圧倒的なクレジットカード社会!韓国のキャッシュレス事情

海を挟んだ日本の隣国、韓国を「クレジットカード大国」として知る人も少なくないのではないでしょうか。96.4%(※)と世界で最も高いキャッシュレス比率を誇る韓国は、1997年のアジア通貨危機以降、政府が主体となりクレジットカードの利用を推進してきた国です。世界一のキャッシュレス比率を実現するうえで、一体どのような試みがなされてきたのでしょうか。

この記事では韓国がクレジットカード大国へと成長した背景から、国民にクレジットカードを利用してもらえるよう政府が導入した施策、そして街で見られるキャッシュレスの動向をお伝えします。

※2016年時点。一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2019」より



「クレジットカード大国」とされる韓国で、キャッシュレスはどう始まったのか

圧倒的なキャッシュレス比率を誇る韓国で、最も使用されているキャッシュレス決済手段はクレジットカードです。デビットカードの使用が好まれるイギリスアメリカとは異なり、クレジットカードが好まれるのはなぜでしょうか。

大前提として、韓国版のマイナンバーである「住民登録番号」がクレジットカードと紐づいていることから、韓国ではもともとクレジットカードが普及していました。とはいえ1997年に大きな転機を迎えるまでは現金が主流で、NTTデータ研究所の2017年の資料によると、国民のおよそ5割が現金で支払いをしていたそうです。

参考:クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会 第七回検討会資料(予備資料)(株式会社NTTデータ経営研究所 グローバル金融ビジネスユニット)

そんななか、国をキャッシュレス社会へとシフトさせたのは、1997年のアジア通貨危機です。景気が大きく落ち込んだことから、個人消費を増やすと同時に脱税防止を目的に、政府が主体となりクレジットカードの利用が推進されました。

政府が実施した施策には、大きく下記の三つが挙げられます。

1. クレジットカードでの年間利用額の20%を所得から控除

300万ウォン(2019年9月時点で約26万円)を上限に、年間のクレジットカード利用額の20%が課税所得から控除されるようになりました。期限付きで導入されたこの制度ですが、控除額を利用額の15%に引き下げた2012年以降も続いており、廃止にするか延長にするかの議論は未だ続いている状況です。

参考:第9章 韓国の動き(財務総合政策研究所)

2. 1,000円以上のクレジットカード利用で、宝くじの参加権を付与

韓国ではこの制度により、宝くじ売り場までわざわざ足を運ばなくても、クレジットカードで買い物をすることで自動的に宝くじへの参加権が手に入るようになりました。流れとしては、購入額が1,000円を超えると、レシートに抽選番号が印字されるようになっており、国民は月1回の抽選で総額1億8千万円が獲得できる、というものです。「今月は当たるだろうか」と消費者の胸を弾ませる施策で、広く世間を賑わせました。

3. 店舗でクレジットカードを取り扱うことが義務に

日本ではまだ現金払いのみの店舗も多くありますが、韓国では年商240万円以上の店舗であればクレジットカードの取り扱いが義務付けられています。つまり月に最低20万円の売り上げがあれば、クレジットカード端末の用意が必要となります。これによりコンビニエンスストアや小売店、デパートやレストランなど、至るところでクレジットカードでの支払いが可能となりました。

一方で、脱税防止の施策としては、事業者のクレジットカード取引の記録が全て国税庁に提供される仕組みが導入されました。なお、これでは現金で受け付けた決済額が把握できないことから、2005年に取り入れられたのが「現金領収書制度」です。

現金領収書制度を導入することで、現金での決済を受け付けた際に、事業者は専用端末から「現金領収書」の発行が可能になり、クレジットカードと同様、決済の記録が国税庁にデータとして送信されるようになりました。発行された現金領収書は、会計時に消費者に渡され、消費者は所得控除の申請に使用できる仕組みになっています。政府はこのように事業者の所得を把握する仕組みを作ることで、脱税防止を目指しました。

参考:キャッシュレス・ロードマップ2019(一般社団法人キャッシュレス推進協議会)

このような制度の影響を受け、各国のキャッシュレス動向がまとめられた経済産業省のキャッシュレス・ビジョンによれば、1999年から2002年の間でクレジットカード発行枚数は2.7倍、クレジットカードの利用金額は6.9倍に増加したとされています。

また、財務総合政策研究所の資料では、個人のキャッシュレス消費額のうちクレジットカードの利用は、2017年時点で75.4%の割合を占めていると記されています。実は韓国の支払い件数において最も多いのは現金です。同資料によると2017年時点では、現金での支払い件数が39%、クレジットカードはそれに次いで34%とされています。しかしながら利用金額からは、クレジットカード(41%)が現金(24%)を上回っていることがわかります。

現金は完全に排除されていないものの、国内のキャッシュレス比率は年々確実に高まっており、野村総合研究所の資料からは、2007年に61.8%だったところ、2016年には96.4%に上昇していることが確認できます。

参考:
キャッシュレス・ビジョン(経済産業省)
第9章 韓国の動き(財務総合政策研究所)
キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識(野村総合研究所)

硬貨の流通量を減らすために、銀行が実践してきた施策とは

製造に金属素材が必要なこともあり、紙幣に比べて高額な製造費用がかかる硬貨。そこで硬貨の製造コストの縮小と同時に、国民にキャッシュレスを広める試みとして、銀行は二つの施策を実行してきました。

