法定福利費とは?福利厚生費との違いや計算方法について解説

「法定福利費」は、企業の経営や従業員の生活に深く関わっており、ビジネスオーナーであるならば、きちんと理解しておきたいところです。

今回は、法定福利費の基礎知識から福利厚生費との違い、種類や加入義務の有無、計上の仕方、建設業における注意点などについて解説します。



法定福利費とは

jp-blog-legal-warefare-01

法定福利費は簡単にいえば、企業が福利厚生のために支払う費用のうち、法律で義務づけられているものをさします。

具体的には、社会保険料や労働保険料のうち、企業が負担する部分のことです。法律においては、健康保険法、労働基準法、厚生年金保険法、介護保険法、労働者災害補償保険法、雇用保険法などで定められています。また、会計処理においては、勘定科目として使われます。

企業にとっては大きな支出負担となりますが、従業員が安心して生活していくために欠かせない費用でもあります。

福利厚生費との違い

会計上、法定福利費と間違えやすいものに「福利厚生費」があります。二つの違いは、ざっくりいえば「法律で義務づけられているか、そうでないか」です。

前述した通り、法定福利費は法令で企業が負担することが定められている保険料のことです。一方、福利厚生費は、企業が従業員の健康維持やモチベーション向上などを目的として、独自に行っている福利厚生制度にかかるお金をさします。

たとえば、住宅手当や通勤手当、慶弔見舞金などが挙げられます。社員旅行などのレクリエーションや、歓送迎会など飲み会にかかる費用も、福利厚生費に該当します。

福利厚生は、従業員の満足度をアップさせ、安心して働き続けられるようにするために、企業が提供する給与以外の報酬・サービスをさします。法定福利費も福利厚生費の一つといえますが、法律によって支出負担が定められているという特徴から、会計上は別々に計上します。

法定福利費の種類

法定福利費に含まれる費用には、以下の6種類があります。

・健康保険料
・介護保険料
・厚生年金保険料
・子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金)
・労働者災害補償保険料(労災保険料)
・雇用保険料

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

健康保険料

健康保険とは、従業員やその家族が加入する制度で、病気や怪我をしたときに医療費の自己負担が軽減されます。正社員は原則加入であり、パートやアルバイトのスタッフも労働条件によって加入義務が発生します。

多くの中小企業と従業員が加入している「全国健康保険協会(協会けんぽ)」では、保険料率が会社所在地の都道府県によって異なります。東京都を所在地とする会社であれば、保険料率は9.81%となります。月々の給与(報酬月額)は、その金額に応じて等級に分けられており、等級ごとに標準報酬が定められています。この標準報酬に9.81%の保険料率を掛けた金額が月額保険料です。下の表は、報酬月額が195,000円から270,000円までの等級と保険料を抜粋したものです。1等級から50等級までの表は、こちらで確認できます。

等級 標準報酬 報酬月額(給与) 健康保険料
(標準報酬×9.81%)
17 200,000円 195,000円以上210,000円未満 19,620円
18 220,000円 210,000円以上230,000円未満 21,582円
19 240,000円 230,000円以上250,000円未満 23,544円
20 260,000円 250,000円以上270,000円未満 25,506円

たとえば、報酬月額が25万円の場合、25万円以上27万円未満の報酬月額が対象となる20等級となります。20等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けて、保険料が次のように算出されます。

26万円×9.81%=25,506円

保険料は労使折半で、企業と従業員が半分ずつお金を出し合います。各都道府県の保険料率や保険料は、全国健康保険協会のサイトで確認できます。

参考:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 東京都(全国健康保険協会)

介護保険料

介護保険とは、高齢者や障害者など、介護サービスを必要としている人を支援するための制度です。40歳から64歳までの「介護保険第2号被保険者」が支払い義務を負います。全国健康保険協会に加入している場合は、全国一律で1.64%かかります。報酬月額が25万円の場合は20等級となり、20等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けます。つまり、

26万円×1.64%=4,264円

の介護保険料がかかります。こちらも保険料が労使折半であり、企業と従業員の費用負担割合は5:5です。

上述の健康保険料と合わせて報酬月額(給与)から従業員負担分が天引きされます。つまり、同じ25万円の報酬月額をもらっている人でも、年齢によって引かれる金額が変わります。

