これからの注目は農業法人!小規模事業者が設立するメリットと注意点

Square (スクエア), ブログ編集者

1952年に農地法が制定された当時は、個人が行う自作農主義と耕作権の保護を目的に、企業の参入が制限されていました。

その後、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大などの社会状況の変化を受け、2000年の農地法改正で、株式会社など企業法人の農業参入が可能になり、少しずつ規制緩和が進められ、支援事業が充実してきています。

農業法人を活用することにより、経営基盤の強化や、いわゆる六次産業化(生産から商品提供サービスまでを一貫して行うビジネス)といった事業展開の可能性などが考えられます。

今回は、農業法人設立に興味のある個人事業主、これから農業への参入を検討したい中小企業の方に向けて、「農業法人のメリット」「農業法人の概要と法人化の流れ」「農業法人として経営する際の注意点」「農業経営者のサポート体制」について解説します。

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農業法人を設立するメリット

農業法人を設立すると、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

農業法人への参入には、農家などの個人事業主が法人化する場合と、一般の企業が農業法人を設立する場合とが考えられます。それぞれの場合について、法人化することで得られる効果についてみていきましょう。

個人事業主が法人化するメリット

個人や家族で経営してきた小規模な農家が法人化した場合、経営上のメリットとしては、経営者や従事者の意識・技能の向上や、対外的な信用力の強化、イメージ向上による取引拡大や雇用促進、事業継承の円滑化などが挙げられます。

また、制度上のメリットとして、税制面での優遇や社会保障制度の確保、融資の拡大や支援事業の活用などによる経営基盤の強化が挙げられます。

経営上のメリット

経営管理能力の向上:経営者の意識改革の促進。家計と経営の分離による経営管理の徹底、会計データなどの活用による業務改善
対外信用力の向上:法人格となるイメージの向上による金融機関・取引先の信用増大、取引や雇用の円滑化
経営発展の可能性の拡大:多様な人材確保による事業展開や業務の多角化による経営発展の拡大(六次産業化など)
労働力の安定的な確保:従業員の労働条件や待遇の向上による雇用の安定化。法人スケールによる生産者同士の連携、他業種との交流強化
経営継承の円滑化:従業員の中から有能な後継者の確保

制度上のメリット

税制面での優遇:法人税の適用。役員報酬の給与所得化による節税。使用人兼務役員賞与、退職給与などの損金算入。欠損金の9年間繰越控除(条件あり)。農業経営基盤強化準備金の活用(条件あり)
社会保障制度の活用:社会保険、労働保険の適用、就業規則など導入による就業環境の整備。
制度資金の活用:融資限度額の拡大(条件あり)や農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の活用

参考:
法人契約のメリット(農林水産省)
法人化のメリット(公益社団法人日本農業法人協会)

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一般企業が農業法人を設立するメリット

一般の企業が農業法人を設立する場合、前項の制度上のメリットを活かしつつ、現状の経営状態の改善として、下記のような形で農業に参入することにより、雇用の安定を図ったり、経営の多角化による事業展開を行ったりできる利点があります。

経営上のメリット
1, 事業の拡大、多角化
農業に関連する第二次産業・第三次産業に従事する企業が現有するノウハウを活かして事業の拡大を図る
(例)
・食品メーカーや酒蔵、飲食店、小売業者が自社農場を経営
・観光業関係者が自社農場を経営
・酪農家が飼料用作物の生産を事業化
・仲卸業者や食品運送業者が流通ノウハウを生かして参入
・肥料メーカー、農業資材などがノウハウを生かして参入

2, 雇用の維持
農業に関連しない第二次産業・第三次産業に従事する企業が従業員の雇用の維持や経営多角化のために設立する
(例)
・土木建築業、造園業者:従業員や資機材の活用維持
・IT関係:システムや開発アプリの活用、雇用維持
・製造業:社内教育の場の創出、雇用維持
・人材教育関係:受講後の教育実践の場の拡大

