゆる部分が大分楽になりました。

これまでは勘と経験が全てでした。だから長年の経験があるスタッフに頼るところが大きく、必然的に彼らの負荷も大きかった。でも、データがあれば、誰でも昨年の実績をみて正確な発注ができます。

あとは、3,000mの高所から山の麓まで運ぶ現金が減ったのもプラスです。手やヘリコプターで現金を運ぶのはリスクがありますから、クレジットカード決済手数料は安心料と言ってもいいかもしれません(笑)

登山者の反応はいかがですか?

良好です。今はSquareをご存知の方も増えてきましたし、ご存知の方でも紙のレシートをお出ししてサインをしていただいているので、気づいていらっしゃらない方もいるのでは。クレジットカード決済は全体の一割程度ですが、現金でお支払いのお客様にとっても、キッチンのオペレーションが改善したのでプラスの貢献ができていると思います。