介護保険第2号被保険者に該当しない場合 
26万円(標準報酬)×9.81%÷2=12,753円

介護保険第2号被保険者(40歳から64歳) 
26万円(標準報酬)×(9.81%+1.64%)=14,885円

厚生年金保険料

老後も安心して生活できるように、老齢や障害、死亡に対して給付金を支払うための保険です。厚生年金保険料率は、一律18.30%です。ただし、厚生年金基金に加入している場合は、免除保険料率があるので、加入している基金によって13.3%から15.9%の厚生年金保険料率となります。健康保険料のように月額報酬額によって決定される等級ごとの標準報酬に掛けた金額が、厚生年金の金額となります。たとえば、厚生年金基金に加入しておらず、報酬月額が25万円の被保険者の等級は17等級となります。17等級の標準報酬である26万円に保険料率を掛けます。つまり、

26万円×18.3%=47,580円

の厚生年金保険料がかかります。保険料は労使折半で、会社と従業員は半分ずつ費用を負担します。

参考:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(日本年金機構)

子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金)

国や地方自治体が行う子育て支援サービスに使うため、企業から徴収されるお金です。従業員に負担義務はなく、全額を企業が納付します。勘違いされやすいですが、従業員の子どもの有無は関係ありません。従業員の標準報酬月額と、標準賞与額に拠出金率を掛け合わせた金額を企業が支払います。2020年4月に拠出金率の改定が行われ、現在は0.36%となっています。

参考:子ども・子育て拠出金率が改定されました(日本年金機構)

労働者災害補償保険料(労災保険料)

一般的に労災保険と呼ばれる制度で、従業員が仕事中や通勤中でケガをしたり、病気になったりしたときに補償金を給付するものです。休業中の補助のほか、障害を負ったり、死亡したりした場合にも保険金が給付されます。

アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態に関係なく、従業員を1人でも雇っていれば、企業は労災保険に必ず加入しなくてはなりません。保険料は、企業が全額負担します。労災保険率は、林業が6%、食料品製造業が0.6%、卸売業・小売業、飲食店、宿泊業が0.3%というように、業種によって保険料率が変わります。事業主は、賃金総額に業種ごとに決められた保険料率をかけた金額を納めなくてはなりません。たとえば年間の総賃金が社員、アルバイト合わせて2,000万円の居酒屋があるとします。その事業主が納める労災保険料は、

2,000万円×0.3%=6万円

となります。

参考:労災保険料率(厚生労働省)

雇用保険料

何らかの理由で離職した従業員や、育児や介護で長期休業する従業員をサポートするために、必要な給付を行う保険です。要件を満たしている場合、従業員の希望に関わらず加入するのが原則です。なお、法人の取締役は加入対象外です。

保険料率は、事業の種類によって異なります。たとえば、一般事業(農林水産・清酒製造事業、建設事業以外)の場合は、労働者負担0.5%、事業主負担が0.85%となっています。

参考:令和4年度雇用保険料率のご案内(厚生労働省)

jp-blog-legal-warefare-02

加入義務があるビジネス・ないビジネス

法定の福利厚生となっている社会保険や労働保険は、要件を満たしている場合、強制的に加入することになります。

社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)

健康保険や厚生年金保険などの社会保険は、法人はもちろんのこと、個人事業主でも一定の業種で常時5人以上を雇っている場合は適用対象となります。また、2022年10月からは、段階的に社会保険が適用される範囲が拡大されます。

これまでは従業員が501人以上いる事業所に対して、要件を満たす短時間労働者については社会保険への加入が義務になっていました。2022年10月からは、従業員数が常時100人を超える事業所で短時間労働者は社会保険の対象となります。従業員数はフルタイムの従業員と、週の労働時間がフルタイム従業員の4分の3以上になる短時間労働者を足した数です。以下の要件を満たす従業員は、社会保険の加入対象となります。

  • 週の労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

国ではより多くの人が社会保険に加入できるよう、対象者を拡大しています。2024年6月からは、さらに対象者が増え、従業員の総数が常時50人を超える事業所で上記の条件を満たすパート・アルバイトが社会保険に加入することになります。

労働保険(労災保険、雇用保険)

労災保険は、1人でも従業員を雇い入れているならば、加入義務があります。正社員だけでなく、パートやアルバイトも対象です。雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある人を雇い入れた場合に適用されます。事業規模は関係ありません。