3, CSR活動の拡大
企業ブランドイメージを強化するため、社会的責任を果たすために設立する
(例)
・福祉事業への貢献:障害者雇用の拡大など
・地域への貢献:耕作放棄地の活用、自治体活動との連携、高齢化した農家の支援など
・環境保護への貢献:有機農業への参入、ソーラーパネルによる施設型農業、生ゴミ堆肥など循環システム農業、菜の花栽培によるバイオディーゼル燃料など

参考:企業等の一般法人の参入事例(農林水産省)

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農業法人の概要

農業法人とは、稲作などの農地を利用した農業のほか、施設園芸、畜産など、農業を営む法人の総称で、法的に定められる名称とは異なり任意で使用されます。

農業法人は、農地を取得する「農地所有適格法人」とその他に分かれる

農業法人には「会社法人」や「農事組合法人」が含まれますが、その中で農地の所有や売買ができる法人を「農地所有適格法人」といいます(2016年以前は「農業生産法人」といわれていました)。

農地所有適格法人は、農地法第2条第3項に関する以下の要件に適合する必要があります。

法人形態:非公開の株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、農事組合法人
事業内容:主たる事業が農業であること。農業および農業関連事業が売上高の過半
決議権:農業事業者が総議決権の過半を占めること
役員:役員の過半が農業(関連業を含む)に常時従事する。役員または重要な使用人のうち、1人以上が農作業に従事すること

参考:農業経営法人化ガイドブック(農林水産省)

ただし、農地を取得せず借りて農業をする場合や、畜産やきのこ栽培などの農地を利用しない農業の場合は、必ずしも上記の要件を満たして農地所有適格法人になる必要はありません。

農業法人設立を検討するときは、どのような農業をしていきたいのかを明確にして、最適な法人形態を選択することが重要です。

「会社法人」と「農事組合法人」の違い

農業経営を行う法人の形態としては、大きく「会社法人」と「農事組合法人」があります。
会社法人は、会社法により設立される営利目的の法人で、株式会社のほか、合資会社や合同会社などの会社法人があります(2006年の会社法施行以前に設立された有限会社もあります)。

一方、農事組合法人は、農業生産の協業による利益の増進を目的とする法人で、営利目的というより、協同組合のような意味合いが大きくなります。

参考:
農業法人とは?(公益社団法人日本農業法人協会)
農業経営法人化ガイドブック(農林水産省)

農業法人設立の流れ

個人経営を法人化する場合は株式会社や合同会社の設立が一般的になりますが、仲間を募って共同で行う場合や地域・集落単位での法人化を目指す場合は農事組合法人も視野に入ってきます。

また、農地を所有していきたいか、借りるだけでよいかにより、農地所有適格法人となる必要も変わってきます。

農業法人を設立する主な流れは以下のとおりです。

事前準備
基本的事項の決定(組織形態、資本金、事業内容、資産の引き継ぎなど)
類似商号の調査(法務局で同一本店所在地に同一商号の会社があるか調査)
発起人会の開催

定款の作成
原始定款の絶対的記載事項などの規定
(目的、商号、本店所在地、出資財産の価額の最低額、発起人の氏名または名称および住所など)
※株式会社で農地所有適格法人の場合、株式の譲渡制限の定めが必要

定款の認証
公証人による定款の認証 ※農事組合法人は不要

出資の履行
設立総会の開催
設立時発行株式の引き受け
出資金の払い込み、または金銭以外の財産の給付

役員の選任
設立時役員などの選任
設立時取締役の調査(出資の履行の完了、法令または定款への違反の有無など調査)
設立時代表取締役の選定
※農事組合法人は、発起人が理事を選任したときは事務を理事に引き継ぎ

設立登記
設立時取締役の調査終了日または発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内
※農事組合法人は発起人が役員を選任した日や出資の払込日から2週間以内

届け出
法務局への届け出(登記簿謄本、印鑑証明書、代表者の資格証明書の交付申請)
諸官庁への届け出(税務署、都道府県税事務所、市町村役場(税務・国民年金)、労働基準監督署(雇用保険、労災保険)、年金事務所(健康保険、厚生年金)など)
※農事組合法人は知事に届け出が必要
※農地所有適格法人として農業経営を行うために農地を取得する場合は、許可申請書を作成し、農業委員会に申請

参考:
法人の設立手続(農林水産省)
農業法人の設立(公益社団法人日本農業法人協会)