一つ目は、2008年以降、韓国銀行が全国銀行連合会と手を組み、毎年5月に実施している 「汎国民コイン交換運動」 です。期間中は20,000を超える金融機関で家やオフィスなどで眠っているコインを紙幣に変えることができるそうです。回収された硬貨は、現金の取引が多い事業に配分される流れになっています。

財務総合政策研究所の資料にある韓国銀行の統計データによると、2008年から2017年の間に回収した額は合計で3,808億ウォン(約341億円、2019年9月時点)、コインの総枚数は28億個におよぶそうです。

参考:
韓国中銀が硬貨回収に熱心な理由(2016年6月21日、The Hankyoreh)
第9章 韓国の動き(財務総合政策研究所)

コインの回収運動に加えて、2017年から韓国銀行が試験的に始めているのは 「コインレス」というプログラムです。おおまかにいうと、試験場となるコンビニエンスストアで消費者がお釣りを受け取る際に、プリペイドカードに戻される、という制度です。韓国銀行が2016年に発表した「Action Plan for Coinless」によると、完全に硬貨を排除するのではなく、あくまでも流通量を減らすことを目的としています。

100ウォンと500ウォンの硬貨の流通高は「コインレス」開始後、わずかに増加しているものの、韓国銀行の統計データからは激しい上下変動はないことがわかっており、韓国銀行は2018年から2020年にかけて導入店舗拡大を掲げています。

参考:
Action Plan for ‘Coinless Society’(Bank of Korea)
第9章 韓国の動き(財務総合政策研究所)

韓国のまちで見られるキャッシュレスの動向

ここまでは政府や銀行の施策について紹介をしてきましたが、実際にどのような場面でキャッシュレス化の浸透を目にできるのでしょうか。

移動の手段にはピッとかざす「Tマネー」

日本では地域によって主流とされる交通系ICカードが異なりますが、韓国では全土で使用可能の「Tマネー」が国民の大多数に使用されています。地下鉄やバス、タクシーなどの移動手段に使えるのはもちろんのこと、コンビニエンスストアやファストフード店などでの使用も可能です。また、Tマネーのホームページに会員登録をすると、使用した分やチャージした分にポイントがつくようになっており、後にポイントを現金として使用できます。

Tマネーは自動販売機やコンビニエンスストアから簡単に購入できるうえ、日本の交通系ICカードとは異なり豊富なデザインが設けられていたり、お気に入りの写真でオリジナルのTマネーカードが作れたりします。

そんななか、最近ではスマートフォンを専用端末にかざすことで使用できる「モバイルTマネー」も導入されています。

ちなみにアプリではオートチャージ機能などを活用すると、券売機に立ち寄ったり、現金を用意したりする手間が省けますが、TマネーのICカードの場合、チャージは未だ現金のみのようです。高いキャッシュレス比率を誇りながらも、現金での支払い件数が最も多い理由には、このような仕組みが影響しているのかもしれません。

参考:
NFCスマホならすべて対応! 韓国地下鉄にスマホと日本のクレカで乗る(2019年05月25日、ASCII.jp)

次々とキャッシュレスに変わる韓国のスターバックス店舗

現金決済から徐々に離れつつある韓国では、スターバックス店舗が次々とキャッシュレス型に姿を変えています。The Korea Bizwire誌によると、キャッシュレス型のスターバックスが759店舗に増える予定で、国内にある店舗の60%以上がキャッシュレス型に移行していることが明らかになっています。キャッシュレス型店舗の増加が進んだ経緯として、もともと現金での支払いが減少傾向にあったことが背景にあるそうです。この影響で2018年の電子決済額は1,261億ウォンまで昇り、前年比で86.2%増加したと発表されています。

参考:60 pct of Starbucks in S. Korea to be Cashless(2019年4月4日、Korea Bizwire)

スモールビジネスがキャッシュレスを叶える方法「ゼロペイ」

クレジットカード大国の韓国ではありますが、スモールビジネスは変わらずクレジットカード手数料を懸念しています。そこで少しでも小売業者の負担を減らせるよう、2018年12月から試験的に導入されているのが、手数料を最低0%に抑えることができるQRコード決済の「ゼロペイ」です。事業者のメリットはさることながら、消費者はゼロペイで決済を行なうと、その年間決済額に合わせて最高30万円までの所得控除が受けられる仕組みが設けてあります。2020年までにはソウル市の他にも釜山市、仁川市、全羅南道、慶尚南道での導入が予定されています。

参考:第9章 韓国の動き(財務総合政策研究所)

韓国はもとは日本と同じように現金志向の国でした。ところがアジア通貨危機の打撃を受け、政府がクレジットカードの利用による税金の控除や宝くじ制度などを設けたことで、現金離れが進み、今では世界一のキャッシュレス決済比率を誇る国となりました。

次回はタッチ決済が圧倒的支持を誇るオーストラリアのキャッシュレス事情を紹介します。

▶︎▶︎▶︎オーストラリアのキャッシュレス事情

世界のキャッシュレス事情については、こちらも合わせてご覧ください。
(1) アメリカ
(2) イギリス
(3) 中国
(5) オーストラリア

執筆は2019年10月11日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash

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