参考:人を雇うときのルール(厚生労働省)

加入しなかった場合の注意点

加入義務があるのに、従業員が未加入の場合は法律違反となり、懲役や罰金などの罰則が科されます。たとえば、健康保険法第208条では、被保険者の届出をしなかった場合などに「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が規定されています。

法的措置や社会的信用の失墜を避けるためにも、自社は保険の適用対象か、従業員が未加入になっていないかを必ず確認しましょう。

計上の仕方

法定福利費は、企業側が負担する費用と、従業員が負担する費用に分かれています。企業側については、勘定科目「法定福利費」で計上します。また、従業員の負担分(あらかじめ給与から天引き)については、「預かり金」で処理を進めることになります。

一般的に、法定福利費のお金の流れは以下のとおりです。

  • 企業が、従業員に給与を支払う
  • 従業員の負担分を給与から天引きし、残額を従業員の給与口座に振り込む
  • 企業の負担分と従業員の負担分を合わせて、年金事務所へ納付する

「健康保険料」の項目で紹介した、東京に事業所を置く企業で全国健康保険協会に加入している場合の仕訳例を紹介します。

(1) 給与25万円(天引き額は36,543円)を介護保険第2号被保険者に該当しない従業員に支払うとき
借方科目は「給与 250,000円」、貸方科目は「預り金 36,543円」と「普通預金 213,457円」

(2) 保険料(企業分36,543円+従業員分36,543万円)を口座引き落としで納付するとき
借方科目は「法定福利費 36,543円」と「預かり金36,543円」、貸方科目は「普通預金 73,086円」

(3)給与40万円(天引き額は60,987円)を介護保険第2号被保険者に該当する従業員に支払うとき
借方科目は「給与 400,000円」、貸方科目は「預り金 60,987円」と「普通預金 339,013円」

(4) 保険料(企業分60,987円+従業員分60,987円)を口座引き落としで納付するとき
借方科目は「法定福利費 360,987円」と「預かり金60,987円」、貸方科目は「普通預金 121,974円」

法定福利費は原則として非課税です。企業側の負担分は損金として、従業員の負担分は所得税の計算の際に控除されます。

建設業の場合の注意点

建設業では、見積書への法定福利費の明示が必要とされています。下請けを中心に年金、医療、雇用保険に入っていない建設労働者が多数存在していることから、社会保険と労働保険の未加入の問題を解消するために、国土交通省では発注元に対して法定福利費を含んだ見積金額で契約するよう通知をしています。建設工事の見積もりに明示する法定福利費は、事業主負担分のみを記載します。発注者は、下請け企業から見積書をもらう際に法定福利費が含まれているかを確認する必要があります。労災保険料は元請けが一括で加入するので、下請けが見積書に記載すべき法定福利費は、以下の5種類です。

  • 健康保険料
  • 介護保険料
  • 厚生年金保険料
  • 子ども・子育て拠出金
  • 雇用保険料

見積書に記載する金額は「労務費の総額 × 各保険の法定保険料率 = 法定福利費」とします。工事ごとの労務費を算出し、法定保険料率をかけて見積書に記載します。通常、法定福利費は年間の賃金総額に各保険の保険料率をかけて計算しますが、見積りの段階では労働者の年間賃金を把握することは不可能です。そのため、見積額に計上した「労務費」を賃金とみなして、労務費に各保険の保険料率をかけて算出します。

参考:法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順(国土交通省)

法定福利費は、法律で支払いが義務付けられている福利厚生用の費用であり、健康保険や雇用保険などから成っています。福利厚生費との違いは「法律で義務づけられているか、そうでないか」で、いずれも従業員のために必要な費用です。保険料率は改定される場合もあるため、随時確認することが必要です。また、建築業では見積書に法定福利費の明示が必要ですので、該当する場合はしっかり対応しましょう。法定福利費は、法人や従業員を雇用している個人事業主にとってはある程度まとまった支出になります。従業員を雇用しビジネスを拡大していくのであれば、必ず勉強して準備をしておきましょう。

Squareなら今すぐキャッシュレス決済導入できる

カード決済、タッチ決済、電子マネー決済、PayPayのQRコード決済が簡単に始められます

おすすめ記事


Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2019年9月2日時点の情報を参照しています。2023年6月27日に一部情報を更新しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash