2020年4月施行!改正民法が経営者に与える影響

民法が120年ぶりに改正され、2020年4月から施行されます。明治時代に作られた民法は、時代とともに移り変わっていく私たちの生活とは合わない部分が多くなってきました。今回の民法改正では、特に「債権」に関する部分が大きく変わるため、「債権法改正」とも呼ばれています。インターネット上での取引の普及といった時代の変化に対応し、消費者を守るためにさまざまな変更が加えられます。

契約に関するルールの抜本的な見直しが行なわれるため、経営者は改正点を理解し、適切に対応することが求められます。今回は、200項目に及ぶ民法の改正点の中でも、経営者として知っておきたい点を中心に説明します。

「消滅時効」の変更

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消滅時効とは、一定期間が経過すると債権などが消滅する制度です。改正前の民法では、原則として消滅時効を10年とし、医師や弁護士など職業別に3年以下の短期消滅時効、商取引に関しては5年の消滅時効が設けられていました。しかし、今回の改正で消滅時効に関する規定が一新されます。

改正民法では、原則として「債権者が権利を行使できることを知ったときから5年」と「債権者が権利を行使できるときから10年」に変更されました。

参考:民法改正の概要とポイント ― 契約に関する主な改正点 ―(国民生活センター)

「約款」に関する規定の新設

約款とは、条約や契約に定められた個別の条項のことで、保険の契約やホテルの宿泊約款など、特定多数の人を相手に画一的な取引をする際に利用されます。改正前民法には、約款についての明確な決まりが存在しません。そのため、約款の内容を巡るトラブルが発生していました。今回の改正では、「定形約款」を使用することで、一度合意をした契約者はすべての内容に合意したものとみなすことが決められました。これを「みなし合意」といい、定形約款で契約を結んだ場合のトラブルが減ることが期待できます。

ただ、定形約款を利用できる契約には制限があり、インターネット取引などのように「相手が不特定多数である場合」や「画一的な取引が合意的な場合」にのみ締結できます。

参考:民法(債権関係)の改正に関する説明資料 -重要な実質改正事項-(法務省)

保証契約の見直し

保証に対するルールも、今回の改正で大きく変わります。「保証契約」とは、借金の返済や代金の支払いを行なうべき主債務者が支払いを行なわない場合に、主債務者に変わって支払の義務を約束する契約のことです。この制度があるため、親族や知人に頼まれて軽い気持ちで保証人になった人が、多額の債務履行を求められて困るという問題が発生していました。この問題を防ぎ、保証人を守るために、改正民法では新たな規定が追加されます。

事業用融資について、保証人は公証人による確認が必要に
具体的には、事業用の融資について、経営者(と共同経営者や配偶者)以外の第三者が保証人になる場合に、公証人による保証意思の確認が必要になります。保証人自身が公証人役場に出向いて保証意思の確認を行なう手続きは非常に面倒なので、軽い気持ちで保証人になる人は減ると予想されます。この保証意思の確認手続きの中では、主債務の内容を理解しているか、代わりに支払いが必要というリスクを理解しているか、主債務者の財産について情報提供を受けているかということについて確認されます。

保証意思確認ができた場合には、公正証書が作られます。この意思確認ができていない保証契約は無効となります。

保証人への情報提供義務が新設
保証人の保護のため、事業に関する債務について保証人になることを依頼する場合には、主債務者は財産や収支の状況、主債務以外の債務の情報を提供することが義務付けられました。これは、事業用融資だけでなく、テナント料金や売買代金などの債務保証にも適用されます。

参考:保証(法務省)

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法定利率の引き下げ

契約時に当事者間で金利を決めなかった場合、「法定利率」という金利が適用されます。改正前民法では、法定利率が5%と定められていますが、これは低金利が続く現在の状況に見合っていませんでした。今回の改正により3%に下げられ、さらに3年ごとに見直す変動性が導入されます。

参考:法定利率に関する見直し(法務省)

瑕疵(かし)担保責任の改正

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民法改正によって、「瑕疵担保責任」の考え方が大きく変わります。瑕疵担保責任とは、請負契約などの際に請負側に発生する責任です。請負契約は、請負側の裁量で仕事を行ない、成果物を完成させることを約束する契約で、システム開発や不動産、あるいは下請けへの発注など幅広い分野で使われています。請負契約では成果物に欠陥がないことが前提となっており、なにか問題(バグや機能不足など)があった場合には、その欠陥を「瑕疵」として扱います。もし成果物に瑕疵があることが判明したら、依頼側は無償で修正や損害賠償請求ができます。これを「瑕疵担保責任」といいます。

瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更
今回の民法改正によって、「瑕疵」という言葉が削除され、「目的物が種類また質に関して契約の内容に適合しない(契約不適合)」という言葉に変更されました。これにより、責任の範囲が機能不足などの瑕疵だけでなく、性能や数量、操作性などの広い範囲に及ぶ可能性があります。請負契約を受ける際は、何を目的として、どのような成果物を求められているのか、お互いにしっかりと確認することが重要です。

責任を取るべき期間の延長
改正前の民法では、請負契約の依頼側が無償で修正や損害賠償請求ができる期間は「納品から1年」と定められていますが、改正後は「契約との不適合を知ったときから1年以内に通知」と変更されます。

代金減額請求
依頼側が成果物の不適合に気づき、自社で修正した場合や他社に修正を依頼した場合、請負側に支払いの減額を請求できるようになります。これは、改正前民法では規定されておらず、新しく決められたルールです。

修補請求の制限
瑕疵担保責任の一つに、「修補請求」があります。これは、納品された成果物に重要な瑕疵がある場合、莫大な費用がかかっても修補請求が可能でした。しかし、今回の改正によって瑕疵の重要度に関係なく、費用がかかりすぎる場合は修補請求ができないことになりました。

未完成時の報酬
改正前民法では、請負契約の場合、成果物を完成してはじめて報酬を請求することができました。しかし、改正後には、途中までしか完成していない場合でも、その未完成のものが発注側にとって価値がある場合には、作成割合に応じて報酬が請求できるようになりました。

準委任契約の内容追加

業務を行なうことが契約内容で、完成させることを義務としない契約形態です。民法改正で、仕事の完成によってはじめて報酬を請求できる契約形態が登場しました。

今回の民法改正は200項目にも及ぶ大規模なものです。契約に関する規定が多く変更されるため、正しい理解と準備が求められます。まずは、自社の経営に関連する部分における変更点を把握しておきましょう。


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執筆は2019年4月28日時点の情報を参照しています。
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