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【寄稿】小さいままでいる自由 --大山崎 COFFEE ROASTERS

文:大山崎 COFFEE ROASTERS 中村佳太

今から6年半前の2013年6月、僕たち夫婦はコーヒー焙煎所「大山崎 COFFEE ROASTERS」を創業した。コーヒーの生豆を仕入れて焙煎し販売するコーヒー豆の専門店で、カフェや喫茶営業は行っていない。

僕たちは創業時から決めていることがある。

「従業員は雇わず、ふたりでできる範囲で事業を行う」
「家族が暮らしていける規模になったらそれ以上の拡大は目指さない」
「毎日の暮らしを何よりも大切にする」

自分たちの手の届く範囲で、自分たちが責任を持てる範囲でお店をし、自分たちの人生を豊かに生きるために決めたことだ。僕たちはこれらを守りながら、少しずつ自分たちの暮らしを構築してきた。

2018年には中古物件をリノベーションして店舗兼住居とし、念願だった職住一体の暮らしを実現した(それまでは自宅マンションとテナント物件をそれぞれ賃貸していた)。職住一体の暮らしは、家族経営で小さな事業を行う上で時間的・身体的・経済的に最良の形だとずっと考えてきたのだけれど、実際にその通りだった。

そして今年2019年は、「暮らしのスタイル」と「お店のスタイル」の両方において、僕たちの理想の姿を完成させるための節目の年となった。

週休3日制の導入

まず、「暮らしのスタイル」としては週休3日を通常とした(店舗の営業は週2日、焙煎や配達などを含め週4日の業務としている)。昨年まで積極的に行ってきたイベント出店やワークショップを減らし、可能な限り週3日はコーヒー焙煎所としての仕事を入れないようにしたのだ。

僕たちはこの仕事が好きだし、この仕事を通して得られる経験やお店で生まれるコミュニケーションは他に変えようもない喜びを与えてくれる。でも、僕たちにとって一番大切なのは「毎日の暮らし」だ。コーヒー焙煎所は「毎日の暮らし」の一部に過ぎない。

たとえば僕は独学で哲学を学んでいて、今は主に資本主義の課題やポスト資本主義社会の姿について考えている。休日を増やすことで考察する時間や考えたことを文章にまとめる時間を以前よりも持つことができるようになった。週休3日にすることで収入は減ったけれど、僕にとっては確実に「毎日の暮らし」が豊かになったと感じている。哲学を学ぶことは僕が一生をかけて取り組みたいことで、僕にとってコーヒーの仕事と同じ程度に大切なことなのだ。しかも、考察したことを文章にしてブログやSNSで発信していたら、今年は雑誌に短い論考を寄稿したり、トークイベントに登壇する機会を得た。それらの活動を通してお店のことを知り来店してくださる方がいたり、雑誌寄稿については原稿料もいただいたので、収入面でもマイナスばかりではなかったことになる。これは結果論だけれど。

以前、ある個人店の店主に「週休3日を目指している」と言ったら、「個人店なんて週1日の定休日だけなのが当たり前だと思っていた」との反応をもらった。会社員の友人と話をしていても、「個人事業主なんて全部自分でやらなきゃいけないから忙しくて大変でしょう」と言われたことがある。これはもしかすると個人店や個人事業主に対するステレオタイプなのかもしれない。でも、僕はこれまでの個人事業の実践を通して、全ては「目指すところとやり方次第」だと感じている。

少し大きな焙煎機の導入

これに関連して、2019年に「お店のスタイル」の完成として行ったのが、新しい焙煎機の導入だった。これまで使用していた1キロ焙煎機(1キロのコーヒー豆を焼くことができる業務用機械)では、家族が暮らしていくのに十分な収入を得るためには何度も焙煎をする必要があり、それには長い時間が掛かる。ときには朝から夜まで焙煎することもあった。そこで僕たちは今よりも大きな焙煎機を導入することにした。ただ、僕たちは「従業員は雇わず、ふたりでできる範囲で事業を行う」のだし、「家族が暮らしていける規模になったらそれ以上の拡大は目指さない」ので、今回が最後の焙煎機の拡大と決めた。

そして、これらを実現するための焙煎機のサイズを検討し始めたのだけれど、これがなかなか頭を悩ませるものだった。焙煎機を大きくすればその分だけ一度にたくさんのコーヒー豆を焼くことができる。ただし、それに伴って焙煎の前後に行っているコーヒー豆の選別作業(異物や変色している豆を取り除いたり、焼きムラを減らすために行う)や梱包作業、発送業務などの量も多くなってしまう。そのためのスタッフを雇えば済む話だけれど、それは僕たちの目指すスタイルではない。

週休3日、10時~17時の業務時間で、家族が暮らしていける収入を得ることができて、ふたりが無理なく終えられる作業量を計算した。もちろん焙煎機の価格や店舗の面積なども考慮しなければならない。そして何より、新鮮なコーヒー豆(僕たちは焙煎後3日以内のコーヒー豆のみを販売している)を提供し続けられることが大前提だ。

様々に思案し悩んだ末、3キロ焙煎機を導入することに決めた。カフェ・喫茶営業を行わないコーヒー豆の専門店としては、3キロ焙煎機では小さい方だろう。でも、僕たちは自分たちの理想とする「お店のスタイル」をこの焙煎機で実現していこうと思う。新しい焙煎機は今年の11月に稼働したばかりなので、思い描いた通りの仕事になるか判断できるのは、少し先になりそうだ。

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理想のスタイルを目指して

コーヒー焙煎所をはじめようと準備していたころ、ある同業者から「大きなビジネスにするために、最初から大きな焙煎機を導入するべきだ」と言われたことがある。僕はそのアドバイスを無視した。また先日友人から、「新しい焙煎機でも足りないくらいのたくさんの注文がきたらどうするのか」と質問され、僕は「申し訳ないけど、待ってもらうしかない」と答えた。

「ビジネスは大きくすべきだ」、「お客さんの要望には応えるべきだ」という価値感。
「個人店や個人事業主は忙しく働くのが当たり前だ」というステレオタイプ。

僕はそのどちらにも違和感を持っている。もしどこまでも成長を目指すのであれば、スタッフを雇い、お客さんの要望に応えて、拡大の努力を続ける必要がある。しかし、個人事業は規模もスタイルも自分で決めることができる(もちろん経済的な制限や地理的な困難などはあるけれど、決定権は会社員より格段に多いはずだ)。

「小さいままでいる自由」、これは個人事業に与えられた特権なのだ。

同時に、この資本主義社会の中で「小さいままでいる」ためには努力が必要だ。僕たちは週休3日を定着させるためにまだまだ努力しなければいけないし、大きくなった焙煎機を十分に活躍させるためには、コーヒー焙煎家として、個人商店として、僕たちのコーヒー豆を手に取っていただくための取り組みを続けていく必要がある。

ただ、それでも僕たちは理想のスタイルに一歩一歩近づいている。「毎日の暮らし」を大切にするために、「小さいままでいる自由」を謳歌するために、これからもその歩みを続けていこうと思う。

画像提供:大山崎 COFFEE ROASTERS

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