将来どのような農業を展開していきたいか、長期的な視点で法人化の目的や事業の状況を検討し、最適な法人形態を選択し、手続きをとりましょう。

農業法人として経営する上での課題

農業法人化は、個人経営や小規模事業者にとってメリットがある一方、法人として経営を続ける上での課題にも目を向けておかなければなりません。

農林水産省が2016年に行ったアンケート調査から、農業法人として経営する中で苦労した点や課題点などを紐解き、経営上のポイントをみておきましょう。

参考:農業経営法人化ガイドブック(農林水産省)

農業法人設立時の課題ポイント

農業法人を設立する際の課題については、約半数の事業者が、以下のような点でなんらかの苦労をしたと回答しています。

・事務負担が大きかった
・費用負担が大きかった
・相談相手がいなかった
・事業用資産の譲渡手続きが煩雑だった
・税理士の開拓が難しかった
・仲間との意思疎通や人間関係に苦労した

一方で、「普及センターの指導により簡単だった」との回答もあり、普段から事務手続きに慣れておくことや、適格な相談窓口を利用することによって、法人化へのハードルが下がる傾向もみてとれます。

特に個人事業主が法人化する場合、事務手続きの煩雑さにとまどうことも多いので、事前に上記のような点について問題が出る可能性があることを把握した上で、農業経営を支援する相談窓口などを活用するとよいでしょう。

農業法人設立後の課題ポイント
農業法人を設立した後に生じた課題については、約3分の2の事業者がなんらかの苦労があったと回答しています。

法人経営としての課題としては、以下のような点が挙げられています。

・社会保険の負担が増えた
・税理士への支払いが増えた
・面倒事を押し付けられるようになった
・農協との関係が希薄になった
・販路確保に苦労した
・規模拡大による管理コストが上昇した
・役員間での意識のずれが生じた

上記の課題のうち社会保険については、事業者として負担が増えるものの、労働環境の整備の観点から人材確保のメリットが大きいこともあり、総合的に判断することが重要となります。また、面倒事を押し付けられるようになったとの課題についても、地域のなかで農業の担い手として期待されているからともいえます。

その他の事務手続き上の負担に関する課題も含め、法人化後に起こりうる状況を想定しておき、早めの相談をおすすめします。

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農業経営のサポート体制

最後に、農業法人を経営するにあたり、国が進める支援事業を紹介します。支援内容は多岐にわたるため、自身が進めたい法人化や農業経営に関連する事業を見つけるのが困難な場合は、全国各地の相談所へ問い合わせてみるとよいでしょう。

農業経営相談所(農業経営者サポート事業)
全国の都道府県に相談窓口が整備されています。農業経営相談所では、農業経営上のさまざまな課題に対して、経営相談・経営診断や専門家の派遣、巡回指導などの伴走型支援を行っています。

農業経営法人化支援総合事業
農業の新しい働き方確立支援総合対策のうち、2019年度から5年間の取り組みとして農業法人化支援総合事業が進められています。前述の農業経営者サポート事業のほか、農業法人経営化支援事業、法人化推進委託事業、新規就農・労働力確保支援事業が展開されています。

農業経営法人化検討促進ツール「法人くん2017」
農業経営の法人化を検討したり、税理士へ相談したりする際に参考となるよう、法人化の影響を簡単に試算するエクセルツールです。

農業経営支援策カタログ2019
農業法人として活用できる事業や制度をまとめた施策集です。掲載されているものは2019年度版になるため、最新情報は各施策の問い合わせ先で確認するようにしてください。

その他の支援策
そのほか、農林水産省では、人財確保やキャリアアップ、農業経営指標によるチェック、法人化事例の紹介など、さまざまな情報やツールを掲載し、支援しています。これらの支援策は、年度により内容が改善されたり新設されたりするため、農林水産省日本農業法人協会のホームページを確認して最新情報を収集することをおすすめします。

この記事で紹介したサポートを上手に活用して自事業の現状把握や農業への参入の可能性を検討し、積極的な経営戦略を立てていきましょう。

執筆は2019年7月25日時点の情報を参照しています。
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